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09 魔女の再来?




  バシャンッッ!!


 握っていたコップの中の水は勢いよく飛び出し、覗き込んでいたあたし達の顔に落ちた。


「……」

「……」

「……」

「……」


 ポタポタと顔と髪から雫が落ちていく。少量の水だったのが幸い。

あたし着替えたばっかだぞ、こら。


「……この現象は……支部長と酷似してませんか」

「そんなばかな……」

「……そんなばかな……」


 ティズ、ニックス、ライリが硬直したまま呟く。


「合格なの? 不合格なの? どっちだよ?」


 顔を袖で拭いながら訊いたのだが、誰も答えてくれなかった。


「渦を巻けって言ったんだ! 爆発させろとは言ってないぞ!」

「いや、掻き混ぜただけだし! 爆発させてねぇし!」

「どう見たって今のは爆発だろうが!」

「知るかよ! 言われた通りイメージしただけだ!」


 普通図書室ならば静かにしろと注意されるところだが、今利用しているのはあたし達だけ。だからわーぎゃーとティズと声を荒げた。

まっ、どうせ他の野郎が利用していても騒ぐけど。


「じゃあ今度は薔薇なしでもう一度やってみろ!」


 ティズはコップを持つと早々と図書室を出ると水を入れて戻ってきた。

言われた通り、さっきと同じことをする。


  バシャンッ!


結果は同じでコップは爆発したみたいに水をぶちまけて、また水を被るはめとなった。

そして再び濡れたまま沈黙が始まる。

 ポタポタと雫が落ちる音だけが響いていたら、ニックスが口を開いた。


「……魔女の再来」

「やめろよ! せめて人間扱いしろや!」


 素早くツッコミを入れる。

どうやらこの現象は大事らしい。

魔女の再来。なんて嫌な響きだ。

つまりは魔女並みに魔力があるかもしれないのか。


「魔女の生まれ変わりなんてオチ、嫌だからな! そんな理由のためにあたしは召喚なんてされたのかよ!?」

「そうだったら、アンタは脅威よ。何がなんでも奴らは奪いに来る、最強の兵器だもの」

「まさかの兵器扱い!?」


 水も滴るオカマにズバッと言われて、グサッとショックを受ける。

人間扱いしろって!


「落ち着け、まだそうと決まったわけではないだろう。魔力を多く持つ者を兵にするために召喚しただけかもしれない。魔力があっても、魔術の使い方は技術がいるだろう」


 ニックスの推測を止めるが、完全に切り捨ててくれないライリ。

その可能性はありってことなのか……おい。

 でもライリの推測の方がいいと思う。魔力のある兵を増やそうとあちらさんの国が異世界の住人を呼び出した。運悪く呼び出されたのがあたし。

 それならまぁ、納得できて、心置きなくライリ達の手伝いが出来る。あわよくば呼び出した張本人をぶん殴りたい。

あちらの国は、異世界から魔力のある人間を召喚して兵を集めている。

あたしらの世界の人間も、魔力はあるってことじゃね。普通なのさ、魔女じゃない!


「魔力はある、予定通り簡単な魔術を教えてやれ。ティズ。オレとニックスはメデューサの森の魔女について調べる」

「……はい、わかりました」


 ティズはライリに従い、またでかくて分厚いページをめくり始めた。その様子を見てから、向かいにいるライリ達を見る。ライリが持ってきたのは、"メデューサの森の魔女"関連の書物らしい。

