二話 セントラル
「じゃあ、次の街はどこに?」
「ここから近いのは、セントラルかな」
「セントラル……中央か」
「それなりに大都会だと聞いてるけど」
「魔科学研究所があるから確かに発展はしてるわ」
「まかがく?」
「何も知らないのね」
「しょうがないだろ。そんなもん存在しない世界から来たんだから」
「は?」
「魔科学ってのはね、魔法を有効利用をするために生まれたんだ」
「有効利用?」
「生活に必要なものを魔力を注いで使用するんだ。今まで風車を使用していたものを魔力で補ったりするんだ」
おれたちの世界で言う、電化製品を電気ではなく魔力で動かすってことか。
街の仕組みを見てないから、今までとかどうなってるのか分からない。
「まあ、見てみたら分かるってことだな」
「そうだね」
正直なところ、セントラルという街を見てみたいし 魔科学というものに興味がある。
「方角は分かんないから案内頼む」
「さっきも変なこと言ってたけど、どういう意味」
「ボクも詳しくは聞いてないな」
「……何も聞いてないのに一緒にいるわけ?」
「だって会ったの今日が初めてだし?」
「……意味分かんない、あんたたちの関係性」
確かに会ったばかりの人間を信じるって普通ではない。けど、おれはルゥトを信用できる。だって性格が良い奴だし、同じ牢屋にいたからな。
「おれは、異世界から来た」
「は?」
二人はポカンとして口を開いている。気持ちとして分からないでもないが、面白いくらい変顔だった。
「おれの住む世界には魔法はなくて、全ては科学で成り立ってる。電気、ガスで生活が可能。まあ、詳しいことを説明しても、ここで役立てるとは思わないから省くな」
「あんた魔法を使ってたじゃない」
「ここに無理矢理連れてきた奴がくれたんだ。まっ、能力は低いけどな」
「……なにそれ」
説明するってこんなにも難しいんだな。
ここに存在する単語、あっちにしかない単語。その相互性を理解してないうちはきっと説明が出来ないだろう。
たぶん、理解しても説明出来ないんだろうな。詳細のところまで分かってる訳じゃないし。
「トウカの住む世界に行ってみたいな」
「来ても退屈なだけだと思うが」
「そうなの? でも、行ったことがない所ってワクワクするよね」
「まあ、確かにそうだな」
それについては反論するつもりはない。確かに来たことのない場所に行くと見て回りたくなるからな。
隣の市に行くだけでも景色は変わるから新鮮な気持ちになるし。
「えっと、こっちだね」
「……ふと思ったんだが、さっきみたいな魔物って当たり前にいるのか?」
「そりゃあそうでしょ。魔物だって生きてるんだから」
「……いや、おれの所ではいなかったからな」
「町には魔物を嫌う香りの袋をぶら下げてるんだよ。それでもたまに、やって来るのはいるよ」
「そういう奴等はどうしてんの」
「大きな都市なら、兵士とかいるけど、小さな村じゃ、たまたまいる旅人とかに頼むしかないよね」
「たまに、全滅となる村もあるのよ」
「世知辛いな」
兵士を常に配備することも出来ないから仕方がないんだろうけど、なんかそれはそれでキツイものがあるな。
セントラルに向かって歩き出したが、魔物のことを聞くと足が重たくなる。
「だからね、魔科学を使えば魔物に怯える必要もなくなるんじゃないかって研究してるんだ」
「なるほど、魔科学って良いもんだな」
「……必ずしもそうとは限らないわ」
「ウィズさん?」
「呼び捨てで良いわよ。あんたも見たでしょ。魔力の暴発を」
「あー……うん。ここに来る前だね。トウカを守るために」
「べっつに、守るためじゃない。あたしの身の安全のためよ」
そういやさっきルゥトが暴発がどうのこうのって話してたな。それほど危険ってわけか。
まあ、物事には必ず悪い面が見えてくるし。
「暴発したら魔科学を使用した道具はどうなるんだ?」
「簡単に操れたり出来るみたい。噂だけどさ」
「じゃあ専門家としては、どう考える」
「……あたしは、街そのものが消えるだけの爆発が起きると思う」
魔法に詳しくないルゥトは噂を話し、魔法に詳しいウィズは、おれと同じことを話した。
エネルギーがどれだけか分からないが、何かしら街に影響は出るだろう。
「トウカのところは、そういうリスクはないの?」
「そりゃあリスキーなものはあるよ。けどそれを理解した上で利便性の良さに勝てないんだ」
ある程度、会話を続けていると草原だけの道が舗装された道へと変わっていく。しばらく歩いてると疲れていたため、誰も会話をすることはなかった。
「まだ見えないのか? かれこれ数時間は歩いたような気がする。日の位置も変わってるし」
「ヘタレ」
