俺と彼女の戦争と平和
ギアス好きのUP主が、ハッピーエンドな妄想(笑)を綴ってみました。
拙いですが、どうぞよろしくお願いします^_^
俺と彼女との出会いは、それはそれは最悪な形だった。
文武両道をうたう士官学校にて、俺は血の滲むような努力を重ね、栄光の首席学生を目指していた。
なのに、鍛錬や勉強なんか1秒もしなさそうな外面のギャルが、俺をぶっちぎりで追い抜いてしまった。
お陰で俺は、万年次席の屈辱を味わう事になる。
俺の母国である、アジア人民共和国の自治区出身の美少女:ローズ。
天才肌の戦場の女神だと、周囲は男女を問わず熱狂した。
官能的美しさを伴う肉付きのいい身体に白い肌、カールした長い金髪がまるでモデルみたいだと、彼らは口々に賞賛する。
俺は一人冷めていた。
身長だって、こちらの方が少し勝っているのだ。
だが、快活でよく笑う彼女は、あっという間に校内で首席と人気者の座をさらって行った。
惨めな想いをしたのはこちらの方である。
だから俺は、アイツを恨んでいたし、大っ嫌いだった。
戦争の道具の主流が人型自在戦闘装甲機となった今、戦力差に老若男女は関係なくなった。
常に戦況を把握し、知恵を振り絞り、道具を上手に使いこなす者が強いのだ。
だから、座学や実技において男が女に負けるのは起こりうる事態だった。
だけど当事者として立たされてしまった俺は、あまりいい気がしなかった。
なのにローズは、よく俺に絡んでくるのだ。
「あっ!秀才くんだ♪」
彼女は遠くからでも俺の姿を見つけると、猛烈にダツシュして、俺に振り替える間も与えないまま勢いを付けてガシッと肩に腕を回してくる。
ポニーテールにした金髪が俺のうなじをかすめ、くすぐったいったらありゃしない。
この馴れ馴れしさが本当に嫌だった。
周囲の目もある為、俺は丁寧に彼女の腕を振りほどく。
視界が微妙に傾いでいるのは、弾みで眼鏡がずれてしまったからのようだった。
眼鏡の弦に人差し指を当て、インテリっぽく直す。
そして、
「何の用だ。俺は忙しいから、お前に構う暇なんか無いんだよ」
と冷たくあしらった。
いつも満たされる事のない俺に全てを手に入れたお前がなぜ関わろうとするのか、全く理解出来なかった。
しかし、彼女の馴れ馴れしいスキンシップは相変わらずだった。
両腕一杯に広げて、後ろから俺の肩に抱きついてきたりする。
気を抜いていると窒息しかねない。
危険な事限りなし。
お陰で俺たちは付き合っているんじゃないかって、はた迷惑な噂まで立った。
俺は一秒だってローズに仲良くした事は無い。
なのに、どうして?
「だって、Kは人が見てない所でちゃんと勉強してたり特訓してるでしょ?
そんな頑張り屋さんな所が、すっごくクールなんだ!」
驚いた、ローズが俺を評価していたとは。
そんなの、天才のお前には朝飯前だろ?と皮肉ってやったら、ローズはお得意のニカッとした笑いを浮かべて、
「そりゃ、10年間実戦に出たキャリアがあるからね」
と、事もなげに言った。
「ちょっと待った。俺たちまだ二十歳手前だろ?お前は子ども兵士だったのかよ?」
困惑顔で俺が問いただしたら、ローズは見た事の無いような真面目な顔になった。
「私の国ってね、隣の大っきな国が軍隊で攻めてきて、力づくで占領されちゃったんだ。
それで、私たちの民族を民族を根絶やしにしようと、民族浄化政策が行われたの。
それでずっとレジスタンスとして、戦ってきたんだ。
それで否応でも、戦場のプロになっちゃったわけ」
そしてローズは、また笑った。
俺は初めて、彼女は強いと思った。
その精神面からして、全く太刀打ち出来てなかったのだ。
“民族浄化”。
それは形を変えた、静かなる大虐殺だ。
そして、俺の父はその担当官だった。
たしか、制圧した地域はローズの故郷。
何故今まで気づかないまま過ごせたのだろう。
ローズたちが被害者側にいるなら、俺は加害者側にいたのだ。
胸が締め付けられる。
それからずっと、俺はローズを避けるようになった。
