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兄、襲来。

昼下がりのカフェ・ミズホ。

昼食の戦場も落ち着きを見せていた。


「やぁ。元気そうで何より」


美しいプラチナブロンドの髪をロングストレートのオールバックにし、笑みで細めた瞳は碧眼。

品のよい出で立ちながらも背負った弓は使い込まれ、歴戦の戦士であることを物語る。

エルフである。

特徴的な長い耳には鮮やかな羽根のついたイヤーカフが一対揺れている。

ひらり、と突如店にやってきたエルフの青年を見るなり、フィリーはガションという派手な音を立てて皿を一枚破壊した。


「に、ににに、兄さん!?」


眼を白黒させるフィリーに、現われたエルフの青年を見た瞬間店員、客を問わず誰もが感じていた感覚に納得する。

確かに、フィリーを男にすればこうなる。


「まったく、一年連絡がつかないと思えばいきなりホーローの携帯ティーセットなんて送りつけてきて。嬉しかったけど、僕たちからしたら、ちゃんと無事だと顔を見せて欲しかったくらいだよ?」

「いや、あの、兄さん、どうしてここに?」

「可愛い妹の顔を見に来るのがいけないことかい?あと、僕、結婚したからその報告」


これ、お嫁さん。とフィリーの兄の後ろから、一歩出てきたのは幼さを残した少女。


「こ、こんにちは。コーネリアと申します」


緊張しきった動作でお辞儀をする彼女は、どう見ても成人(15歳です)を過ぎたばかりくらい。

栗色の髪は綺麗に一本の太い三つ編みにされていて、耳には兄と同じ羽根飾りのイヤーカフス。

ハーフエルフを含めたエルフ族の婚姻の証だ。

兄と、コーネリアと名乗った少女、二人を見比べてフィリーは絶叫した。


「犯罪じゃないのバカ兄ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」





ライナー・リーヴ・トーン

弓の名手であり、神樹の守護者の一人であり、トーン一族の長候補最有力。

そして、フィリーの兄だ。

兄、といっても実は半分しか血は繋がっていない。

ライナーは真性のエルフで、フィリーは母親が人間のハーフエルフなのだ。

とはいえ兄妹仲は良く、ハーフだからといって特別迫害されることはなかったが。

そんな彼の見た目の年齢はフィリーの数歳上くらいに見える。

が。


「分かってるの、兄さん。自分の年齢」

「ん?わかっているよ?まぁ、見た目は問題ないじゃないか」

「実際は百歳越えてるジジイでしょう!!」


バシン、とフィリーが床を思いっきり叩いた。

のんびり話せばいいよ、とシキによってリビングに通されたライナー、コーネリア、そしてフィリー。

目の前にはお茶請けとして出された草餅と、緑茶が湯気を立てている。


「あ、あの……」

「あ、あぁ、貴女が嫌という訳じゃないのよ?今まで嫁を迎えろって散々いわれていた癖に逃げ回っていたバカ兄の所に来てくれたことは、本当に嬉しいのよ」


フィリーの剣幕に、おろおろとコーネリアがライナーを見たりフィリーを見たりと慌てる。

その様子に、小動物的な何かを感じつつフィリーは笑顔で否定したいわけではない、と言った。

実際、そう、例えるならば雛鳥みたいというか、そんな雰囲気の彼女は可愛いらしい。

引っ込み思案なのか、ライナーの後ろに隠れがちなようだが、挨拶はちゃんとしているし。

落ち着くためにフィリーは草餅をひとつ口にする。ヨモギの香りが鼻を抜け、その後に粒餡の控えめな甘さが舌に残る。

うん、今日もシキのおやつは美味しい。


「コーネリアさんも、どうぞ。うちのマスター特製のクサモチよ」

「クサ、モチ…ですか?」

「ヨモギって、分かるかしら」

「は、はい、薬草の一種ですよね?えっと、艾葉ガイヨウだった、かな」


コーネリアは、薬士だという。

母が凄腕の薬士で、幼い頃から習っていたと言うが、薬草としての名前と流通の際に一般的につけられている名前と一致しない時が多々あるようだ。

まだまだ修行中、というところだろう。


「そうよ。それを茹でた後に摺ったものを練りこんだモチよ。モチっていうのは東大陸や異世界の食べ物のひとつね」

「へぇ、本当にこのカフェで働いているんだねぇ。うん、美味しいよ」

「兄さんは食べていいなんて言ってないわ」

「酷くないかい?」


フィリーがコーネリアにクサモチの説明をしている最中にもかかわらず、ライナーはそれなりに早いペースで草餅を口にする。

一つ一つが小さく作られているし、餅自体がしっかり噛まないと上手く飲み込めない代物なので即座に無くなりそうではないものの、このままでは彼女の分はともかく自分の分が無くなりそうだ。

無くなったらなくなったで、シキにお願いすればいいのだが。


「あむ…」


コーネリアが一口、草餅を頬張る。

慣れない感触で苦戦しているようだが、苦手な味、と言うわけではなさそうだ。

いや、むしろ幸せそうにきゅぅ、とした笑顔になる。

何コレ本当にこの子小動物的な可愛さしてる。


「お、おいしい…艾葉って、お薬以外でも使えるんだ…」


思わず、といった感じで呟くコーネリア。

その頭を、ライナーが軽くなでた。

普段から当たり前のようにされているだろうその仕草に、本気で兄がこの少女に入れ込んでいることが分かった。

この兄は、軽めの言動をしているが責任感はさり気なく強い。

一族の次期長の最有力候補という看板に引かれてやってくる女ばかりだったせいで、少しだけ女嫌いの気もあった。

その中で手に入れた見るからに純粋だと分かる彼女コーネリアは、可愛くて可愛くて堪らないのだろう。

見せ付けられる形になったフィリーは、一つため息を零す。


「とりあえず、兄さん」

「なんだい?」

「結婚、おめでと」

「ありがとう、フィリーネ。君も、無事で良かったよ」


照れたように笑う兄。

その姿は、本当に幸せそうだった。


ライナーさんの実年齢は、124歳です。見た目は23、4くらいですが。

コーネリアちゃんは15歳。ライナーと出会ったときは12歳でした。

うん、ロ…ゲフゲフ。


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