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我ら薔薇特殊部隊  作者: 三月べに
第二章

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36 初命令



 目が覚めると、見覚えのない部屋にいた。

みそぼらしい部屋から百八十度違うホテルのお高い部屋みたい。

簡易ベッドではなく、ふかふかした感触で天蓋のついた大きなベッドから起き上がってボケーと眺める。

なんだここ、ライリの屋敷に似ているが、ちょっと違う。


「起きたか、エリ」


 あたしにとって立派な扉を開けて、見た目麗しい支部長様が、おろした髪を靡かせて歩み寄る。

ああ、ここサリエル支部長のお屋敷か。

理解した。


「あー……おはよう。なんかすげぇ嫌な夢見たんだ……あたしが何故か特殊部隊の隊長になる夢を…………一番最悪なのは、その隊にレオルドがいたんだ……なんて酷い夢だ」

「現実だ」

「聞きたくない!!」

「現実だ」

「ぐああっ!」


 耳を塞いで踞る。

支部長は容赦ない。容赦なく現実を突き付ける。

薄れゆく意識の中聞こえたサリエル支部長の声は、幻聴じゃなかった。

あたしが隊長……隊長!


「なんであたしが隊長なんだよ!? あたし異世界人だぜ!? ライリが適任だろ! 反対ありありだろ!」

「いや、反対する者はいなかった。というか、異論は認めん」

「納得できないっ!! 一番納得できないのはレオルドだ! なにその妥協案は! 結局レオルドの希望叶えてんじゃん! あたしにレオルド押し付けてるじゃん!!」


 病み上がりで叫んだらカラカラの喉が痛んだ。噎せる。

あたしが隊長なのも、レオルドが同じ隊なのも納得いかない。

デュランの隊に入れられなかっただけましかもしれないが、レオルドが一番厄介だ。次に隊長の地位が厄介。


「お前が隊長をやらなくてはいけない理由があるんだ」


 支部長は茶化すことなく、真面目に告げた。

あたしが隊長をやらなくてはいけない理由?

あたしが隊長をやらなくてはならないほどの理由だから、よっぽど重要なのだろう。


「それは?」

「それはまたあとで話す。経験は浅いが、実力は十分だ。それにあっちの世界でもボスをやっていたんだろう? 隊長をやっていけるさ」

「いや、経験なさすぎだから! それに学校の悪ガキの代表だっただけだから!! あたしには無理!」

「そんなことはないさ。ライリー達に意見を聞いてみろ。隊長の仕事はライリーに聞きながらカバーしてもらえばいい」


 あたしに答えながら、支部長は着替えを渡してくれた。

自分を見れば、Yシャツ一枚しか着ていない。隊服に着替えことにした。


「あ、じゃあさ、じゃあさ、ライリー達が反対したら考え直してくれる!?」

「ああ、反対意見があったらな」


 ズボンを掃いてパタパタとその場で飛び跳ねながら、必死に訴えたらすんなりと頷いてくれる。

けど、絶対に反対意見はないという口振り。

そんなわけない。絶対に反対する、ティズとニックスが。

反対意見を貰って考え直してもらってやる!


「……体調はよくなったかい?」


 腕を組んで見下ろすと、支部長は訊いた。

そう言えば、あたしは体調が悪くて倒れたからここに運ばれたのか。寮は男だらけだからなぁ。


「うん、よくなった。迷惑かけて、すみません。ふかふかベッドのおかげで、すんげースッキリ」


 身体の怠けも気持ち悪さも、ぐっすり眠ったおかげで軽い。両腕を上げて背筋を伸ばした。

ああ、スッキリ。


「礼を言うなら、レオルドに」

「え? レオルド?」

「? なんだ、昨日は一度も目を覚まさなかったのか? 一時間前までレオルドは付きっきりで看病をしていたんだ」

「レオルドが?」


 出てきた名前に目を丸めた。

あたしが起きる一時間前までレオルドが看病をしてくれた事実に目を丸める。

それから、一時間前まで意識のないあたしのそばにレオルドがいた事実に驚愕して「レオルドが!?」ともう一度聞き返す。


「な、なんであの猛獣があたしの看病を!?」

「やると聞かなくてな。でも奴のおかげでエリは回復したじゃないか」

「いやっ、いやいや!」


 一晩中意識がないのにレオルドがいたなんて! 悪寒がするわ! なにもされてないよなあたし!?

 思わず身体中をまさぐった。も、問題なし!


「……やはりそういう仲なのか?」

「そういう仲って、どんな仲!?」


 意味深に見てくるサリエル支部長にギョッとする。

「ま、いい。元気なら基地に戻れ」と支部長は部屋を出ようとしたので慌てて呼び止めた。


「蜘蛛、あたしの蜘蛛は?」

「ペットか。見ていない」

「あぁ……そうなんだ」


 部屋を見回すが、蜘蛛の姿のメデューサは見当たらない。レオルドに見付かって駆除されていないよな。不安になったけれど最初からいないみたいだ。

まだ戻ってきてないのか……?