俺の態度がガラリと変わり面食らってしまったのだろう、彼女の寂しげな視線が遠くから突き刺さった。
違う、嫌いだからじゃない。
お前の事は、心から尊敬できる様になったんだ。
ただ俺は、お前と親しくなる資格なんてないんだよ。
士官学校を卒業して、俺は軍に入隊した。
父とは敵対する側に。
それがローズへの、せめてもの罪滅ぼしだ。
当の彼女は故郷の民主化運動に再び身を投じ、連絡がつかなくなっていた。
数年後、ローズを含めた青年革命家たちが軍に鎮圧されたという情報が入った。
何故だか分からない、だけど俺は落ち着かなかった。
数ヶ月たち現地の情勢が落ち着いた頃、俺は内密にそこへ向かった。
貧しい街だった。
俺は聞き込みを進める中で、ローズによく似た女を見たという住民に何人もあった。
目撃した場所は、赤線地域。
胸騒ぎがする。
どうか、最悪な再開にならないでくれと
、俺は当て度もなく祈っていた。
その祈りは届かなかった。
小汚い娼館の前で、ゾッとする程美しい女が死んだ目をして階段に座っていた。
ローズだった。
俺は、胸の内がとてつもなく冷えていくのが分かった。
それと同時に、言いようの無い怒りがふつふつと込み上げていた。
俺はつかつかとローズに近寄る。
ローズは人けに気付いて顔を上げ、俺の姿を認めた。
その顔に羞恥が指すよりも早く、俺は彼女の衣裳の襟に手をかけ、その華奢な首を締め上げていた。
「…K!…どうして、こんな事を…」
困惑した顔をしながら、彼女は息絶え絶えに聞いてくる。
「それはこっちの台詞だ!お前、ここで何やってんだ⁉」
俺は、説明のしようの無い遣る瀬無さに駆られていた。
士官学校時代、お前の前に打ちのめされ、挫折した俺を返せ‼
騒ぎを聞きつけ、建物から初老の女主人が出てきた。
そして俺たちの姿を見やると、金は取らないから中に入るように促した。
どうやら俺を、ローズの昔の男と勘違いしているらしい。
どこに行こうが、どいつもこいつも。
けばけばしい色合いの個室の中で、俺はローズから事の顛末をずっと聞いていた。
彼女が一から創り上げた部隊は殲滅され、彼女一人が生き残ったのだ。
そして、生き残ってしまった事の贖罪に、自ら檻に入ったという。
あたし、馬鹿だよね。と、彼女は悲しげに笑った。
神聖視していた相手は、俺と同じ愚かしさや不器用さを持った人間だったのだ。
だからますますしゃくに触る。
こんなヘタレは、俺一人で充分だよ。
お前まで駄目ダメになったら、俺はどうすりゃいいんだよ⁉
「その身体は、人々を暴力の恐怖から救い出す為に与えられたものだろ?
こんな使い方、絶対にしちゃ駄目だ!
今すぐ足を洗え‼
挫折の一度や二度がなんだ!
お前を連れて帰ってやる。
こんな事している暇なんか、お前に与えてやるもんか!
お前を必要としている人が、世界にはまだまだたくさんいるんだよ‼」
柄にもなく、一気にまくし立ててしまった。
思わず荒く息をする。
ローズは俺に圧倒され、呆気に取られてしまっていた。
だけどしばらくして、おずおずと、でも静かなる決意を滲ませ、俺の方に手を差し伸べてきた。
「こんな私でも、連れて行ってくれるかな?」
「ああ、もちろんだ」
俺はしっかりと、その手を握り締めた。
また俺を圧倒させた、戦闘女神の姿を拝ませてくれよ。
そうしてローズは、戦場に復帰した。
今度は俺の、隣に立って。
伝説の女神を連れ返した立役者として、俺は誇らしかった。
彼女がくすぶっていたことは、誰にも口を割らなかった。
それが戦士の礼儀というものだろう。
だけど、どうして?
運命の歯車は、残酷に回り始める。
俺は、自分自身の故郷の謀略にはまり、ギリギリの所まで追い詰められて行った。
今の軍を抜けるか、ローズを手にかけるか。
俺は彼女を守ることにした。
どっちにしろ、俺は裏切り者のレッテルから逃れられないのだ。
なのに、正にあのローズが、俺の不審な動きを察して来た。
どうしてこんな時に限って勘がいいんだよ?
