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悪夢襲来②

「今回は、高火力で一気に殲滅していただくこととなります」


ラウラと契約書のサインを行なった後、シキはギルドの外へと出てタチバナたちと合流していた。

シキ、というよりカフェ・ミズホメンバーの役割は先鋒にして異世界の魔女であるシキを筆頭に置いた最大火力という役割だ。

シキたちが焼き払った後の掃討戦が、他の冒険者たちの役割となる。

とはいえ、シキだけにそれをさせるわけにもいかないので、高い威力の火炎系魔術が使える魔術師は先鋒として駆り出されている。

その一団の先頭に、今回の作戦指揮をとるギルドの女魔術師がいる。

彼女は風系の魔術師なので、炎が予想外の場所に飛ばぬように、また100名は超える団体の連携をとるための連絡役を務めるとのことだ。


「また、地中に巣を作っていた場合を考慮し、土系魔術師は地中の探知を怠らぬよう、お願いいたします」


風の魔術で声を広範囲に響き渡せて作戦の説明をする彼女の声を聞きながら、シキたちは自らの装備の最終チェックを行なっていた。

なお、シオンはお留守番だ。

ネルトゥスと共に、店で夕食を作りながら待っている。


「シキ、暦は今はどうなっていますか?」

菖蒲華あやめはなさく。火と風、水の混合で割合的には6:3:1くらいかな。梅雨が明ければ、完全に火になるけど、今は混ざっちゃってるね」

「とはいえ、火に偏っているのは助かるな。アレは焼かないと、死体に残った卵からでもまた増殖するからな」


アレ、とは今回大量発生し討伐対象になったマギコックローチだ。

簡単に言えば巨大ゴキブリ。

しかも、弱いとはいえ魔法でなんだかよくわからない液体をふっ飛ばしてくる、生理的嫌悪以外何も浮かばない魔獣だ。

今回のこの討伐軍の参加者たちの顔色は一様によろしくない。

当然と言えば当然だが。


「巣穴はどこだって?」

「地中の洞穴かも…魔術師が探知魔術かけてる」

「蒸し焼きにする?蜂みたいに」

「ヤツらのほうがしぶといじゃない」


そこら中の魔術師やその護衛の冒険者たちが、どうアレを見ないで討伐できるか、という不毛な相談をしている。

男女共に、だ。

シキも本音を言えば見ないで討伐したい。


「……太陽と同じくらいの高熱であたり一帯焼いたらダメ?」

「ダメです。却下です。何物騒なことしようとしているんですか、シキ」

「えー」


うつろな眼差しで、大量発生が確認された林のある方角を見やるシキがそんなことを呟いた。

周囲の女性陣はいっそそうしてくれと思っていたが、それをやったが最後、周辺の被害が凄まじいことになるので却下なんだろうな、と理性の部分で諦めが入る。

タチバナも、冗談と本気が半分ほどづつ混ざり合ったその言葉に、慌てて却下とツッコミを入れる。

タチバナだって、アレを切るのも刺すのも嫌なのだからその考えはわからないでもないが。


「巣、発見!林の中心、地表部分です!!」

「洞穴じゃないのね?」

「はい。どうやら中心部の廃墟を根城にしているようです」

「廃墟?廃墟なんて、あったかしら……」


指揮官が首を傾げた。

風魔術で声を拡散しているため、その呟きもシキたちの下へと届く。

林の中、見つからなかった廃墟。

こんなにも街の近く、それも初心者から上級者まであらゆる冒険者が集う都市の近くの林で、そんなことがありえるのだろうか。

思わず、シキたちも首を傾げた。

何かが、引っかかる。


「あの場所で、魔獣の寝床になるようなサイズの廃墟が見つからないって、ありえる?」


シキのその質問に、カレンもフィリーも首を横に振る。


「ありえないわね。私たちも何度か行っているけれど、そんなもの無かったわ」

「あぁ、無かった。あそこに出るのはアレと角持ウサギとか、ゴブリン、スライムだから、初心者が慣れるために行くことが多い。森のほうが採算はいいとはいえ、運が悪いとサイレントボアに当たるからそれを避けた訓練としてあの林周辺は使われているはずだ」


つまり、あの林には多くの人間が入っていると言うことだ。

だというのに、見つからないとなると。


「隠されていた?」

「恐らく、そうでしょうね」

「……すっごく、すっごぉぉぉぉく嫌な考えなんだけど」


しかめっ面で前置きを置いたシキは、げっそりといった状態でとある憶測を口にした。

予想どころではなく、ただの想像、妄想の域をでないものだが。


「戦争の、置き土産」


その一言で、タチバナはピンときたらしく眉を顰める。


「遺物、ですか」

「うん。何らかの要因で解除されて、そこに連中が住み着いた。そしてその遺物の残りに影響を受けて、増殖した。確率的には引くいかもしれないけど」

「ありえない、と切って捨てるには少々心当たりがありすぎますね」


特に、遺物の封印を解除して回っているという女がいるのだ。

その女がブリーキンダ・ベルだったとして。去年の今頃、東大陸に渡るその前に、解除していったとしても不思議でもなんともない。

ましてや、その封じられていたのがヴィンフリートのような魔王の雛とでもいうべき存在だったのなら。

ラグは、大打撃を受けていたはずだ。

そしてそれは、あの女の望むところである。


「報告しておく?」

「今は不安材料を振りまくこともないでしょう。後で報告書にでも添付すれば、捜査隊が結成されるはずです。それに任せましょう」

「ま、アレはさっさと焼き尽くしちゃえばいいわけだしね」


そうしてシキが振り向いた先には、出発の合図である旗が降られ、それと同時にラッパが派手に鳴らされる。

シキたちは先鋒。

偵察部隊の報告と同時に、高火力の一撃を叩き込まなければならない。


「じゃ、いきますか」


軽いシキの一言に、三人ともが頷いて歩き出した。



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