06 待遇は隊員
惜しみ無く胸元が晒されている。その大きさが凄い。紫に近い青いYシャツが膨れていて確かな大きさがわからないが、相当でかいぞ。あの巨乳姉妹並だと思う。初めて生でそんなにでかい巨乳を見た。学校の連中が見たら間違いなく騒ぎ立てて鼻血出してる。
「キングリーンはもう帰ってるぞ。その娘は?」
「申し訳ありません。メデューサに足留めを食らい、跡地に到着した時には既にレオルドが奴らを皆殺しした後でした。そこでこの少女が紛れていたのです」
「当たりを引いたのはお前の部隊ってわけかい。レオルド……命令違反に目的を忘れた行動か。相変わらずだな」
「コレ、オレの手柄」
あたしが巨乳ねーちゃんの胸に注目している間、話は進む。
いきなり突き飛ばされてあたしは机についている巨乳ねーちゃんの方によろけた。
振り返れば、レオルド。今手柄の話をするのかよおい。しかも反省の色なし。
「手柄、つまりその娘が奴らの目的だと?」
「あー、いや。あくまで推測」
あたしは口を挟んだ。
敬語? なにそれ知らない。教師にも父親にもタメ口オンリーだぜ。
「えーと、頭可笑しく聞こえると思うけど事実だから。あたし、この世界とは全く違う世界から来たんだ」
これ説明するの、まじしんどい。
でもリーダー達も言いにくそうだったので、心優しいあたしが説明を買ってでてやった。あたし優しいー。
「あたしの世界はメデューサなんて生き物実在しないし、こんな兵隊もいないし、全く違うんだ。気付いたら"魔女の城の跡地"ってとこにいて、このレオルドが殺戮してるところに居合わせた。よくわからないけど、魔女って言うくらいだから魔法とか呪いがあって、そのせいであたしはこの世界に来ちゃったのかなぁって。だから詳しくあの場所について聞こうとしたら、アンタらの敵の目的があたしだって可能性が浮上したわけだ」
巨乳ねーちゃんに、さらりと説明する。
本当にあたしが目的だったら、あたしをどうするか予測できないから怖い。
巨乳ねーちゃんは、正真正銘リーダー達の上司らしく鋭い眼差しで見てくる。
「これが所持品です。彼女の言う世界の硬貨だそうです」
リーダーがあたしの百円玉を机の上に置いた。ちなみにもう一つの百円玉をレオルドはまだ返していない。横目で睨んだが、レオルドはしれっとしている。
「なるほど……。奴らの目的だという可能性があるから連れてきたと。……拘束しているな、暴れたのか?」
「初めは大人しく拘束されていたのですが……その」
百円玉を手にして見ていた巨乳ねーちゃんが、あたしに目を戻す。未だに背中で腕を固定していることを指摘されて、リーダーは言葉に詰まる。
「不審者だから一応拘束された。その後あたしを連れてきたのはアンタらの敵だから、そっちに行けば早く帰れると思って、逃亡をしたんだ。その時にこのティズに顔面を蹴った。あと強姦未遂でニックスも蹴った、ので拘束されたまま」
「まともに顔面に食らったのか?」
リーダーの代わりに、報告してやればティズとオカマことニックスに睨まれた。
巨乳ねーちゃんは愉快そうに声を弾ませる。強姦未遂はスルーなのかい、ねーちゃんやい。
「もう鮮やかにニックスの顔が蹴られたよ」
レオルドが清々しいほどの笑顔で頷く。巨乳ねーちゃんは一人大笑いした。
なんだ、なんだ。女に蹴られるのがそんなに面白いことなのか? この世界は。
「見たい、蹴ってみろ」
「勘弁してくださいよー、支部長。これ以上はこの子になにするかわかりませんよ」
ケタケタ笑いながら蹴りを要求する巨乳ねーちゃんに、ニックスは言うとあたしを睨み下ろした。やんのかこら!
「随分と威勢がいいな。お前、名前は?」
「あー、恵璃。エリ。エリーではなく、エリ」
念のため、伸ばさないように言っておく。
くいっ、と巨乳ねーちゃんが人差し指を指揮者みたいに振り上げた。途端に腕が軽くなる。
するりと縄が落ちて、昨日ぶりに腕が解かれた。
「あり?」
左右にいるレオルドとニックスを見たが、縄を切ったであろう刃物は手にしていない。そもそも足に落ちた縄に切れた跡がなかった。
「お前の世界にはない代物かい? 魔法って奴は」
「魔法!? 今のアンタがやったの!?」
「魔法は幼稚に聴こえるから、魔術と呼ぶんだけどね。そうかい……魔術は使えないのか……ふぅん」
魔法使いなねーちゃんか! アンタ! ボンキュンボンな魔女コスチュームみたいよ! 巨乳ねーちゃん!
指一振りで縄解くとかすげぇ!