「うっせ。こんなに歩かねぇんだよ、おれんとこは」
「トウカの国の交通手段はなに?」
「車とか電車、または自転車だな」
「?」
「まあ、車とか電車は燃料や電気で自動で動くんだよ。疲れないけど、お金がかかったり、車は免許が必要。自転車は免許も金も必要ないが体力が必要」
「へぇー、トウカの国は面白いね」
「まあ、面白いっちゃ面白いんだろうな。便利すぎるから、堕落するところはある」
「ここでは馬車だよね」
「けど、それらは貴族じゃないと乗れない。高い料金をふんだくってるのよ、あいつら」
「まあ、馬を維持するのも金がかかるからな」
馬っていえばけっこう昔のことだな。明治時代くらいか? 人を運ぶ馬車があったのは。今じゃ特別な場所にしかないよな。
ポニー体験とか昔に見かけたことがあったが、乗りはしなかったな。ちょっと今なら馬に乗ってみたいが。
「少し休む?」
「後少しよ。見えてるじゃない。また夜に野宿するつもり!?」
「ごめん」
ルゥトはウィズの言葉にしょぼんとしていた。やっぱり朝になってたのは野宿してたからなのか。まあ、気絶してたから気にはならなかったけど。
「野宿は出来るだけ避けたいな。もう少し頑張るか」
「……うん」
「なあ、ルゥト」
「なに?」
「おまえ、ずっと寝てなかっただろ。看病で」
「それは……」
「背負ってやるよ」
「良いよっ! だって、大怪我してたんだから」
元気がないのはきっと寝不足が原因なんだろう。あの状態じゃ眠る余裕なんてないだろ。敵がいつ来るか分からなかったし。
ウィズが話すように確かに街が見えてきた。そんなに遠くないようだけど、それだけの体力があるだろうか?
「が、頑張れるから」
顔を赤くして拒絶をする。よっぽど恥ずかしかったらしい。確かに背負われるなんて意外と恥ずかしいもんだしな。
最後の力を振り絞って、おれたちはセントラルに向かった。
目に見えてるくせに、中々近寄る気配がない。疲れたと話してから、またしばらく歩くことになった。
足の裏が刺されたように痛くて、筋肉が付きそうなほどに歩いた。
「無駄な脂肪が落ちそうだな。これで、おれもマッチョマンの仲間入りだ」
「ふふ、じゃあボクも強くなれるね」
「なに言ってるのよ。歩いただけで強くなるなら旅人が死ぬ事件なんて起きないんだからね」
「なんだそれ。魔物にやられてるのか?」
「噂ではね、どっかの廃墟に旅人を襲って金品を狙ってる大男がいるらしいのよ。あたしも巻き込まれたくないから、噂の場所は避けてるのよ」
「旅人を狙ってるか。おれたちも気を付けないとな」
そんな危険な者は避けたいが、直感的に無理矢理にでも突入することになりそうなのは何でだろう。
「あ、そうだウィズ」
「な、なによ」
思い出したようにウィズの名前を呼べば分かりやすくビクッとした。なんかおれ、嫌われてる? 避けられてるようにも見えて嫌な気分だ。
「いきなり牢屋を襲うのは無しだからな。追い出されたら情報も得られないし。まずは情報と旅の準備、そして食事だ……って金ねぇし。ここの通貨どうなってんだ。おれ財布落としちまったし」
「地下道の魔物が落としたお金ならいくらかはあるから、それで良いんじゃないの」
ウィズが持ってる巾着に入ってる金属のコインっぽい音がジャラジャラと響いた。
やっぱり魔物は金を持ってるんだな。魔物を狩ってれば多少は小金持ちになれるんだろうな。
で、ある程度進めば敵も強くなり落とす金も増えるか。やっぱり旅人を狙ってるんだろうな。それでピカピカに光ってるから奪う。
「良いな、兄のことを姉のことを聞くことが優先だからな。爆発は見つけた時にだけだ」
「……いや、見つけてもしちゃダメだよ、トウカ」
「分かったわよ。見付けるまでは大人しくしてる」
とりあえずは約束を守るみたいだから追い出されることはない。問題はスワル城が指名手配を出してないことを願うばかり。
「この街にどのような用件で?」
セントラルの門前で入国監理局のような人が、高い位置から見下ろしている。
城壁のような壁が三階くらいの高さで中の様子は分からない。しかも架け橋型の門で今は閉じられている。
「観光」
場所柄厳しくするのも仕方がない。中には悪い人間だっているかもしれない。魔科学研究所があるんだからな。
「何日の滞在でしょう」
「何日くらいいるのが平均なんだ?」
「ボクはあまり長くはいません。情報がメインですから」
「あたしは滞在するだけの時間は必要ない」
「……じゃあ、二日から三日、かな?」
「……分かりました。いらっしゃいませ、どうぞ観光をご存分にお楽しみください」
意外とアッサリ審査が合格するとは。まあ見た目が子どもの集団だし、大して脅威じゃないと思ったんだろ。