「あの、サリエル支部長。話そびれたことがあって……すぐに報告出来ずにすんませんでした」


 一応頭を下げて前置きをする。

支部長は足を止めてあたしを振り返った。


「あの蜘蛛、例のメデューサなんだ。死神から助けてくれて、それから一緒にいるんだけど……レオルドが殺しそうだから、黙ってた」


 蜘蛛の正体を明かせば、流石に彼女は驚いて目を見開いた。

「メデューサは魔女が生み出した生き物で」とメデューサの実態から話して、メデューサから聞いた魔女の守護霊からタルドンマカールとの関連を簡潔に伝える。

終始支部長は眉間にシワを寄せていたけれど、数秒してから一応信じてくれたのか、頭を縦に振った。


「つまり、守護霊の魔女に何か目的があってまだお前を帰すつもりはないと?」

「うん、そうらしい」


 ちょっぴり気にして背後を見てみる。やっぱりあたしには見えない。気配も感じない。

見えるのは、メデューサだけ。

 支部長は顎に手を当てて深刻そうに少し考えたが、「わかった」とだけ答えた。

黙っていたことは、お咎めなし。

メデューサは今まで通りペットとして部屋に置いていいみたいだ。

「お世話になりましたー」とあたしはまた頭を下げてから、出勤した。





「隊長! もう身体は大丈夫なのか?」

「隊長ー、元気になったの?」

「隊長、もう少し休んだらどうだ?」


 トレーニングルームに入れば、ティズが真っ先に駆け寄ってきた。

ニックスはいやがらせで"隊長"とニヤニヤしながら言い、ライリーが保護者のように気遣う目で見ながら近寄る。


「やめろ! 隊長呼ぶな!」

「エーリー」

「うぎゃあああぁあっ!!」


 隊長と呼ぶなと怒鳴り付けていたら、背中にぴったりとレオルドが張り付いてきて、冷たい息を耳の裏に吹き掛けられた。震え上がり、離れてライリーの後ろに避難する。

 レオルドはにっこりと笑みを浮かべていた。腹を満たした猛獣みたいにご機嫌だ。

お前昨日あたしに何した。


「あーもう、悪い昨日は。治ったよ。親父と連絡できなくなって、ちょっと病んじまって眠れなかったんだ。それで体調悪くなった、すまん」

「……いや、いいんだ。気付けなくてすまない」

「いいんだよ、言わないあたしが悪かったから」


 ライリーが申し訳なさそうに言うから、罪悪感を覚える。

気遣われると、ムズムズするからやめてほしい。

 その話は早く片付けることにして、隊長の件にすり替える。


「で、隊長の件なんだけど」

「就任祝いするか?」

「しねーよ! なんだよ、ライリー! アンタ、不満はないのか!? こんな小娘に隊長の座を奪われたんだぞ!」


 ライリーが能天気にあたしの隊長就任祝いを提案するから一蹴した。


「いや……オレは隊長の座に執着心はないからな……」


 あたしが怒る理由がわからないのか、困ったようにライリーは頭を掻く。

 な、ないだと!?

ライリーは隊長じゃなくてもいいだと!?


「ティズはあたしが隊長だと嫌だよな!?」

「……嫌じゃないけど。いや、別にエリが隊長に相応しいとか思っているわけじゃないぞ! ライリー先輩がフォローするなら、実力的にも勤まると判断しただけだからな!」


 頼むから反対してくれ! 祈ったのに届かず、ティズまで受け入れると言い出した。

 すがるように、次はニックスに目を向ける。

あたしが反対してと念じていることを知っているニックスは、にっこりと笑みを浮かべた。


「勿論賛成に決まってるでしょ、エリ隊長」


 清々しいほど爽やかな笑顔でニックスはあたしの期待を裏切りやがる。

語尾にハートをつけるから、隊長の権限でこのイケてるオカマをクビにしてやろうかと思った。

 念のために、念のために、レオルドを振り返る。

突っ立って見ているレオルドは、あたしと目を合わせると首を傾げた。

話聞いてなかったのか。コイツ本当に協調性ねぇな、おい。

 頭を抱えて呻く。

サリエル支部長の言う通り反対意見がない。

あたしは隊長をしなきゃいけない運命なのか。


「まぁ、エリ。ちゃんと隊長もこなせるさ、オレがフォローするから」

「ええいっ! うるさいやいっ!」


 ライリーにポンポンと肩を叩かれて宥められた。

隊長なんて、隊長なんて、無理だっ!

学校の番長と訳が違うんだぞ!

 その場で膝を抱えて拗ねていたら、あたしを放っておいてニックスが「エリの隊長就任と快気祝い、どこでやる?」と言い出す。

本人の意思を聞かずに祝う気満々だ。どうせ酒が飲みたいだけだろう。


「おいこら! なに勝手に決めようとしてんだよ!? 今日は天ぷらを食うの!」

「またエリの食いたいものかよ……でも天ぷらはまた食べたいから、賛成」

「そうね、賛成」

「賛成だ」


 ティズもニックスもライリーも、天ぷらに賛成。

天ぷらだけ満場一致かよ!

レオルドは意見しようともしないから、訊かないでおく。


「じゃあ……蓮根取ろう」

「蓮根? 蓮の?」

「蓮咲いているんだろ? 掘りにいこう」

「はぁ? 泥まみれになるじゃないか」

「はぁ? なにをほざいてるティズ。泥まみれになって食べ物を手に入れるのが普通だろ!」

「どんなサバイバル生活よ」


 蓮根堀りを言い出すと、ティズもニックスも嫌がる顔をした。

蓮根を食べる風習はないらしい。


「ええいっ! 隊長命令だ! 蓮根掘りに行くぞ! 野郎共!!」

「初命令が蓮根掘りでいいのか!?」

「自棄ね」


 隊長の権限で強制的に蓮根掘りに連れていくことにした。

お腹が空っぽだから、いっぱい好きなものを食べなきゃ気がすまない。

 ティズ達を蹴り出していくと、レオルドは黙ってついてきた。

足を止めてレオルドを見上げる。


「……あたしの命令には従えよ、レオルド」

「従ってあげる」

「……あ゛ぁ?」


 釘をさしたら、上からものを言う態度にカチンときた。


「隊長になったんだ、喧嘩するな!」


 あたしが手を出す前に引き返してきたライリーに首根を掴まれる。

 ぐうっ……!

あたしが隊長とかぜってぇ無理だっ!!




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