ぽいって放り込んで
「のぉぉぉぉ!!??」
夜。
夕食前に響くシキの絶叫に、なんだなんだと三人は倉庫をのぞき込んだ。
氷室になっている部分ではなくて、粉などを纏めてあるスペース、そこでシキは頭を抱えていた。
「何があったんですか?」
「さ、砂糖が…」
一キロ単位で小分けに放送されていた砂糖。
その一部が、見るからに減っていた。
だが、袋は開けられていないのでネズミにやられたわけでもない模様。
「……湿気?」
「うぅ、多分そう。氷室に近かった三袋が縮んでるから…」
湿気で溶けだした、というより湿気で固まってしまったらしい。
こうなると、分量も図りにくいしなにしろ味が落ちる。
「三袋…三キロ、ですか」
自分たちだけで消費するにも結構な量だ。
これだけ砂糖を摂取したら、確実に太ってしまう。
氷室から粉類を移動させつつ、タチバナはどう処理をしたものかと頭を悩ませた。
カレンとフィリーも、防水加工がされた布を自分たちの冒険者としての装備の中から持ってくると、残った砂糖の袋に掛けた。
少しはましになるだろうか。
「飴にしたらどうだろうか」
ぽつり、とカレンが呟いた。
砂糖をどう処理したものか、と頭を抱えていたシキが、勢いよく振り返る。
長い黒髪が唇に引っかかってちょっとホラーである。
一瞬引いたものの、カレンは言葉を続けた。
「飴の材料って、砂糖だろう?溶かして固めたら、飴になるんじゃ、ないか、と……」
「カレンナイス!!そうだよその手があった!」
作るぜべっこう飴ー!!と叫びながらシキは湿気で使えないわけではないが味が落ちてしまっている砂糖を抱えてキッチンへと向かう。
後の三人は倉庫の中を軽くチェックしてからその後を追った。
「なーべなべなべ」
ごん、と鉄製の鍋が竃にセットされ、砂糖と少量の水を投入。
ガンガン火にかけ、溶かしていく。
その間に、クッキングシートを広い場所に大きく広げておく。
量が量だけに、中々焦げ色が付かないが、それでも薄く黄色がかってきた頃を見計らい。
「本職じゃないから、まあいっか」
もう少しだけ、といい感じに金色になったところで火から降ろし、風魔法を利用して空気を送り込んで鍋の中から飴だけを持ち上げた。
豪快なその光景に、タチバナが苦笑いをする。
「飴職人が見たら泣きますよ?」
「わたしたちだけしか食べないから知らない♪」
そのまま、ゆっくりと冷ましつつ空中で飴の中に空気が入らないようにしながら棒状に伸ばし。
敷いたクッキングシートの上にちょきんとはさみで切って落としていく。
練ってもいいが、今回はあくまでもべっこう飴なので空気は入れない。
この綺麗な金色が無くなるのは惜しいのだ。
「カレン、フィリー、くっつかないようにバットのなかに粉砂糖いれて、今切った飴にまぶしていってくれる?」
「纏めていれてやる感じでいいのかしら?」
「うん、くっつかなければいいよ」
指示を受けて、フィリーは粉砂糖を、カレンはバットを出して、まだ少し熱い金色の飴を粉砂糖まみれにしていく。
ついでに引っ張り出したラムネ保存用の大きな瓶の中にまぶした飴を少量の粉砂糖と一緒に入れていく。
このころになると、飴は結構冷えているので形が変形することはないので投げ入れても問題ない。
「ん。美味しいですねぇ」
「ちょっと、タチバナだけずるいわよ!?」
手持無沙汰なタチバナが、出来たてほやほやのべっこう飴を頬張った。
幸せそうに表情が溶けている。
この甘党狐め、と次々できる飴の処理に追われるカレンとフィリーはブーイングする。
すると、最後の飴を切ったシキが二人に口に飴を押し込んだ。
当然のように、タチバナが食べたものより大きめに切られている。
「……」
「つまみ食いするからだよ?」
無言のタチバナの抗議をスルーして、残りの飴を処理する。
瓶の中にすべて詰め込んで、それから乾燥剤のプレートを放り込んだ。
「しばらくは飴に困りそうにないわね」
光にキラキラと金色にきらめくその瓶と中身をみて、フィリーは笑った。
頷くカレン。
「とはいえ、この量は食べきれないよ。常連さんにこっそり分けるかなぁ」
「なんだかんだで食べてしまいそうな量ですけどね」
「砂糖三キロ分の飴をみてそう言えるのはあなただけよ…」
さすがに呆れるフィリー。
とりあえず、とカレンが合いの手を入れる。
「子供が来たら、一粒オマケ、でいいんじゃないか?お遣いの子とか」
「それでいいでしょ。タチバナ、一人で食べつくしたら怒るからね」
不服そうなタチバナにしっかりと釘を刺して、シキはべっこう飴をひとつ自分の口に放り込んだ。