そっちが見たいが、あたしは魔術の勉強だ。


「簡単な魔術ってどんなの?」

「昨日支部長の見ただろ? 拘束を解く術から覚えるべきだ。拉致される可能性が十分にあるから、身を守る魔術から覚えた方がいい」

「まぁ、そうだが……随分と信用するんだな。それ覚えたらお前ら拘束出来なくなるぜ」


 余計なことを言ったのか、ティズが不機嫌そうに顔をしかめた。


「脅威なら覚えさせない方が得策だと思うけど」

「なんだと?」

「そうゆうことを言うから、信用してるのよ」


 ティズの苛ついた声を遮ったのは、ニックス。


「敵に回るならそんな怪しまれる忠告はしないでしょ、フツー」

「事情によっちゃあ敵に回るかもしれないじゃん。一応忠告してあげなきゃ、痛い目見るのはそっちだぜ」

「そうならないように私達は見張るのよ」


 警戒心を突っついてみたが、ニックスは手元の本から視線を外さないまま答えた。


「余裕綽々なのがムカつくぜ……。絶対にギャフンと言わせてやる」

「ギャフン」

「バ、カ、にしてるな?」

「集中しろ!」


 ニヤニヤ笑うニックスに今度はあたしが苛つく。

なんかムカつくんだよな。

ニックスの言葉に余裕を取り戻したティズに小突かれて仕方なく魔術に集中する。


「あ、じゃあレオルドの怪我も魔術で治したの?」

「そうなる。だが治癒の魔術は手順が難しい。医療の知識もなしに自分の怪我を無理に治せば、最悪死ぬぞ」


 不意に思い出した。レオルドは肩に怪我したことを認めたけど、翌日は治っていたようだった。

最悪死ぬって、なにそれどうゆうこと。


「レオルドは恐らく、剣で切られたんだろう」

「うん」

「神経が損傷してなければ、この治癒の魔術だけで治せる。皮膚が切れただけなら隊員のほとんどが使う、手を当てて損傷を治す至って簡単な魔術」


 ティズが指を差すが、生憎暗号がずらり並んでいるようにしか見えない。

とりあえずその簡単な治癒の魔術で、レオルドは自分の怪我を治したと。


「だがそれより重度の怪我、つまり神経損傷や内蔵破裂は先ずそっちを治さなければならない。触れられない体内の損傷を治すのは、高度な治癒の魔術がいる。それから傷口を塞ぐ。そういう怪我をしたら自分で治そうとするな、内蔵破裂等の損傷を治す魔術を使えるのは医者や医療班だけだ」

「傷口だけ治して内出血したまま戦ったおバカさんが過去に大勢いるのよ、勿論のたれ死んだ」


 ティズがきつく言えば、いらんことをついでのように言いやがるニックス。

 グロいからやめてくれ。

殺戮を見てからグロいのがトラウマになったみたいだ。あれ、でも、案外ぐっすり寝ちゃったぞあたし。


「ところで……なんでレオルドが怪我してるってわかったんだ?」

「ん?」

「オレ達の制服は返り血が目立たないように黒にしている。出血には気付けないし、切り口も見えづらかったのになんでわかったんだ?」


 いらん情報を聞いてしまった。

この黒い隊服は返り血を目立たせないため。ひぃー。


「あたしを殺そうと腕を振り上げたからわかった」

「……なんでわかったんだよ?」

「だからこうして腕を上げたんだよ、そしたら上げにくそうに見えたんで怪我してるって気付いた」


 しつこいので右腕を上げて再現してやる。途中まではすんなり上がったけど、胸の高さまでいくとぎこちなくなった。


「……それだけで?」

「それで十分だろ」


 まだ納得しないティズ。おい、苛々してきたぞ。


「親は医者か何かか? 他人の怪我を見抜く才能かよ?」

「いや、医者なわけないじゃん。見ればわかるだろうが、腕を庇うとか足を引きずるとかさ。勝ちたいなら、そこをついて相手を倒すだろう? ……なに、お前らそうしないの?」


 基本サシで勝負というか喧嘩をするが、学校同士や集団での乱闘の場合、怪我をした箇所を狙い沈めることが多い。弱点を晒す相手が悪いと思うんだ。

やらなきゃ、やられる。

不良の喧嘩と兵隊の戦争では規模が違いすぎるが、そういう攻め方もあるだろう。

 ライリとニックスが顔を上げたのに、妙な沈黙が降る。

え、なんだよ。三人の顔を見回す。


「やらないの? 命懸けなら尚更、相手の怪我を蹴るなり殴るなりするんじゃないの?」

「エリ、鬼畜ね」

「お前だけには言われたくねーよ」


 素人相手に剣でボコボコやったお前にだけは言われたくねーよ。


「相手の弱点に気付けば、そこから崩す戦法をするが……だが戦場でそう簡単に気付けることは……ないぞ」


 ニックスの次に口を開いたのはライリ。


「殺されそうになっている状況で、相手の不調に気付くなんて……」


 難しそうに顔をしかめて顎を二つの指で撫でながら、あたしを見るライリに首を傾げてしまう。

普通わかるだろう、見れば。


「その話は後にしよう。今は魔術だ」

「ういー」


 脱線しすぎた。

今度こそ魔術をしようとティズに向き直る。


「手に渦を巻くことが基本だ。お前の場合、魔力が大きすぎるみたいだが問題はない。ちょっと威力が高くなるがな」

「うん、もう説明は大方わかったから、始めてくれよ」


 掌を見る。魔力で渦を巻くことが、基本らしい。練り上げるようなものか。

少年漫画の登場人物が浮かんできた。あんな感じね、ハイハイ。

先ずは巨乳の支部長がやった縄抜け術から覚える。

今度は指先に集中して放つように指を振るのだが、その魔力のコントロールの仕方が違う。指先でロープを解くイメージをするんだって。

 おいおい、想像力必要だな。

筋肉体質の男には無理難題じゃなかろうか。ライリも本を持つと違和感ある。

そんな男達だらけだから、図書室に人来ないのか。


「違うって言ってるだろ!」

「どう違うんだよ!」

「こうするんだっつーの!」

「違いがわかんねぇよ!」


 ぎゃーぎゃー、あたしとティズが喚きあっても注意する者はいなかった。







薔薇の夢が授かったチートだと気付かぬまま。




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