てことは、レオルドの肩も魔法で治したのだろうか? とレオルドの肩を見てみる。
まさかこの世界の連中は皆使えるのか。
「自分の今後について、興味ないのかい?」
「あ、あるある。あたしとにかく帰りたいんだ。このお兄さんが一緒に探してくれるって約束してくれたけど」
レオルドから巨乳ねーちゃんに目を戻し、リーダーを見上げる。
言質とったからな!
「無償で帰る手伝いをしてくれとは言わないが……五体満足生きて帰りたい。敵さんの目的があたしなら手伝える範囲で協力はするが……アンタらが敵なら暴れるだけ暴れるから」
腕も解放されたところで、ぐりぐり回して身構える。自分が置かれている状況が詳しくわからないが、万が一を考えて釘を打つ。
戦って勝てるとは到底思えないが、逃げるだけならイケる!
敵の狙いであるあたしをどう扱うか。
睨むように巨乳ねーちゃんを見据えつつ左右に立つ危険人物に警戒する。
「フッ。そのくらいの警戒はしておけ。一応教えておくが、奴らが優遇に扱ってくれるとも限らんぞ。わかっているか?」
「わかってる。まだ自分が何のために呼ばれたかすらわかってないんだから」
あたしにとってどっちが敵で、どっちが味方かなんてわからない。
目的がわかっていない以上、この人達にとって無害か有害かすらも確証はないのだ。
愉快そうに笑みを浮かべた巨乳ねーちゃんは、立ち上がった。黒い上着を肩にかけていて、ウエストが細いのがよく見える。ボンキュンボン体型!
「ウチでのお前の待遇は」
ここでの待遇は?
「隊員だ」
彼女の部屋に沈黙が降りた。
ぱちくり、と瞬きをする。
今何を言われたんだろうか。
タイインダ? 退院だ? 帰っていいのか?
「牢屋に入れるほどの罪もしてないし危険性もない。か弱いわけでもねぇから、ウチの隊員になれ」
うほう!? 兵隊になれだと!?
「勿論仕事もやってもらう、そうすりゃ寝床も食事も困らねぇさ。その合間に帰る方法でも調べればいい。あくまでお前は隊員だ、ウチの味方についてもらう。ここにいる限り、お前の命の保証をしてやる」
隊員になって仕事をやれば、寝床も食事ももらえる。あくまでこちら側につけ、と。
いや、待て。
それってつまり、コイツらの監視下に置かれるってことだよな?
実質刑務所に放られたと変わらないんじゃあ……。
「お前の面倒は……お前を見付けた」
巨乳ねーちゃんの視線がずれたので、右を向けばレオルド。しかしレオルドはくるりと方向転換すると、そのままこの部屋を退室した。
威風堂々と逃げた!
第一発見者が面倒を押し付けられる前に逃亡したぞおい!
巨乳ねーちゃんは、気にした素振りもなくリーダーに目を向けた。これいつものことなのか。慣れてんのか。自由だなあいつ。
「お前の隊に入れろ、アリエール。約束もあるし、連れてきたのはお前の判断だろう?」
「はい。わかりました」
アリエールって名前なのか、リーダー。
すんなり頷くリーダー。
「じゃあエリの子守は任せた。エリ、フルネームは?」
「え……えっと……エリ・クロキ」
黒木恵璃だけど、一応カタカナな名前ばっかなので苗字と名前を逆に名乗った。
「あとは新人扱いだ、わかるだろう。もう行ってよし、アリエールは報告書を書け」
「はい。失礼いたします」
あたしの返事なしで確定されて、話は終わったと言わんばかりに腰を下ろして手元の書類を目を戻す巨乳ねーちゃん。
リーダーは頭を下げるとあたしの背中を押して一緒に退室するよう促す。
あたしは踏み留まった。
「コイン返して!」
あたしの百円!
言えば巨乳ねーちゃんは投げ渡してくれて、受け取るとリーダーに背中を押されて廊下に出された。
「ティズ、一番小さな制服を。ニックスは他の衣類を頼む」
「はい、先輩」
「りょーかい」
リーダーの指示にやる気ない声で返事すると、ティズとニックスは並んで廊下を歩き出す。
また背中を押されて二人とは反対方面に歩き始める。
「こっちは寮だ」とリーダーが短く教えると、階段を降りて長い廊下を歩いた。
ずっと後ろに固定された腕をうんと伸ばしてほぐしておく。腕があるって幸せ。
「なんか悪いな。手煩わせて」
「約束は果たす。とりあえず跡地関連の資料を集めておくから、それまでここに慣れるよう心掛けてくれ」
「……うん。ありがと」
成り行きに押し付けられても文句の一つも言わないリーダーに、一応感謝を伝える。
帰るまでかなり時間がかかりそうだが、面倒まで見てもらうなんてなんか悪い。
「必ず見付けてやる」
ぽん、と大きな手が頭の上に乗せられた。
優しいリーダーだ。
きっとこの人は、不良を放ってはおけない親方タイプかな。不良じゃなくても、困っている人は放っておけないのかも。
こんな人が教師ならあたしも進路に迷わないのにな、とか思った。
「お願いします」