05 支部基地
じりじりと焦がそうと照らしてくる太陽が憎たらしい。ただでさえ真っ黒い服が熱を吸収して背中が焼けそうなのに、空気はからからした生温さで付きまとう。
腹に肩が食い込んでて酸素もまともに吸えないと言うのに、呼吸が苦しい。そして暑い。
「っだぁ!! あちぃ! お兄さん降ろして! 自分で歩く!」
いつまでもあたしを担いで運ぶリーダーにもう一度提案したが、さっきと同じ返事がくる。
「こんな傷だらけの足で歩かせられない。もうすぐ着くから我慢してくれ」
腹筋で起き上がったがその返事を聞いて、死体よろしくぐったりした。茂みの中走って切り傷作っただけだから、歩けるんだが。信用できないから担いでおくという意味だろう。
硬い肩が腹に入って痛いし、太陽に焼かれてる。
「暑い? 涼しそうな格好しているのに」
「ひ! 触んなこのカマ野郎!! そのキレイな顔を蹴っ飛ばすぞ!」
オカマの声がして太ももを指で撫でられ怒鳴り散らす。起き上がり振り返れば、あたしよりも暑そうな黒い服を着ているのに涼しい顔したイケメン。蹴りてぇ!
「いい眺めよー?」
「お兄さん、もう犬みたいにリードすれば安心でしょ。降ろして。そして蹴らせて」
「犬みたいに? マゾだねー」
「蹴る!! 蹴らせろこら!!」
ニヤニヤ、逆撫でしてくるオカマ。その喧嘩買った!
じたばたもがけば、漸くあたしは地面に降ろされた。
「いい加減にしろ、ニックス。エリもそう構うな」
暴行の許可が出たのではない。リーダーが肩に手を置いて、諭してきた。
そんなこと知るか。
あたしは肩を振ってその手を払い除けた。直ぐに横にいたオカマと向き合う。
ニックスという名のオカマは、面白そうに笑みを浮かべた。
あたしの頭二つ分上にあるその不愉快な顔面目掛けて、足を振り上げる。
驚いて目を丸めたオカマは、間一髪身を引いて避けた。
大きく空振った足を下ろして、両腕が出せない身体が倒れないように踏み留まる。
先手を間違えた。
身長差がありすぎてだめだ。先ずは足から崩す!
顔から足に標準を変えて、長いその脚に引っ掛けるように蹴った。
仰け反った体勢だったオカマが、前のめりに倒れかけたが膝をついて倒れることは阻止する。
あたしは顔の位置が下がればそれでよかった。
膝を曲げて、突き出す。
意図も簡単にオカマの無駄に整った顔に決まった。
「ニックスさん!」
赤毛のティズが顔を押さえるオカマに駆け寄れば、リーダーがあたしを取り押さえる。
へへん! ざまぁ!
と笑っていられたのも束の間、顔を上げたオカマにアメジストの瞳で睨まれた。
レオルド並に怖い。この人も殺る人だ!
「お、お前が悪いんだからな! 自業自得だぞこら! まだちょっかい出すならやるぞこら!」
リーダーに抱き締められつつ、威嚇する。変態=人殺しの世界なのか!?
「やめるんだ、ニックス。手を上げようとするな、自業自得だぞ。もうやめるんだ」
手を突きだしてあたしを庇うようにリーダーは、殺気立つオカマを宥めた。
唯一の味方はリーダーだけ。
オカマは気に入らなさそうに息を吐いた。泥のついた頬を拭うと少し青くなっている。
リーダー立場強いなぁ、と感心していたら。
「ねぇ、毒蛇」
不機嫌にあたしを睨んでいたオカマが、あたしから視線をレオルドに向けた。
「アンタ、怪我したんだって? この子が言ってたよ。アンタ程の奴が怪我なんてするんだねぇ、それともこの子の勘違いかしら。いいのかい? この子、言い触らしちゃうよ」
にやり、オカマは意地悪に笑いかける。
レオルドに殺すよう唆してるー!?
なんて悪いオカマなんだ! 自分の手を汚さないタイプか畜生!
恐る恐る首を動かしてレオルドを見てみれば、頭一個分背の高いレオルドと目が合う。
ひぃ! と震え上がって羽交い締めにしてくるリーダーにくっつく。
リーダーを盾にして逃げる!
じっとこちらを見ていたレオルドが、右手を上げた。かと思えばその右手は、彼の右肩に行き、白い指がその肩に食い込む。
くいっと動けば、黒い切れ端が見えた。ぱっくり切られた跡だ。
「事実だ」
怪我をしたことを認めて、何事もなかったように歩き出すレオルド。
しかし、ピタリと止まった。
振り返ったレオルドは同じく意地悪い笑みを、あたしにではなくオカマに向ける。
「女に顔面を蹴られたことは、オレが言い触らしておく」
毒のように吐き出しては、終わりに鼻で笑い退けた。
女であるあたしに蹴られたオカマとティズの顔がピクリと痙攣する。
険悪ムードむんむんで睨み合うオカマプラスティズとレオルド。
やべーすげぇ対立してやがる。
毎度のことなのか、リーダーは溜め息をついた。その溜め息があたしの頭に落ちてくるんだが。
「……おぉ? あれが支部がある街?」
オカマを蹴ることに夢中で、気付かなかった。
目的地の街は目前にあったのだ。
外壁の奥に、白い街並みが並んでいる。ギリシャの街みたいだな、と思った。
テレビで見てて「行きたい!」と言ったら、父親に拳骨食らったっけ。
外壁に入るには許可証が必要みたいで、リーダーが門にいた人になにかを見せて門を開かせた。
じゃあ出る時も許可証が必要なのか。万が一脱出しなくてはならない時にはこの門をよじ登らなきゃいけないのか、とあたしは三メートルくらいある門を見上げた。
果たしてあたしは本当にここについていっていいのかどうか、ここで本気で迷ったがリーダーに背中を押されて、結局中に入ることになった。
街の名前はモントノールクリムア。無駄に長い。
その街は決して広くないらしく、モントノールクリムアの中心に彼らの支部基地があるそうだ。
モントノールクリムア支部基地。そこに行き、支部長に会わなくてはいけないらしい。つまり学校で例えるなら番長である人に会うんだって。いや、校長か。
その人が直接言い渡した任務だったらしい。
あたしの命運はその人に左右されるわけだ。レオルドやオカマみたいなタイプじゃないことを祈る。
拘束されて兵隊に引き連れられるあたしは勿論、好奇の目に晒された。
なので見てくる民間人にガンつけた。
何見てんじゃごらぁ!
女はドレスを着ていて、男はズボンにYシャツやベスト。言葉通じるけれど、一昔の外国みたいたいだ。
モントノールクリムア支部基地は、警察署のような玄関の白い大きな建物だった。だから物凄く入ることに躊躇する。だけど問答無用に押し込められた。
中はリーダー達と同じく黒い服を着ている男達が多くいて、その男達も同じく好奇の目で見てくる。なので同じくガン飛ばす。
見てんじゃねぇぞごらぁ!
「遅いぞ」
三階まで階段を上がると、廊下を少し歩いてある部屋をノックしてから入った。
聴こえた声は、女のもの。
「なんだ、そのちんちくりんは」
なんだ、この巨乳ねーちゃんは。




