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緊急事態

「8番のお客様。アイスティーでAランチセットですね。800リラになります」

「お待たせしました12番の麦茶でCランチセットのお客様!!」


昼時。

ギルドから次々にやってくる昼ごはん目当ての客で、カフェ・ミズホは埋め尽くされていた。

最近は暑くなってきたので、ホットよりもアイスの飲み物が多く出る。

現在のランチセットは三つ。

紅茶か麦茶かコーヒーのホットかアイスひとつに、テリヤキチキンのサンドイッチか、プレーンワッフルの季節のジャムとバターのサンド、おにぎり二つである。

一番人気は当然テリヤキチキンのサンドイッチだが、腹にたまるという理由でおにぎりもなかなかに好評。ワッフルは安定している。

それらを立て続けに売り、目も回る忙しさである。

注文伝票が千枚通しの上にあっという間に突き刺さっていく。


「テリヤキあと5つで終了!注文受けないで!!」

「アイスティ3つできましたよ!」


昼の激戦を乗り越えようと奮闘する四人。

だが、突如として異様な空気を感じて客ともども凍りついた。


「……なに?」

「空気がおかしいですね」


肌が圧力を感じている。

殺気を向けられているのとはまた違う、文字通り何かの存在が圧力をかけているのだ。

すると突然、耳鳴りに襲われる。

シキやカレンは人間なのでちょっと痛みがある程度だったが、聴覚が優れている獣人のタチバナやハーフエルフのフィリーはかなりキツい音だったらしく耳を抑えてしゃがみこむ。

客の中に混じっていた獣人たちやエルフたちも同じだ。

そしてシキの耳には耳鳴りとしてしか感知できないほどの高音を掻き消すかのように、都市中に警告の鐘が鳴り響く。


「魔獣の襲撃!?」

「チッ、戻るぞ!!」


ギルドの職員たちが、キャンセルや代金の支払いを次々と済ませ、店から飛び出していく。

当然、他の客たちも都市の外周から近いこの場所から避難しようと、同じように足早に退避を開始する。


「店閉めるよ」

「わかった。簡単な片付けだけしてくる」


緊張した声音でシキが指示をだす。

カレンが店内のテーブルの片付けや、入り口の看板を引っ込め、扉に『close』のプレートを引っ掛ける。

耳を痛そうに押さえながら、タチバナやフィリーはキッチンに出してあったアイスティーのボトルや食品類をショーケースに戻したり、氷室へと引っ込める。

シキはひとつの袋の中に売り上げや注文書を放り込んで、金庫へ。

店の片付けが終わると、店から住居スペースすべての施錠。

そしてそれぞれ自室へ引っ込むと、装備品を整える。


「準備は?」

「大丈夫だ。そっちは?」

「もともとわたしは遠距離砲台だし、タチバナは暗器だから防具とかあまりないよ」

「私もいけるわ」


そして四人は冒険者やギルドの関係者以外は殆ど表に出ていない道を歩き、ギルドへ向かう。

集まっているのは、あらゆる種族のあらゆる出身の冒険者たち。

殆どが高ランクなのは、恐らくギルドが指示をだしているのだろう。

低ランクの者は都市の混乱を沈めるための援護に回っているはずだ。


「四季の魔女だ…」

「あれが噂の四季の魔女に、睡蓮の騎士、風弓か…あの狐獣人は誰だ?」

「称号はないけれど、四季の魔女の片腕よ」

「魔女のおかんとか、甘党狐とか残念美人とか」

「なんなんだその呼び名は」


シキたちの姿をみとめた冒険者たち、その中でもシキをあまり知らない人間が噂話をしている。

向けられる視線がうっとおしいと感じつつも、ギルドの中へと入る。


「四季の魔女!!すみません、今呼ぼうと思っていたのですが」

「いいよ、多分呼ばれるだろうって思ったから来たんだし」

「手早く、状況説明をお願いしたい」


四人に向かって土下座をする勢いで謝る受付嬢の動きを止め、状況を問いただす。


「魔王クラスの魔獣が発生しました。場所はラグより北部の山脈」

「魔獣の形態は」

「……最悪なことに、アルラウネと思われます」


ざわり、と周囲が色めきたった。

獣系の魔獣であれば、仕留めてしまえば終わる。

だが、アルラウネのように植物系魔獣の魔王クラスとなると話は別だ。

根の一本、茎の一欠けらでも残せば、其処から復活してくるのだ。

おまけに、地面の下から攻撃を仕掛けてくるので対処がなかなか大変なのである。


「シキさん、今使用可能な魔法はどうなっていますか?」

「風とそれに付随して雷。それと威力が弱まった水」

「焼き尽くす戦法は取れませんか……」


この場での最大火力はシキである。と周囲の魔術師や彼らのランク、使用できる術を考えた結果判断したが、その最大火力の属性がマズい。

恐らくまともにダメージを期待できるのは雷であろう。

風で切り刻んだら速攻で欠片から増殖されるし、水は吸収される。


「腐食はできませんか?」


その横から口を出してきたのは、タチバナだった。

彼の口にした言葉に、ギルドの職員たちは首を傾げる。


「アルラウネも大本は植物、水分が必要です。雑草などの除草剤よりも数倍強力な毒物を水系魔法に乗せて吸収させてしまえば、時間はかかりますがいけるんじゃないかと」


それはタチバナだからこそ出てきた意見だった。

基本的に植物系の魔獣は焼いて灰にする。が、当然焼ききれずに残ったりして被害が発生する。

だが、この方法ならば時間はかかるが魔獣全体にダメージを入れられるし、仕留め切れなくても動きは鈍るだろうから、その間にチマチマと末端から焼いてしまえばいいのだ。

問題としては。


「大地への汚染…でしょうか」

「それは後々、解毒剤を撒くしかないですね」

「……薬士を集めましょう。それと、錬金術師。申し訳ありませんが、タチバナさんとシキさんも参加で」

「私たちは?」

「カレンさんとフィリーさんは魔獣の動きの監視をお願いします。生半可な腕だと、逆に狩られて終わるので」


確かに、ハーフエルフであるフィリーや速度重視のカレンならば、森の中での行動は得意だ。

問題があるとすれば、襲われても斬り飛ばして終了、とはならないので、せめて武器に火の属性を付与したい。


「わかった。その前に、武器への火属性の付与ができる魔道具タリスマンか術師を紹介してくれ」

「それならば、ゾルダンさんにお願いするといいです」

「そうか。それじゃ、私たちはいってくる。シキ、後で」

「ん。早めに解決策見つけてそっちの援護に回るから」


短く言葉を交わして、カレンとフィリーはシキたちから離れ目的を果たすためにに駆けていった。

それを見送り、シキとタチバナもギルド職員の呼びかけに応じて、会議室へと向かった。



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