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面倒な事後処理、その後で。

魔王クラスの魔獣と化したアルラウネの討伐は無事に終了した。

が、戦後…ではないがまぁ、戦後処理があるわけで。

枯渇まではいかなかったが、それでもシーズン終盤なせいで操作性に難が出ている属性の魔法の大盤振る舞いで魔力がかなり減っている状態のシキも、だるいだなんだ言いながらでもなんとか報告を上げる為にギルドへと詰めていた。


「山岳地帯の汚染ヤバ…」

「予想よりマシですって。除草剤取り込んだアルラウネの残骸、シキさんが回収してくれてるんですから」

「錬金術師たち、これから中和剤作りかぁ…」


奥の方で、同じように処理に追われるギルド職員や報告書を上げている冒険者たちが、顔に死相を浮かべている。

特に冒険者たちがヤバい。

魔術師たちはそうでもないのだが、書類仕事に慣れていない剣士やぶっちゃけ脳筋連中から死相が漂っている。とうぜん、そんな彼らに書類の書き方を何度も何度も何度も何度も指導している職員からもだ。


「…報告って、これでいいかな?」


とりあえず、差し入れというか物資として提供したご飯類の請求書と、一応振られているギルドランクに応じた討伐参加による報酬それと、確認書類として討伐功績による報酬の同意書だ。

ちなみにシキは功績がアルラウネを完全に仕留めたということで功績はまごうことなくトップ。

報酬額も、当然トップをさらっていた。


「しばらく働かなくてもいいような額ですね…この報酬額」

「「「やめてくださいそれだけは!!!」」」


ぽそり、と呟いたタチバナの言葉に、ギルドの職員メンバーが涙目で拒否を叫ぶ。

うわごとの様にコーヒーが、チャイが、テリヤキチキンが、とか聞こえるので、相当だ。

シキとしてはそこまで気に入ってくれるのは嬉しい。嬉しいが、たまに休暇が欲しくなる。

なにしろ、この世界に来るまでは夏に長期休みが入る学生の身分だったのだ。

神社巡りー!!とか叫んで気の合う友人と共にバイトで貯めた金をはたいて鎌倉や京都に三日ほど泊りがけで旅行に行ったのは懐かしい思い出だ。

こちらに来てから、正直働きっぱなしであるというか、そうでなければ生活できなかったというか。

一応、高水準の生活であるという認識はある。が、日本人なのでお風呂とか譲れないし。


「んー。これだけあるなら、旅行に行ってもいいかもねぇ」


報酬はギルドの銀行に預けているので問題ない。

ギルドの支部に行けばどこでも卸せるし、手数料も無い。

面倒があるとすれば、厄介事に巻き込まれやすい、という点だがそこに目をつむれば現代日本におけるゆ○ちょのような感覚だ。

ちなみに、ちゃんと信用もある。


「俺たちは、リヒトシュタートと、ラグと、中継の街を少ししか知りませんしね」

「そうそう。おまけに、追っ手が来てたから観光どころじゃなかったし。ちょっと長めに休みを取って行くのもいいかもね」

「行きは歩きか馬で、帰りは転移魔法で?」

「うん。長く開けるのも大問題だしね。行けるとしたら一週間くらいかな……」


報告書の最終チェックを待つ間、ギルドの端っこの場所に陣取って、どうやって行こうかを考える。

この世界には交通機関が無い。

いや、無いわけではないのだが、蒸気機関車など開発できる技術力があっても魔獣のせいでまともにレールが引けないというか。

現代日本の様にイノシシを刎ねるだけならいいのだが、そうじゃないものを刎ねる可能性が高いうえに刎ねたら面倒なものが色々と存在する。

それを考えると、地味でも馬車や飛龍、船くらいしかどうにもならないというのが正直なところだ。

街の中を限って言えば路面馬車くらいは走っているが。


「旅行か……いいかもな」

「えぇ、色々見て回るのも息抜きがてらいいかもしれないわね」


カレンたちも手続きや報告が終了したのだろう。

シキたちの方へと疲れた様子で歩いてくる。

が、それでも脳筋冒険者よりははるかに事務作業に慣れているので、首が痛い、くらいで済んでいるようだ。


「カレンたちも一緒に行くよね?」

「いいのか?ふうふみずい…ちょ、シキ耳は止めてくれ!!」


言いかけたカレンのシキにとってとても恥ずかしい言葉を止めるべく耳を引っ張り黙らせる。

涙目になるカレンを放っておいて、どこに行こうかしら?とフィリーが首を傾げた。

が、フィリーはともかくとして、リヒトシュタート以外あまり知らないのが三人。

フィリーが出せる案も限界がある。

四人そろってうむむ、と考え込んでいると、シキとタチバナの書類のチェックが終わったのだろう。

一人の職員が不思議そうに首を傾げながら近づいてきた。


「どうしました?」

「んー、これを機に旅行に行こうって話になったんだけどね。わたしたちってあまり地理に詳しくないっていうか」

「そういうことですか」


基本的に、ギルドの職員もそれ以外の人間も、シキが異世界人だということを知っている。

王都氷漬けとか、脅迫とか、色々やっていれば噂になるものだ。

声をかけてきたギルド職員もそんな感じで事情を知っていたので、シキの言葉に納得する。


「でしたら、雨の都はどうでしょう?僕の故郷なんですけどね」

「雨の都??」

「はい。正式名称はオルタンシアって言うんですけどね。一年の殆ど雨が降る街なんです。そんな気候だものだから、石造りのちょっと変わった建物が多いんですよ。苔むしてるし」

「…それは、見どころなの、か?」

「いえいえ、ここからが重要なんですって。このシーズンが一番綺麗なんですけどね、水底の都って呼ばれるくらいに水に覆われるんですが……本当に水底にいるように見えるんですよ。で、そこに花が咲くんです。半透明の花びらのガラスみたいな綺麗な花が都中いっぱい溢れかえるくらいに。溢れるほど水が無いと枯れてしまう変わった花なんで、あの都でしか見られません」


雨が降り続き、水底のような苔むした石造りの建物が並ぶ都の中、いっぱいに咲くガラスの花。

想像したら、見たくなった。きっと、美しいだろう。


「距離もここから近いですから、行きやすいと思いますし」

「どれくらい?」

「そうですね、馬で急ぎ足で三日くらいですかね」


かなり近い。

一週間休みを取るとして、三日は移動だが残りの四日はその都でのんびりとできる。


「……ご飯は美味しい?」

「魚が美味しいですね。淡水魚が多いので」

「魔獣は?」

「出ますけど、そんなに強くないですよ。乾燥させたら即死します。でかいカエルとかそんなんばっかです」


四人がそろって目配せをする。

魚が美味しい、魔獣は出るが弱い。


「あぁ、それと。そろそろ雨姫様の祭が始まりますよ」

「雨姫様の祭?」

「統治者であるティエンラン様のことですよ。代々そう呼ばれるんです。あそこは女性以外統治者になれませんから。祭っていうのは、建国ならぬ建都市祭のことです」


四人は頷いた。

心はすでに纏まっていた。


「行こうか、オルタンシア」

「えぇ、行きましょう」

「行こう」

「行くわよ」

「え、そんな簡単に……」


最後のギルド職員のツッコミはスルーされ、かくしてシキたちの初めての旅行計画が早くも実行の雰囲気を見せていた。





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