扉は錆び付いたような音を鳴らしながらゆっくりと開かれた。
「おおっ」
まるで外国のような街並みが門前からでも見えた。白を基調とした建物が多く、中世のような服を着てる人が多かった。
「いらっしゃい旅人さん」
「こんにちわ」
「何か困ったことがあれば、話し掛けてくださいね」
近くを通りかかった主婦が話しかける。都会らしさがある割りに、そんなに冷たい態度はなかった。
「あー、その」
「はい」
「人が集まる酒場とか、ない?」
「酒場は、西域にしかないわね。でも、あそこは旅人さんは寄らない方が良いわ。治安は悪いから」
「にしいき?」
「西側の地域だから。東側は東域、そこはお金持ちたちが住んでて、北域には魔科学研究所があるの」
「なるほど、そういうことか。じゃあ、宿や飯を食う場所は」
「宿屋なら、緑の屋根があるところだよ。ご飯も食べられるから」
何から何まで親切だったけど、情報が集まる場所は治安が悪いのか。まあ、酒場ってガラが悪いのが集まるってセオリーだしな。
「んで? 危険を承知で行くとしても酒場ってのは夜に経営だしな」
「ボクは、治療をしながら情報を集めてみるよ」
「頼む。ウィズは一人になるなよ? 勝手に暴走されても困るし」
「し、しないわよ!」
「一緒に入国してんだから連帯だからな」
「……」
ルゥトは人の集まりそうな広間に向かった。何をしでかすか分からないウィズを一人にすることはしなかった。
「さてと、夜になるまで時間潰すか」
「どうやって潰すのよ」
「普通にあいつに流されたけど、飯食ってないんだよな。宿屋で部屋を予約して、軽く飯を作ってもらうか」
「……」
反対ではないようで、宿屋に向かうことにした。とんでもなく長いこと腹に入れてないと、むしろ満腹みたいな感覚になるんだな。
宿屋の中は質素だが温かみのある一軒家だった。女将も恰幅が良くて人が良さそうだった。
「いらっしゃい。恋人同士かい?」
「こっ!?」
「いや、三人だ。一人は今いないけど、二つで良いか?」
「そんな贅沢はいらない。同じでも良い。大部屋で」
「分かったよ。お腹は空いてるかい?」
「すっげぇ減ってる。一人外にいるから、簡単に食べられるのつくっ……いや、みんなで外で食いたいから外でも食べられるの作ってもらえないかな」
「構わないよ。今から作るから待っててちょうだい」
ウィズは意外とワガママを言わないことに驚いた。女将はキッチンに向かったため、おれたちはロビーで待っていた。
木の匂いと、美味しそうな匂いに腹が鳴る。
「外で食べるの?」
「ああ、ルゥトと一緒にな。普通の人からも話を聞いた方が良いだろ」
「そうね」
そして沈黙になる。恋人って言われてウィズは焦ったが、コロナみたいな性格の女に恋人だとか間違えられると、照れないもんだな。
普通なら美少女だから、嬉しくなるもんだが……。
意外と携帯電話の依存っないんだな。前の世界では触っていたが、今はそんなに気にしてない自分がいる。
「あー」
「なによ」
「おれ、食えるかな。初めてだ、こっちの世界の食事。まあ、旅人が泊まる宿の飯だから不味いわけはないけどさ、見たこともないのが出るのかな」
「国が変われば主食も変わるし、世界が違うんだから変わってるものじゃない」
「だよなぁ」
元の素材のことを考えなければ食えるだろうが……。あまり、食事に関しては、何これって聞かない方が良いみたいだな。
「食べれないものはないの?」
「おう、意外と好き嫌いはないな。そこだけはしっかりしてる」
どんなものでも残さず食ってきたし、意外といけるだろ。もし好き嫌いが多かったらと思うと、親に感謝だな。
「出来たよ。バスケットに入れておいたから」
「ありがとう」
「いくらです?」
「30ジリ」
「じり?」
「はい、これで」
通貨を知らないおれに代わってウィズが払った。百円玉くらいの大きさのコインが六枚女将に渡した。
「ひとつ5ジリか」
「そう。金貨は100ジリから。区別してるの」
銀貨と金貨はあるが、銅貨はまだみていない。どうやら、銀貨以下はないみたいだ。
「全世界統一の単価よ。覚えなさい」
「そうだな、必要になるし」
バスケットを受け取り、外に出て広場に向かう最中に銀貨のことを聞いた。外国と同じ単価で良いのか悩むが、紙幣はないみたいだし同じではない。銀貨は百円に似てるし、それで良いか。 バスケットを受け取り、外に出て広場に向かう最中に銀貨のことを聞いた。外国と同じ単価で良いのか悩むが、紙幣はないみたいだし同じではない。銀貨は百円に似てるし、それで良いか。じゃあバスケット三千円ってことか……高っ!!!
