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カレンの呟き

私の名は、カレン・フォン・ヴァサーリーリエ。

いや、リヒトシュタートの貴族位は返上するから、カレン・ヴァサーリーリエのほうが正しいだろうか。

国に盲目的に従うもの以外が力を持つことを拒むあの狂信の国から逃走し、早くも二か月が経過しようとしている。

四季の魔女に拾われ、ギルドや交易都市国家ラグに様々な手続きをお願いして、いまだ結果はわからないがなかなかに平和に暮らしている。

シキのこの世界ではちょっと変わったカフェ『ミズホ』。

ここで接客をするのにも、いくらか慣れた。

ここの街の住人達、特にギルドの職員たちはここのお茶がとても好きらしい。

昼時になると、タチバナが言った通り戦争だ。

お茶や、最近東大陸から輸入され始めたと言うコーヒーを淹れるだけだと侮ってはいけない。


特に、今の季節が冬の終わりということも災いしているらしいが、温かなお茶を淹れるにはそれなりに時間が必要だ。

作り置きできるのはアイスティーなどの冷たいものくらいで、それ以外は注文を受けてから淹れる。

もちろん、同じ注文が重なればまとめて一気に淹れたりはするが、そうでないと一杯づつ専用の茶器を使いながら淹れる。

あぁ、チャイやココアはまた別だな。あれは鍋で淹れるし。

まぁ、とりあえず目も廻る忙しさだ。

私もフィリーも、まだ茶を淹れさせてはもらっていないが、客ごとに番号を渡し、それに対応した茶の準備を待ちながら、ランチセットや追加注文の軽食などの簡単な盛り付けや温めるなどの調理?が入る。持ち帰りの人が多くを占めるが、そうでない人も結構いるからな。食器もたまる。

持ち帰りの人は、紙製のカップか、タンブラーと呼ばれる水筒?をこの場で買ったり持ってきたりしてお茶やコーヒーを持ち帰っている。

個人のそのタンブラーがあるから、余計に番号や注文を間違えられないし、会計もその場で行うから暗算スキルがひどく磨かれた気がする。

もちろん、間違えるわけにはいかないので注文用紙に番号と金額を書いて計算しているが。


そんな中、私やフィリーが楽しみなのは試食だ。

カフェ・ミズホではちょっと変わった暦を採用している。

元々は、ミズホという名も、その暦もすべてシキの故郷のものなのだ。

なんでも、この暦はとても古いらしく、今では一部しか使用されていないとのこと。

だが、思い出してほしい。シキの異名は『四季の魔女』だ。

四季ごとに、下手をすれば日々魔法は変化を続ける。

今は冬だから水や氷に関する魔法が使用できて、炎に関する魔法は一切使えない状態なのだそうだ。

夏になれば炎、春には風、秋には木。他にも細かく分かれているらしい。

そんな魔法を持つが故に、その暦を利用して今、自分の魔法がどういう属性や効果を帯びているのかを区別しているのだそうだ。

暦の名を『二十四節気』と『七十二候』という。

その暦にあわせて、このカフェのメニューも変化している。

弱点をさらしているように思えるが、そもそも無詠唱で発動されるシキの魔法はなかなか対策が立てずらい。

たとえ大掛かりな対策をとってきても、準備のために過ぎた期間で属性は変化し、その準備が全てパァになる。

どうしろと。


……話が逸れた。

とりあえず、その暦にそってメニューが変化する。それの試作を食べられるのがひどく楽しみなのだ。

この季節、たまらなかったのはシナモンがガッツリ利いたアップルパイもさることながら、豆がたっぷり入ったマメダイフクだ。

豆茶に使う豆とはまた別の、このあたりではよくパンに練りこんでいる豆を使用しているのだが、それを東大陸から仕入れたコメの別バージョンだというモチゴメを練ったものに混ぜ、赤紫色をしたアズキという豆を甘く煮て作ったアンコというものを包んだものだ。

これがまた、どっしりとした見た目と違いさっぱりとして美味しかった。

表面をすこし焼いてもいける。

ほんの少しの塩みが甘さを引き立てた柔らかな味だ。

紅茶よりもチャイ、チャイよりもコーヒーに合う味だと思う。

見た目が慣れぬ者には引かれ気味らしいが、シキの故郷では当たり前に食されていたらしいし、東大陸にも似たようなものがあるらしい。

東大陸のものは小麦を練ったものを蒸しているらしいが。

それも作ってもらおうか……。


それから、飲み物だとクズユと呼ばれているものがフィリーの好みだったようだ。

雑草の如くしぶとく何処でも生えることからここから北の山岳地帯にある国でよく使われている救荒食糧で、また風邪薬の原料としてよく登録したばかりのルーキー冒険者が採取依頼を受けるこのクズなのだが、根っこを乾燥させて精製したものがスープのとろみ付けに使えるので市民にもよく出回る食材でもある。

それに砂糖を加えてゆっくり加熱。透明になるまで練ってできる飲み物だ。

作る過程で、ショウガやユズジャム、緑茶を粉にした抹茶を混ぜると、また風味が変わっておいしいのだ。

ちなみにフィリーが好んで飲んでいるのはショウガの摩り下ろしを混ぜたものだ。


美味しく作るにはコツがいるので植物の扱いに長けたタチバナがよく作っている。

薬の加工と工程が似てますからとか、呟いていた気がする。

確かに原材料は風邪薬と同じなのだが、納得できないのは何故だろうか。



……ん?

リビングからよい香りが。

そうか、もう夕食の時間か。

今日は寒いから白身魚と冬野菜のごった煮にしようと言っていたな。

うかうかしていると食い尽くされかねん。

シメはリゾットがいい。フィリーはパスタと言うだろうが、これは譲れん。

は?うどん?なんだそれは。

ちょ、シキ、そのうどんとやらもちゃんと食べるから私の分を抜くような真似はやめてくれ!!



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