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おこげ

ギルドの依頼を乗り越えて三日目後の休日。

菓子を一から作れるようにとは言わないが、それでも基礎部分はできた方がいいよね、ということで訓練がてら米をカレンとフィリーが炊いていた。

結果は。


「フィリーが惨敗、カレンのは柔らか目だけど十分美味しいね」

「なぜでしょうね…菓子類はフィリーが得意で、ご飯などはカレンが得意。お茶は同レベル」

「知らないわよ……」

「分からん…」


フィリーの炊いたご飯は、見事にべちょべちょ。

カレンの炊いたご飯は、少し柔らかめだが気にするほどでもなく、店に出せるレベル。

が、これの前に焼いたワッフルやドーナツなどは、逆の結果を出している。

カレンのは芯まで焼けてないのにまっ黒焦げで、フィリーのは店に出せるレベルだったのだ。


「これは担当分けだねぇ。フィリーにはお菓子、カレンにはご飯とかそのあたりの手伝いをお願いするよ」

「了解だ」

「分かったわ」


今まで店での会計や掃除、軽食の簡単な盛り付け程度しかしてこなかったが、これからは自分たちも調理そのものに関わるとなっては、緊張もするのだろう。

いつもよりかたい声音で二人は返事を返した。


「さて、フィリーのご飯は……お粥にしちゃおう、うん。カレンのは十分おにぎりに使えるけど、明日まで残すわけにはいかないので、別のものにしちゃおう」


そう言って、シキはなにやらキッチンの一番広い所に一枚の大きめなキッチンペーパーを敷くと、その上にご飯をバサバサと乗せて、麺棒で伸ばしていく。

それをご飯が無くなるまで続け、伸ばしたご飯の上にごま塩を振りかける。


「本当は天日干しにするけど、面倒だから」


とりゃ、という掛け声とともに、それらの水分がカピカピまではいかないが、その半分程度まで奪われる。魔法だ。このシーズンは乾燥がやりやすくてとても助かる。

夏は夏で、火の魔法で低温で焼くオーブンみたいにしてどうにかするけれど。


「一口大に切って」

「形の指定はあるか?」

「うんにゃ、ない。四角だろうが三角だろうが気にしないよ」


言われるままに、三人はキッチンペーパーから乾燥したせいで互いにくっついている米をバラバラにしないよう気を付けつつ切る。


「なにを作るのかしら?これ」

「おそらく、おこげでしょう。そうですね、シキ?」


作業中、何を作っているのか分からないフィリーが首を傾げれば、どうやらタチバナには心当たりがあったのだろう、答え合わせをシキに求めた。


「正解!おこげのスープとか美味しいよね。おまけに、クルトンみたいにサラダに使ってもいいし、そのまま食べてもいいし、日持ちするし」


どんどん積みあがっていく乾燥ご飯の板っぽいものを、今度は熱された油に投入するシキ。

香ばしい香りを漂わせながら、ぱちぱちと油が跳ねる。

菜箸でそれを泳がせつつ、きつね色になると同時に油から上げ、油をよく切ってから網を張ったバットの上に置いていく。


「つついていいよ」


切り終わったカレンが、もじもじとその山を見つめるので、苦笑しながらシキは言った。

許可が下りた途端、カレンのみならずタチバナやフィリーも指を伸ばす。

現金なやつらである。


「あ、美味しい」


ぽろり、とフィリーが呟いた。

カリカリとした香ばしい香りのご飯。

噛めば噛むほど甘いのはいつものご飯もそうなのだけれど、これはまた食感がたまらない。

これの上にクラッカーのようにツナマヨとかベーコンスライスとか乗せて食べたら、また別の味がして美味しいかもしれない。


「テリヤキチキン…乗せたいな」

「もうお店の分すら有りません!!」


テリヤキチキンにハマリにハマっているカレンの呟きは、シキに却下を食らう。

いや、確かにこれにほぐしたテリヤキチキンを乗せて食らいついたら美味しいだろう。絶対に。

が、この前の依頼ですっからかんになっている。

針羽根ウコッケイを狩ってこいというお告げだろうか、とお昼ご飯の後で狩りに出ることを決意するカレン。


「シキ、乾燥剤と瓶は必要ですか?」

「乾燥剤は必須、容器は瓶じゃなくて、空いてる壺とかでいいよ」


最近定番として出し始めたラムネの瓶詰が、ちょっとお高い割に好評で、瓶のストックが減っているのだ。

タチバナの薬を売るための瓶を出さざるを得ない状況にまでなったりしたので、あまり使いたくないというのが本音だ。


「じゃ、冷めた奴から入れていってー」


まだまだ残っている板状ご飯を揚げながら、バットに乗っているはじめの方のおこげを指さす。

持ってきた壺にぽいぽい放り込みつつ、カレンとフィリーはついつい。


「ぱりぱりぱり」

「もぐもぐもぐ」

「そこ!それ以上食べない!!」

「「えぇー…」」


不格好な端っこの部分を狙って食べていた二人は、やはりもう一度シキから注意を受ける。

呆れたように二人を見るタチバナ。

だが、彼の指もおこげをつまんでは口元に運んでいるので同罪である。

思わずシキはタチバナの後頭部をはたいた。


「あいたっ」

「タチバナまで一緒になって食べるんじゃないって!」

「いえ、美味しかったので。いっそこれを昼食にしませんかシキ」

「しないから。お昼ご飯はフィリーの炊けなかったご飯で野菜とキノコのお粥!」


ほーらほーら食べられなくていいのかなー?

と、いつの間にやら準備を進めていたらしい。

食べやすいサイズに切られた白菜やニンジン、ホウレンソウなどの野菜と、鶏ささみ、たくさんのキノコが入ったお粥がおこげを作る油の入った鍋の横に用意された別の鍋で作られていた。

仕上げ、と溶いた卵を流しいれて、蓋をする。


「くっ…それはとても魅力的だ」

「そうね。美味しそうよね…おこげでおなか一杯になったら」

「食べられませんね。仕方がありません」


選別するように入れていたおこげを、ざらざらーと一気に壺に流し込むタチバナ。


「それでよし」


満足そうに頷くシキ。

まだ揚げたてのおこげは残っているが、もう少ししたら中に入れることができるだろう。

ふたを閉められこれ以上つつかないように、とおこげの入ったその壺は、戸棚にそっと仕舞われた。

三人がどこか物欲しげな視線でその戸棚を見ていたので、シキはため息をついて一言呟いた。


「夕飯はおこげスープね」


途端浮かれ始めた三人に、シキはもう一度ため息をついた。

現金すぎる。

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