広場に着くと、結構な人が集まっている。本当に怪我をした人もいれば、単に話をしに来てる人もいる。
「あ、トウカ」
「飯作ってもらったから食おうぜ」
「うん!」
ルゥトは嬉しそうに微笑んだ。食事だと分かると人の波が少し減った。噴水の石の縁に腰をかけると、太ももに置いたバスケットを開く。
「サンドウィッチみたいだな」
「パーンムだ」
「ぱーむ?」
「パーンム。ここの名産でね、手を汚さずに食べられるから全世界で流行してるんだよ。わあ、美味しそう」
どう見てもサンドウィッチです。まあ、確かに汚れなさそうだし美味しそうだから良かった。
一つ手にしてみると、けっこうズッシリとしてる。重みもあり、普通のサンドウィッチよりも大きくて両手で持たなきゃ無理だ。
中身を確認するのは止めた方が良いだろうか? でも、美味しそうな匂いだし、二人はすでに食べてるし。
「いただきます」
覚悟を決めて一口を頬張った。しゃきしゃきの新鮮なレタスのような野菜とジューシーな肉汁を出すハンバーグのような組み合わせ。アッサリとコッテリの組み合わせが絶妙で、素材の旨味が凝縮され、唾液が止まりそうにない。
「なんだこれっ、うっま」
「だから、パーンムだよ。ほんと美味しい」
「こうやって、地の物を食べるのも、良いものね」
空腹にドッシリと来て、たぶん後で苦しむことになるだろうが、美味いからどうでも良い。
ほんの少しのペッパーが後味を引く。
三人は黙々と食べた。野生生物のように無我夢中で食べた。心も胃袋も満足して、一息をついた。
これで三千円なら安いほうだろ。三人分だしな。美味いし、腹一杯になるし、今までのサンドウィッチが下手になるくらいだし。
「……ふぅ、きっつ。満腹だ」
「美味しかったね」
「あんなに食べられないと思ったけど、いけるものね」
ペロリと片付けたのは空腹ということもあったが、やっぱり美味いからなんだろう。肉を食ったって感じになるし、元気になれる。
「あ、そうだ。で、なにか情報は?」
「ボクの方はなかったよ。ウィズの情報は、最近ここから別の街に移送された囚人がいるみたい。ただ、どこの街かは分からないけど」
「……そう、なの。それは、仕方がないわよね」
「酒場は、行く意味がなさそうだ」
な、と言いかけた瞬間に、北域の方から爆発音が響いた。おれはウィズを見て、それから集まっていた街の人を見渡す。
「あたしじゃないわよ!」
「だよな……、ってことは」
ざわざわとし始める街の人。爆発がどうのこうのって焦ってるところを見ると、日常的じゃないことが分かる。
「見に行くか?」
「……でも」
「怪我した人がいたら大変だよ。ボク、行ってくる!」
「ルゥト!!」
居ても立ってもいられないのか、ルゥトはすぐに爆発音の方へと向かった。
これじゃあ、残るって訳にはいかないな。
「すみません、これ宿屋に返して貰えますか?」
「あ、ああ。構わないよ」
バスケットをその場にいた街の人に手渡してから、ウィズと一緒にルゥトを追いかけた。怪我をした人がいると思えば、すぐ行動か。医者としては素晴らしいが、自分の危険を顧みないのはどうなんだよ。
爆発音の元へと来てみると、野次馬が集っていたために、ルゥトがどこにいるのか検討もつかない。
「くそっ、人が多いな」
「……もっと奥の方で爆発が起きたみたいよ」
「この人波を越さないといけないのか」
「水で流す?」
「それは全力で拒否する」
あの量の水を浴びたら、怪我だけじゃ済まないだろう。自分も食らったから、どれだけ辛いか理解してる。爆発がダメだから水は良いってことにならないからな?
