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とある騎士の青年の呟き

【シュッツヴァルトのとある青年サイド】


シュッツヴァルト騎士団第18部隊隊長シュノ・イナモリ・オルトゥルフが人魔王を下僕化もとい魔王と契約を交わし、配下においてから。

一般市民には知られることはないよう厳重に情報規制がなされたが、シュッツヴァルトの上層部は荒れに荒れ…なかった。

魔の森を押さえつけるだけの強さを得ることを第一に考えるこの国では、手に入った戦力がどんなものであれ裏切らない限りは受け入れるのだ。

が、他国はそうはいかない。

通信魔術を利用した会談の結果、魔王にはシュノ隊長との契約以外にももうひとつ枷を、この国自体にも過剰戦力となりかねない魔王を配下においたことによるペナルティが決定した。

今日は、その枷となるべき契約を執り行う人物がこちらに来る日なのだ。


魔術師たちが用意した都市国家ラグと繋がる転移陣の発光が収まると、出てきたのは黒髪、黒目の女性と、彼女の護衛だろう狐獣人の青年と、恐らく冒険者だろう女性が二人。

誰かが、小さく囁く。


「四季の魔女だ」


四季の魔女。

現時点で魔王さえも単騎で押さえ込める唯一の存在にして、異世界から無理矢理連れ去られてきた、被害者。

最近、ラグの名誉貴族になったと聞く。

おそらく、この人選は元異世界人であるシュノ隊長を慮っての配慮と、そして魔王を押さえ込めるぞという意思表示なのだろう。

魔女本人がどう考えているかは別としても。


「ラグより参りました、シキ・フォン・フェルンヴェルトと申します。異名は『四季の魔女』。後ろに控えますのは、わたしの……夫君となります『魔女の騎士』タチバナと、護衛であり友人である冒険者『睡蓮の騎士』カレンと『風弓』フィリーネでございます。短い滞在ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」


一瞬なにか詰まったようだが、きびきびとした動作で挨拶をする四季の魔女。

通常時は喫茶店のマスターとして生活しているようなので、しかたないかと思う。

彼女の魔法によって魔王に枷をするので、慣れぬ環境ではあるだろうが耐えてもらいたい。


「お久しぶりです、シキさん」

「お久しぶり、シュノちゃん。スイちゃんも。大金星だね?」

「あ、あはは。まさか僕もこうなるとは思っていなかったです。そうだ、シキさんが滞在なさる間の世話とか、僕の部隊が担当するので」

「あぁ、気にしなくていいよ。こちとら小市民…っていえないけど、いえないけど、身分とか気にしないから」

「あは、確かに。言えませんね。けれど、助かります。この後、王へ親書を渡していただいて、間をおいて夜は晩餐会ですから。先に荷物だけお預かりしますね」

「うん、お願いね」


まるで友人のように。というか、友人なのだろう。

時空の裂け目を封じる結界のベースを作ってもらうためにシュノ隊長は四季の魔女を尋ねていった。

同じ魂の故郷を持つ人間同士として、そして気の合う友人として短期間で仲を深くしたと聞く。

う、うらやましくなんてないんだからな。


「では、案内させていただきます、『四季の魔女』様」

「よろしくお願いしますね、『狐狼姫』」


現在、ギルド、ラグふたつの意向を背負っている四季の魔女は立場的にはシュノ隊長より上である。

先程までの気安い空気は消え、互いに公用の表情だ。

四季の魔女は彼女の夫君であるという絶世の美丈夫と言って過言ではないだろう青年にエスコートされながら、先導をするシュノ隊長の後に続いていく。

その後ろを護るように、女性二人が行く。

四季の魔女と揃いのデザインのドレスを着ているが、その腰には剣が佩かれている。美しい見目をした剣だが、あれはヤバい代物だ。

特に赤銅色の髪の女性の持つものはヤバい。優美な見かけをしているが、たとえ素人が握っていようとも一合とかけずに、敵の剣を鞘を抜くことすらなく折れる。

そういう代物だ。

『睡蓮の騎士』『風弓』

どちらもギルドでは高ランク冒険者として名を知られている二人だ。

リヒトシュタートの被害者、魔女の友人、という意味合いでも名を知られているが。

彼女らが立ち去った後は、転移陣の後片付けだ。

燃え尽きた触媒などの大掃除が待っている。


「おい、なんつーか、ヤバくね?使者」

「ヤバイも何も、四季の魔女って時点で魔王と同レベルだっつーの。てか、お前『魔女の騎士』って聞いたことあるか?」

「いや、ないな。あのイケメン通り越したイケメンだろ?」

「おう」

「魔女の腰巾着に狐の獣人がいるって聞いてたけど、多分それだ。けど、多分、オレのカンだけど、あの人も、『睡蓮の騎士』や『風弓』と同レベルでヤバいと思う」

「だよな。やわらかーく見せてるけど、ありゃヤバイ。右肩の飾緒、多分アラクネの鋼糸だ」

「げ。ということはへたすりゃ全身暗器だらけってことだよな。てか、よく分かったな」

「おれんち、武器屋だぜ?」

「そーいやそうだった」


シュノ隊長も、とんでもない人たちと友人のようだ。

同僚の好奇心たっぷりな話に耳を傾けながら、己自身も先程の彼らの事を思い返す。

使者の世話係としてシュノ隊長率いる第18部隊は任務を帯びているが、なかなか緊張の連続になりそうだ。



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