とある『雛』の話
お、お久しぶりでございます。半年近くも間を空けてしまい申し訳ございませんでした。また、まったりと書いていきたいと思っておりますのでどうぞお付き合いくださいませ。
とある青年の話だ。
青年は王家にも連なる高貴な血筋に生まれた。
豪奢な金の髪、サファイア色の瞳。
長身痩躯眉目秀麗。ありとあらゆる賛辞を受けるに足る器と、それに見合うだけの努力を続けていた青年だった。
身分ゆえの傲慢さが言葉の端々に見えるのが欠点といえば欠点だったが、わかりづらいものの自らが治める領地の民を愛し、国を愛し、そのために尽くしていた。
ただひとつ、叶うわけもない恋を抱きながら。
彼が恋をしたのは、王女だった。
そして彼女は、この国の王位継承権最有力候補でもあった。
青年の血筋は王家にも連なるものではあったが、彼女にはすでに婚約者がおり。
ましてや戦時中。
武勲を立てていようとも、戦火にいつ散るともしれぬ身だったが故に彼女を遠目から眺めるだけであった。
いつか、この恋も終わりを告げるだろうと。そう信じながら。
だが、事態は急変した。
戦争の激化によって、人手不足が目立ち始めたのだ。
兵器として運用するために異世界人を呼び出すも、彼らの手綱となる道具も不足しだす。
そんな折、一人の異世界人が言った。
「魔獣同士を混ぜ合わせてもっと強い魔獣を作り、敵にぶつければ良い」と。
その異世界人は、兵器としては運用できなかったが、魔術の研究という部分では群を抜いて優秀であった。
故に発言権を与えられていた。
そして彼が最初に作り出した合成獣は、世にも美しい水晶の鳥であった。
王女の護衛としても使えるように調整されたというそれは、平時であれば美しい姿と声で王女を楽しませ。
非常時ともなれば風の魔術で敵を切り裂くものだった。
美しさを兼ね備えた獣を作り出すという狂気は王女を食いつぶした。
最初は水晶の鳥と同じように、小型の魔獣を材料にしていた。
だが、それらは瞬く間に大きな魔獣に代わり、挙句の果てに美しさを得るためだと、ユニコーンなどの幻獣さえも素材にされ始めた。
作り上げられた歪な美しさの獣たちは、目論見通り敵を蹂躙する。
だが、思考能力の低い獣に取らせることができる作戦などたかが知れていた。
戦況は優勢に見えるものの、だが徐々に追い込まれてもいた。
そして、ついに矛先は人間へと向かった。
最初は、力を欲しがる平民や兵士だった。
だが、強くはなっても美しさが足りぬと、王女は美しい者を探し始める。
白羽の矢が立ったのは、青年だった。
王女の移動範囲など、たかが知れている。
最大でも、貴族街くらいまで。
そうなれば、目につく人間はすべて貴族かそれに列するものだけだった。
そして王女は知っていた。
この青年が、己に懸想しているということを。
なればこそ、利用しやすい。
そして青年はバケモノになり。
国は滅んだ。
何のことはない、だまされたと知った青年の心が軋んで壊れただけの事だ。
壊れた心ですべてを呪い、与えられた力を振るっただけだ。
そして青年は、魔の森にたった一人封じられた。
青年をバケモノに変えた国の罪を背負わされて。
青年は一人、魔の森の中心でまどろむ。
記憶を流し、心を癒し、ただただ、貴族の青年でもなく、魔と合成された哀れな男でなく。
新しい『命』として、ゆっくりと封印という繭の中。
そして『産まれ』たのは。
『魔王』の雛だった。