少し人混みから離れた位置から見ているウィズに近寄った。
「あそこの高い場所から見てみるか」
「……うん」
外階段が見えて、鉄製独特の音を鳴らしながら見える位置にまでやって来た。螺旋になっているため、そんなに幅がないためウィズが腕が触れるほど近くにいる。
手すりに乗せた腕が細く華奢な体だと今更ながら思う。おれの方が高い位置にいるせいもあり、自分よりも背が低いことに気付く。
「……なに?」
「あ、いや、何でもない」
そりゃあずっと見ていたら怪しむよな。誤魔化すようにルゥトを捜した。野次馬がある一定のところで途切れていて、それ以上前には出ていない。危険のボーダーラインっぽいが、その危険なところにルゥトと倒れてる誰かがいた。
「……ん? ウィズ、行くぞ!」
「えっ、あ、うん」
上を見て鉄塔のようなものが、ギシギシと鈍い音を鳴らして揺れているのが見えて慌てて階段を降りた。残り数段を無視して飛び降りると、足が痺れたように痛くなった。
少し涙目になりながら、我慢して走った。
「通せ! 通さなきゃ魔法をブッ放すぞ!!」
「えっ、トウカ!?」
凄い形相でとんでもないことを叫んだため、人の波がモーゼのように割れた。後ろでウィズが驚いた声を出す。初めて名前を呼ばれたとか、この際どうでも良い。
「ウィズ! 大量の水を用意しろ」
「えっ、うん」
ルゥトを立たせ、倒れてる男を抱えると野次馬のところにいたウィズのところに向かった。
「分厚くして、あれを包み込めるほど!」
「わかった、深水の印、私はそれを契約とする」
おれが話したように水槽のようなものを作ると、上からランプのようなものが落下してきた。ちょうど、その水槽に落ちた。その衝撃にランプが割れて、水槽の中で爆発をした。その威力は水で防いだにも関わらず、強い風が吹き付けて、近くの窓ガラスが割れるほどだった。人のいるところにはガラスがなかったため、幸いにも怪我人はいなかった。
「なんだよ、今の」
「まさか、爆発?」
「……なに、今の威力」
「あの子たちがいなければ、この街どうなってたの?」
「……」
その威力を目撃した人たちが口々に呟く。伝説の魔法使いの魔力で抑えても、あの威力。どれだけの魔力を圧縮してるんだろう。
「……はぁ、はぁ」
「ウィズ大丈夫か?」
「……なんとか」
この疲労感、けっこうな力を使ったんだろう。それなのに、ランプの方が強いってことか?
「……」
「ルゥト、そいつ大丈夫か?」
「ちょっと高いところから落ちたみたい。足の捻挫だけみたい」
「そうか……」
まあ、命があるだけマシだろう。あれを水なしで爆発していたらと思うと……。
この街全部が消えていたかもしれないな。
「何があったのです」
「所長だ」
「見せ物ではありませんっ、さっさと帰りなさい!」
「今回のこと、どうなってるんだよ!? 安全だって言うから認めたんだ!」
「そうよ! どう責任とるつもり!?」
「説明は後日しますから、今は帰りなさい!」
細く身長の高い男が現れた。変に甲高い声で、科学者風な男は薄汚れた白衣を揺らして街の人を牽制した。こういうタイプって、自分が悪いとは思わないんだろうな。
街の人は文句を言いながら、各々帰っていった。
「なんだね、君たちは。あー、君が今回の騒動を起こした張本人だね」
「はあ!? ちが」
「うちの研究員にまで手を出すとは……、許しがたい」
おれたちの意見を聞くつもりはないようだ。やっぱりここでも捕まるのかよ。
兵士のようなプレートを着た男たちが集まってきた。武器を持ってるから、逆らうことも出来なかった。
「確保しろ! 研究所に忍び込む不躾な輩を死刑に!」
「なっ、急すぎだろ! 第一、この街を守って」
「世迷い言を! 聞く耳も持たない。さっさと連れていけ!」
「あたしたちは違うんだって!!」
「また、捕まっちゃった」
兵士に捕まって、腕を拘束されたまま研究所の奥へと連れていかれることになった。怪我をした研究員は置いてきぼりとなり、チラッ振り返ったら、所長とかいう奴がニヤリッと笑ったのが見えた。
「結局、暴れようが暴れまいがこうなるのね。あんたたちといると、ほんと飽きないわ」
「……ごめん、ウィズ」
「……」
「ちょっと、なんで黙ってるのよ」
スワル城よりも割かし綺麗な牢屋に閉じ込められた。今度は両手を後ろで手錠をされてるため、全員が体育座りをしている。
皮肉を混ぜた言葉をウィズが話して、謝るルゥト。
返答があると思っていたら沈黙だったことに、少し怖じ気ついているウィズ。
「……ふぅ」
「ルゥト? まだ、どこか痛む?」
「いや、考えてたんだ。あいつが、あんな風に笑った理由を」
「あいつ?」
「今回の騒動を、おれたちに擦り付けて、自分たちは無害だと説明するんだと思ってな」
「それだったら酷すぎるわ! あたしたちは助けたのよ!」
「だから、今回のキーワードはルゥトが助けた男だな」
「あの人?」
「……嫌な考え方として、あいつが爆発させようとしたんじゃないかってことだ」
「どうして?」
「そこまでは分からないが、中には魔科学を嫌ってる奴もいるだろ。そこで最先端であるここで事故を起こせば」
