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悪夢の後。

「では、後日調査結果はお伝えしますので」


マギコックローチ大量発生殲滅作戦から翌日。

シキの魔法弓張月のおかげか、それとも弱っているところを一網打尽にした魔術師たちかはハッキリしないが、林に発生した悪夢は案外あっさり片付いた。

報酬を受け取るために必要な手続きもあったのだが、殲滅した数が数である。

魔王討伐のときのようにあっさりと報酬が決まらず、後日持ち越しになった。

ギルドの職員たちは夜を徹して作業をしているらしく、テンションがおかしい。

だが、シキたちの担当となっているラウラはそれを化粧できっちり隠してシキとやり取りをする。


「誰かが封印を破っているようなら」

「えぇ、確立としては東大陸にいるという遺物封印解放をしている女の可能性が高いですね」

「止められない?」


遺物は戦争の残り香。

解放して碌なことにはならなだろうとシキは考える。だが、国やギルドとしてはすこしだけ話が変わってくるらしく。


「止められませんね。遺物解放によって得られる高度な技術は、どの国も欲しがっている代物ですから。たとえそれを解放することによって、災厄が現われても」

「潰せるだけの戦力がある、とでも考えてる?」

「……正直に言えば、そうです。人の手で封じられたのなら、もう一度やれないわけがない、というのが上層部の意見の大半を占めます」


その言葉に、シキは思わず嘲笑した。


「異世界の魔女一人、本気にさせれば滅ぶ程度の戦力で、何を言っているのやら」


過去の大戦では、異世界人が兵器として投入されていた。

もしかしたら、解放した遺物のなかに封じられている人間もいるかもしれない。

兵器として運用され、大量に殺戮を重ねただろうものが。

魔獣はともかく、人を殺したことがないシキさえも全戦力を投入してどうにか止められるか止められないかの瀬戸際だというのに、シキ以上の化け物をどう止めるつもりなのか。


「ギルドマスターなどは忠告しているんですよこれでも」

「……見栄ばかりのバカ貴族が原因、かな?」

「ぶっちゃけそうです」


頭いたいわー。とシキはこめかみを押さえた。

どの世界でもどの国でも、見栄ばかりの一部貴族によって災難が巻き起こされるのは変わらないらしい。


「まぁ、出たら潰すよ。今の生活が大事だからね」

「本当にすみません…」


恐らく、シキすらも戦力に含んだ上での連中の慢心だと気がついての発言だと感じたラウラは、申し訳なさそうに頭を軽く下げた。

その拍子に、書類が数枚机から飛び出してしまう。

それを下に落ちきる前に手に取ったシキは、ぴらぴらと取った書類の一枚を弄びながら笑う。


「中間管理職が大変なのは分かってますよ。とりあえず、今回だけですけど、喫茶店出張でもしてあげましょうか?」


シキのその一言で、ラウラ以下控えていたはずの事務員までもがいやっほぉう!とか叫びだす。

やはりそのテンションは振り切れている。

徹夜のテンションまじ怖い。


「で、シキさん、何を出張で出してくださるんですか?」

「や、重いものは無理だよ?」

「この際、甘いものならなんでもいいです!」


甘いならなんでもいい。

その言葉にどうしたもんかとシキは首をひねった。

徹夜明けでしかもまだまだ事務仕事は終わりそうにない彼女たちの様子を考えると、片手で食べられるものがいいだろう。

そうなると、ドーナツやワッフルなどが定番になるが彼らの半分以上が店の常連で、下手をすると食べ飽きている可能性がある。

フルーツサンドもいいが、あれは生クリームがはみ出して案外食べにくい。

と、シキはふとシオンの顔を思い出した。

訓練のために彼は餡子を一人で作っては、朝食で食べていた。

最近は焦がすこともなくなってきているが、水分調整に苦戦している。

そんな彼の朝の定番メニュー。


「小倉トースト…じゃなくて、餡バター」


食べやすいようにコッペパンかそのあたりにたっぷりの餡子とバターの組み合わせ。

凶悪な美味しさとカロリーを誇る一品だが、脳を酷使し続ける彼らには必要だろう糖分がたっぷりだ。


「餡子駄目な人はいる?」

「いえ、いないですよ?あんなに美味しいですし」


ラウラに問いかければ、きっぱりと真顔で答えられた。

即答であった。

しかも後ろで頷いている人が殆どだ。


「なら、あんバターパン出してあげるよ」

「パンは固パンですか?」

「いえいえ、白パンかコッペパンです。じゃ、準備してくるから。代金は」

「報酬に上積みしときます」


だから早く!と言外に訴えてくるラウラに、少しだけ腰が引けながらもシキは頷いて、出張喫茶店のために一度家に戻る。

まずはフィリーかカレンにコッペパンの大量購入をお願いしなければ。

あんバターパンはとてもシンプルなものだが、やはり素材の味というのがもろに出る。

これはとっておきのバター出さないとだめかなぁ、と道すがらシキはぼやいた。


小倉トーストとかあんバターぱんとか、凶悪な美味しさですよね。

後でカロリー見て絶望するんですけどね………。

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