俺は、自分に充てがわれた事務作業用の個室に入ってきたローズを睨み付けた。
彼女は意を決したような顔をしていた。
その背中で、自動ドアが閉まった。
「なあ、K。
最近気になる事があるんだけど…」
ローズは努めて笑おうとしていた。
しかし俺の目には、ぎこちなく写って仕方がなかった。
「私たちに隠している事、無いか?」
ローズの綺麗な顔が、上目遣いに俺に迫る。
きっと無意識なんだろう。
だけどお前、無防備に迫り過ぎだ。
頭の奥で、何かが切れる音がした。
気が付いたら、俺はローズの身体を力尽くで強引に引き寄せ、その美しく潤った唇を奪っていた。
機体に乗れば無敵の女神も、機体を降りてしまえばただの生身の女なのだ。
その後、俺はローズを乱暴した。
詳しい事は、もう言いたくない。
彼女を散々泣かせてしまったから。
あんな悲しそうな顔をさせたのは、紛れもなく俺自身なんだから。
違う、こんな事をしたかったんじゃない。
俺たちはやっと、上手く行き始めていたはずだ。
だけど、今まで心の底に積載してきた感情が、見ない様にしてきた汚い感情が、不意に理性を突き破って爆発し、俺自身、どうしどうにも止められなくなっていた。
それが鋭利な毒牙となり、ローズを捉えて突き刺さった。
これは俺の未熟さ故か、彼女の無邪気さ故か、それとも戦争のせいなのか。
俺は頭が悪くてよく分からない。
成績優秀とか、秀才だったとか全部嘘。
本当は自分自身の事さえ、なんにも分かっちゃいなかったのさ。
ぶっ壊れてしまったローズを部屋に残し、俺は軍を去った。
彼女に上着をかけてきたけれど、それが何の償いにもならない事ぐらい分かっている。
そして悟った。
俺はローズが好きだったのだ。
初めて会った時からずっと。
加害者の立場を自覚したくなくて、やっかみを嫉妬心にすり替え、ずっと自分自身を騙して来た。
素直に受け入れてしまえば、辛くて辛くて堪らなくなるから。
俺は、自分の軟弱な心を必死に守って来た、臆病者だったんだ。
壊してしまってから、それが自分にとって一番大切な物だと知った。
知ったというより思い知らされた。
俺は自分の愚かしさに打ちのめされ、ずっと涙が止まらなかった。
俺とお前の関係は、どう足掻いたって加害者と被害者のままなんだ。
そこに柔な情を持ち込むな。
生半可な優しさは、また不幸を呼ぶだけなんだよ。
俺たちはもう、お終いだよ。
だけど、それで終わりにはならなかった。
今度はローズが、俺を追いかけて来た!
一触即発の緊張地帯で、お互い装甲機に搭乗したまま俺たちは合間見える事になった。
彼女の機体から内線が入り、俺は音声のみでチャンネルを開く事にした。
「よう、K!家出中も元気だった?」
「何の用だ。俺は忙しいから、お前に構う暇なんか無いんだよ」
「…あのね、あたし赤ちゃんが出来たんだ」
俺は凍り付いた。
あの時俺は、本当に自分勝手で、ローズの体調のことなんか気にもしていなかったんだ。
「…それは罪の子だ。
お前は何にも悪くない。
だから、お腹の子は堕すんだ!」
俺の声は、震えていたと思う。
いつの間にか、不幸の再生産に手を貸していた。
「嫌だ!この子に罪は無い!
それに…、この子はあんたの子だ。
だから、大切に育てる。
そう決めたんだ」
俺はハッとした。
それに構わず、ローズは続けた。
「あんたは立派な戦士だって、
あたしは今でもそう思っているんだ。
士官学校で天狗になっていたあたしを諌めてくれたのもあんた。
赤線地帯でくすぶっていたあたしに喝をいれてくれたのもあんた。
そして、軍で暗殺対象だったあたしを庇って、一人で全部背負い込んで行っちゃったのもあんただ」
「K、あたしはあんたが好きだよ。
今でもその気持ちは変わらない」
…お前のせいだ!
涙で前が見えなくなったのは。
いつもいつも、俺の心をかき乱しやがって。
そんなお前が、俺は大嫌いで、
でもそれ以上に、大好きで大好きで仕方が無かったよ。
俺が引いた加害者と被害者の境界線を、ローズは軽々と飛び越えてくる。
そんなもの、俺の思い込み・幻想にしか過ぎないと言わんばかりに。
そして、何事も無かったかのように、俺の側に立ってくれるんだ。
そして俺は、またローズの隣に立つ事に決めた。
しかし復帰したとはいえ、早々に軍法会議にかけられて、今は判決待ちの檻の中だ。
全く、人の事を言えたもんじゃないな。
彼女はと言えば、お腹の子に父親と触れ合わせるんだと、看守たちを言いくるめて俺に毎日会いに来てくれる。
ほとほと恐ろしい女である。
だけど、その恐ろしい女が俺の伴侶で良かった。
俺に押し潰されやしない、タフな所がある。
だから俺も、安心して一緒にいられんだ。
ある時、小っ恥ずかしいような夢をローズに語った。
俺の祖国は、自由を戦車でひき殺すような国なんだ。
でもそんな祖国を、俺は民主化したいんだ。
そしてみんなを、幸せにしたいんだ。
それには俺の人間としての器が全然足りてなくて。
何十年もかかってしまうかもしれない。
もしかしたら、他の誰かに先を越されるかもしれない。
だけど結果として、現在ただいま圧政に苦しむ多くの人が解放されるのなら、
俺は何だって構わない。
そう思っているんだ。
そしたらローズは、にっこり笑って言った。
「あたしの夢も同じ!
祖国がまた主権を取り戻す事なの!」
ああそうか、俺たちは元々同じ方向を見ていたんだな。
だから反発したり傷付けあってしまっても、また静かに寄り添って、同じ向きを見ていられるんだな。
「あんたの夢が叶う時は、あたしの夢も叶う時なんだ。
そういう事なんだね!」
ああそうだよ。
こんな俺で構わなければ、一緒に世界を救わないか?
お前となら、出来そうな気がして仕方が無いんだ。
なあ、そうだろう?