「……魔科学を使うものがいなくなる?」
「でもっ、下手したらあの人まで亡くなっていたんだ。そんな無茶なことするかな」
「……ルゥト、あの威力見ただろ。あんなものが当たり前に街にあり、衝撃でもあったら」
「……」
「でも、単に推測なだけだ。そうとは限らないだろ。大丈夫だって、危険なものだと知ってるのに、乱暴なことはしないだろ」
その言葉は滅茶苦茶だった。実際に爆発していたわけだし。それが、事故だったのかは分からないが。なんで、あんな危険な場所を一人でいたのか。普通なら複数で見て回らないか? ここの常識が同じとは限らないな。
「ごめん、トウカも動揺してるんだよね」
「……ああ」
「ねえ、あたしたち、どうなっちゃうの?」
「それなぁ」
今はどうやって出るのかが問題なのに、余計なことを考えてる暇はない。前はウィズが助けてくれたが……。
少し頭を下げて落ち込むように考えたがアイディアは閃くことはなかった。
「どうせ今回も助けねぇんだろ、コロナ」
「ふふっ、久しぶりじゃのう。妾のことを嫌ってると思ったぞ」
「嫌いだっつーの」
「……ねぇルゥト、あいつ何で独り言を?」
「ここに飛ばした人の声が聞こえるみたい。ボクたちには聞こえないけど」
「……ふぅん」
案の定、コロナの声は聞こえないようだ。ずっと話し掛けなかったのは、確かに嫌いだからだ。利益をくれないし、あっちから何も言わないからな、ほとんど忘れてた。
「そういや何してたんだよ、ずっと」
「エステに決まっとる」
「ブッ飛ばすぞてめぇぇぇ! 人が苦労してる時にエステで癒されてるじゃねぇ!!」
だからコイツは嫌なんだよ。人が大変な目に遭ってると言うのに……。おれもエステで疲れた体を癒したいよ。
一通り叫ぶと喉がヒリヒリと痛くなる。ああ、下手したら喉を潰してしまう。
「いつも綺麗でいたいと思わぬか?」
「おまえは性別ないんだろ!?」
「酷いぞ。愛する者が美しいと良いじゃろ? のう、上村灯架」
「フルネーム止めろ。ってか、誰が誰を愛してるって!? 嘘も大概にしろよ」
絶対にからかうことを楽しんでるな。
「愛してるって言うなら、おれを救えよ」
「嫌じゃ」
「なんで!?」
「愛してるから苦しんでるのを見たいのじゃ」
「……この野郎」
やっぱり、こいつだけは好きになれない。まだウィズのほうが可愛いげがある。
もう、しばらく忘れていよう。話しかけることも止めよう。一切信じることは止めよう。
「仕方がないの~」
その言葉に俯いていた顔を上げた。久しぶりに姿を現したコロナ、まだセーラー服かよ。どんだけ好きなんだ、その恰好。
突然として現れたコロナに二人は焦って狼狽えている。
「なななっ、急に人が」
「わあ、凄いなぁ。この人も魔法使い?」
「そんなわけないでしょ!? 転送の魔法なんてないもの!」
ルゥトは相変わらず能天気っぽくて安心した。ウィズは興奮してるようで早口になっている。
なんだ、転送の魔法はないのか。ちょっと残念。
「珍しいな姿を現すなんて」
「妾以外の女と一緒なのが気にくわないだけじゃ」
「なんだそれ」
おれとお前は付き合ってねぇし。ってか、リボンの色の違いに気付いたおれって……。絶対に調子に乗るから黙っておこう。
赤から青に変われば流石に誰でも気付けるよな?
「良いことを教えてやろう。ここはもうすぐ、いや、すでに無人となっておる」
「は?」
「街の者への弁論はさておきで、どこかに消えたぞ」
「消えたって……え? どういう意味よ。なんで、アンタが知ってるの」
「うるさい小娘じゃのう。喚くしか能がないのか?」
「なっ!?」
流石にウィズにも噛みついたか。てっきり似た者同士だから親しくすると思ったんだけどな。
「あの、消えたって……怪我した方も?」
「そうじゃ。動けなくなった男を無理矢理にな」
ルゥトには優しいようだ。そういや前の時、ルゥトの医療品を回収したもんな。
「あなたは神様、なの?」
「そうじゃ。特別にコロナと呼ぶ権利を与えよう」
「あ、ありがとうございます……?」
ルゥトはコロナの言葉に感謝しつつ頭を傾げた。気持ち的には、何とも言えない。
コロナがパチンと指を鳴らすと腕の手錠が外れた。解放された腕に血液が回りスースーとしてる。
「っつー、ほとんど痺れてるな」
「うん、変な感覚」
「それにしても、あの変人科学者! すっごいムカつく」
「そうだな。見つけてぶん殴りたいくらいだ」
「暴力はダメだよ」
「……分かってるって。そんなことしたら、また捕まるからな」
手の感覚が戻るまで動かしてると、ウィズがキレていて便乗したおれが殴るフリをすれば、ルゥトからの素早い牽制。
「で、コロナ。鍵を開けてくれると助かるんだがな」
牢屋の鍵は未だに開いてなくて、壁際にいたコロナに話すと、首を左右に振るだけで何も答えなかった。そして、数秒もするとポツリと呟いた。
「その必要はない」
「は?」
その疑問は即座に解消された。コンクリートの床を走ってる音が、響いているからなのか複数聞こえた。
しばらく待っていると、牢屋の前に何人かの人がいた。まさか、遠くに逃げたくせに処刑は実行ってことかよ?
「ここにもいない」
その不安はあっさりと打ち消されることになる。
「きみたち、ここを守ってくれた子達だよね」
「酷いな、子どもを監禁してるなんて」
「しかも、街の英雄を! あいつ、どこに消えたんだ」
「今、出してあげるからね」
どうやら街の人のようだった。説明をすると言った所長を信じることが出来なくて、直談判しに来たらもぬけの殻となっていたようだ。
「きみたち、所長を知らないかい?」
「……見付からないなら、逃げたんじゃないか? おれたちを、この事件の責任者に仕立てて処刑しようとしてたからな」
「なんだと!? 勝手にそんなことを決めてたのか!」
「やっぱり私たちは騙されてたんだわ」
「騙された?」
「こんなとこで説明することじゃないね。今、出してあげる」
どこからか見付けてきた鍵で扉を開く。やっと密閉空間から脱出出来て、捕まっていた皆は揃って息を吐いた。
そして、久しぶりのお日様の下へと戻ってきた。
場所は東域の一番豪華な屋敷へと案内された。
広間に通されると、絢爛豪華な調度品がばかりで目がチカチカとしてくる。
「……東域と中央って、そんなに毛嫌いしてないんだな」
「中央? ああ、噴水がある地区も東域なんだよ、一応」
「なるほど」
噴水広場で見かけた人も広間に集まっていた。そんなに仲が悪くないんだと思って聞いてみたら、あそこも東域になるのか。なんか不思議だな、商業区って感じだったのに。
「西域はね、元々が北域に住んでいた人たちなの」
「ん?」
「突然やって来た科学者たちが、北域の人たちを、ほとんどスラムとなっていた西域に追いやって北域に研究所を作ったの」
「反対、しなかったの?」
「最初はしてました。でも、犠牲があるからこそ未来の利便になると」
「……何それ、酷いよ」
「犠牲のもとに生まれた利便が、実際は街を破壊する可能性のある兵器か」
「……」
ショックを受けるルゥトとは別に冷静に答えた。そりゃあ、怒りをどこにぶつければ良いのか分からないよな、本人はいないんだし。
「危険だとは話さなかった。安全だからと、私たちでは理解の出来ない難しい言葉を使って」
「……詐欺の手段じゃねぇか」
何となく凄いから、何となく安全だから。専門用語を呟けば納得せざるを得ない。
椅子に座っていたおれは腕を組み背もたれに力を込めると、ぎしりと木の音がする。
「西域の人たちは毎日のように抗議をした。けど、聞く耳を持たなかった。日に日に荒れていって、今では……」
危険なほどに荒れ果てた場所になった、か。
「私たちは、旅人に真実を告げることを禁止されました。事実上、この街の長は、所長となりました。逆らうものは、研究所に連れていかれ、帰ってはきませんでした」
「……」
胸くそ悪い話だな。あいつのことだから実験台に使用した可能性もある。
「どっちもどっちだな」
「え? どうしたの、トウカ」
「いや、さっきの推測な。魔科学の危険性を知らせるためにやったとしたら、その反勢力みたいなやつも同類だよな。人の命を何だと思ってるんだよ」
「……あ、そうだね。下手したら、街のみんなが危険だったもん」
「その推測が事実とも限らないけどね! 単なる事故かもしれないじゃない」
「……落ちてきた奴か? あいつ、最近、入国した旅人らしいぞ」
「……確定だな、ウィズ」
「みたいね。皮肉だわ、魔法をあんな形に使うなんて」
「物事には、裏もあるってことだ。良いものは人を傷付ける。毒草が薬草になるのもあるように、調理用包丁が人を殺す凶器にもなる」
もしも爆発に反応しなかったら、好奇心を出さなかったら、おれたちは死んでいたかもしれない。
「これから、どうするんですか」
「研究所を壊すよ。こんなこと二度とあってはならない」
「一応、大事な物は持って逃げたとは思うけど、危険じゃないか?」
「……そう、だな」
「ウィズ、おまえ魔力の探索とか出来るか?」
「一応、魔法使いだからね」
「じゃあ、探索してくれ。ルゥトは危険な薬品とか分かるか?」
「うん、医者見習いだからね。薬品の知識は頭に入ってるよ」
「じゃあ、慎重に調べてくれ。危険だと思ったら絶対に触るな。おれは、この研究所を見て回って何か書類でも落ちてないか調べる」
「トウカも気を付けてね」
「あんた、巻き込まれやすいんだからね!」
「分かってるって」
やることが決まり、先に屋敷を出たルゥトとウィズ。残された人たちを見ると、これからどうするかと困った顔で相談をしていた。
「ゼロからのスタートじゃないんだ。人がいる限り、そこはまだ終わりじゃない」
「え?」
「おれの慕ってる人の言葉。人がいる限り、その街は発展し続ける。諦めない限り、花はいつでも咲き誇る。おれは、ここの名物、パーンムが消えなくて良かったと思う。また、食べに来たいし」
「……ありがとう。今度はとびっきりの美味しいものを用意するよ。新しい名物をね!」
元気のない宿屋の女将に笑顔が戻った。それを見たら自分の表情も綻び、頬が緩んだ状態で街を出ていた。時々、どうしようもなく元の世界のことを思い出したくなる。思い出そうとしてるわけでも、忘れたいわけでもないのに。
「……おれ、誰かに頼られてるんだな」
外に出て、眩しい日差しに手を翳す。自分の顔に翳りが生まれる。心か、はたまた不安か……、そのどちらかは今のおれには分からない。
いつになったら、心を奪われるだろう。どのタイミングで盗まれるだろう。まだ、おれは、この世界を守りたいと懇願することはなかった。
自分の吐息と、時々聞こえるエンジンの音に似た何か。掃除不足で塵になった埃の山、触れられてない場所だからと探索を止めるか悩んだが、敢えて調べることにした。
テーブルの上には、何に使われたか分からない細長い道具と、文字も掠れた書類があった。
埃を払って持ち上げてみたが、咳き込む以外に何もなかった。
「……やっぱり、ないよな」
暗闇でろくに見えない室内を壁に手を当てながら歩くと、歯車が動くような音がした。
自分の手を睨むように見ると、ボタンのような出っ張りがあった。
そのボタンのあるところの真横の壁が大きな音を立てて開かれた。振動で建物が軋むような音を鳴らして、暗かった部屋に光が射し込んだ。
「まぶしっ」
その一時の明るさはすぐに落ち着き、それすらも凌駕するものに目を奪われてしまった。
暗闇からの明るさは犯罪級の辛さだが、そんなものが気にならないほどの圧巻。
壁全体に埋め込まれた本棚に、大量の本。そりゃあ本棚だから、本が入ってないとおかしいが、とんでもないほどの量。図書館にでもいるような感覚になっている。
「……すっげぇ」
素直に驚く。もう少し言葉を選べば良いと思うが、選ぶよりも先に口に出ていた。
真っ赤な絨毯に、アンティーク調のテーブルに置いてあった本はそれほど古くはなかった。
「生け贄の城……?」
また随分な名前を付けた本だと思った。言葉が通じたり、読めたりする驚きは今更だから気にしないことにしてる。
著者は書かれてなくて、真っ黒な布地に白い刺繍で書かれたタイトルがおぞましい雰囲気となっている。
触れることに暫し迷いが生まれたが、やはり人は好奇心には勝てないんだ。
「……日記、みたいだな」
予想外の内容に少し期待はずれのため、小さく舌打ちをした。期待するだけ無駄だと理解していたが、読み進めていくと興味を注がれる内容となっていた。
「噂の大男?」
広場で合流して、勝手に本を持ってきて説明をすると、噂をした当人のウィズが反応をした。
「噂によれば、その大男って強盗みたいなことしてるんだろ?」
「ええ、旅人から荷物を奪い取ってるって」
「この著者は、一言も寄越せって言われてないみたいだな」
「そのことと、今回のどういう繋がりがあるのよ!」
「これが隠し部屋のテーブルの上にあった。そして、この中身に、魔科学のランプに似た描写があったんだ。ほら、ここ」
「……その大男は私を引っ張った。殺されるかと思ったが、不思議な洞窟に着いた。そこに大量のランプが落ちていた。普通の火を灯すランプのようだが、触ると妙に温かい。いや、熱いと呼ぶべきか……魔力を込めた道具は、しばらくは熱を発するのよ。それは何年もね」
おれが指差した部分を読み終えたウィズは、魔力の道具について説明をする。難しい顔をしていて、声のトーンが少し低くなる。
「放出するために、熱を発するの」
「放出って、魔力をか?」
「勿論よ。他に何を放出するってのよ」
「……っ!!」
相変わらず憎まれ口を叩く奴だ。少しはマシになったかと思えば、簡単には変わらないみたいだ。
「魔法を使わないおれらには非常識なんだ!」
「……あんた、魔法使ってたじゃない」
「コロナがここに来るときにくれたけど、力が全くないんだよ。全然な」
「……単に才能ないだけじゃない」
「コロナと似たようなこと言うな!」
「もう、ケンカは止めて。それで、ボクたちは、その廃墟に向かうの?」
「ああ。ランプがあったんなら、所長たちが向かうのはそこだろ」
「なんで行くの?」
ルゥトがふと聞いてきた。なに言ってるんだよ、そりゃあ殴るためだろ?