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33 安眠の妨害




  バンッ!


部屋のドアが開かれて、眠っていたあたしは飛び起きる。

 なんだ?なんだなんだ?

パチパチと瞬きをして訪問者を見上げる。

そこにいたのは、にんまり笑みを浮かべたデュラン。黒いYシャツを前開きにして、ムキムキの上半身を惜しみ無く晒している。

そのデュランが何故真夜中に。


「エリーゼ。飲み、付き合え」

「は?いや…あたしの世界ではあたし未成年だから」

「郷に入りては郷に従え。飲め」

「う、お、お、おっ」


 どうやら既に酒を飲んでいるらしく、アルコールの臭いがした。

首を掴まれ、強引にベッドから引きずり出される。そしてあたしの向かい側にあるデュランの部屋に入れられた。

 ひぃい!猛獣使いの部屋に入れられた!?

寝起きの頭でもヤバさがわかったが、逃げる前にベッドの上に放り投げられた。

 …………………何故、ベッド!?

混乱している間に、デュランが真上に覆い被さるように乗り込んできた。


「んぅー……眠ぃ」

「!?」


 驚愕している間に、デュランに押し潰される。

厚くて硬い胸板に押し潰されたかと思えば、デュランが深く息をあたしの頭に吐いた。

 それからデュランから規則正しい呼吸が聴こえてくる。……寝た。

長身のデュランにすっぽりあたしの身体を隠されている。うんベッドの上でね。

長身で筋肉質だから、かなり重い。

右手がデュランの腹筋とあたしの腹に挟まれている。片手ではデュランを退かせない。重い。重すぎる。

つうか腹筋、やっぱりくっきりだなぁ。父さんと大違いだぜ。

つうか熱い。なにってそりゃあ、デュラン?直接肌に触れてるから、アルコールが回ったデュランが熱く感じる。

いやいやいやいや、そんなこと感じてる場合じゃない。

いい身体に押し潰されてるけど、全然よくないぞ。脱出しないと。ややこしいことになるぜ。

 くそう、今日に限ってメデューサが、食事を摂るとかで出掛けてる。

メデューサの食事は聞かないことにした。

「夜じゃないと獲物が獲れないんです」と笑顔で言ってたから。知りたくない。


「………」


 物凄く頼りたくない相手だが、大声を出してデュランを起こしたくない。寝てくれてよかった、酔っ払いになにされるかわかったもんじゃない。

 だからライリ達ではなく、デュランの隣の部屋の主に助けを求めることにした。


  コンコン。

  コンコン。コンコン。


少し待ってみたが、返事はない。

寝ているのかな、寝てるだろうな。もう一度指で叩いてみた。


  ドン!


……返事がきたが、これは煩いって意味だな。安眠妨害して悪いな、道ずれにしてくれるわ。

あたしだってデュランに邪魔されたんだもん。

めげずに叩いてみた。嫌がらせじゃない、これはSOSだ。


  バン!


次はデュランのドアが開かれた。

デュランの肩越しでレオルドと目が合う。


「デュランを退かして」

「………」


 ヒラヒラと左手を振って頼む。

レオルドは沈黙したまま、少しの間あたしを見下ろす。歩み寄ってくると、デュランの顔を覗く。


「デュランが酔ってあたしを部屋に放り投げて潰れた。退かしてくれね?右手が潰れてんだけど」

「……見返りは?」

「は?」

「見返りはなに?」

「うっ」


 デュランの背中に手を置いたのか、更に重くなって胸が押し潰された。

見返りを求めてくるとかっ…くそう。


「わかった、メシ奢る」

「これ。これがいい」


 レオルドは自分の唇を、人差し指で叩いた。

そうくるかっ…!くそう!

 デュランと朝まで一緒、レオルドに噛まれる。天秤にかけたら、レオルドの方がましだと思えた。


「わかった…一回だけだからな、一回噛みつくだけだからな」

「エリから」

「…は?」

「エリが、して」


 ぽんぽん、人差し指が跳ねるレオルドの唇を凝視する。

あたしがその唇を?あたしからその唇をなに?え?噛めと?は?


「オレがしたみたいにやってくれなきゃ…このままにする」

「ぐっ…………わかった……くそ、わかったっ…」


 デュランに体重をかけてレオルドが急かす。

屈辱だ。こんな奴に助けを求めるんじゃなかった!

それでもレオルドの要求を呑むことにして、助けてもらうことにした。

軽々とデュランを退かすレオルド。デュランはあたしの隣に転がる。起きる気配なし。

 ふはー。自分の身の軽さを痛感する。

起き上がったら、休む暇もなくレオルドに腕を掴まれて、デュランの部屋から出された。

 それからあたしの部屋へ。

ベッドに押されて尻をつく。

鼻が触れそうなほど近い位置に、レオルドの顔。


「ちょーだい」

「……まじ?」


 頬がひくつく。

ほぼ無意味だが、後退りする。

レオルドはベッドに乗り込み、あたしを追い詰めた。

 ひぃい……!


「やり方、わからないの?オレがどんな風に唇を噛み付いて、どんな風に舌を絡めて、どんな風に動かすか」

「うるせ!言うな!生々しい!」


 顔を覗き込んで、わざとゆったりとした口調でレオルドに迫られた。

やればいんだろやれば!屈辱だ!

 薄い青い瞳と向き合う。

レオルドは挑発的な笑みを浮かべた。うわぁ出来ねぇとか思ってんだな!くそっ、目にものを見せてやる!

 レオルドの顔を両手で押さえて、意を決して目を瞑り唇を押し付けた。

舌を滑り込ませて、絡めとる。

違和感がしたが、こんな感じだろう。こんなんでいい、よな?林檎にかじりつくみたいに、唇で噛み付く。


「ぁ…んっ…」

「っ」


 口の中にレオルドの声が溢れてきたから目を開いたら、思わず離れた。離した舌から糸が引いて、それが恥ずかしくて拭き取る。

 目の前のレオルドは、目をとろんとさせて頬を赤らめていた。


「気持ちいい…もっとして…」


 恍惚とした顔で吐息と一緒に囁く。

ぞわぁっと悪寒が背中に走る。

ひぃい!こわっ!息荒い!こわあっ!


「もういいだろ!部屋出ろ!」

「もっと。……しなきゃ、デュラン起こす」

「ぐっ…!」


脅迫しやがる変態。この変態っ。

酔っ払いのデュランが起きたら事態は悪化する。くそぉ!


「これで最後だからな!これやったら部屋出ろよな!約束しろ!」

「うん、約束する。早くっ」


 レオルドの吐息が頬にかかる。相変わらずとろんとした薄い青い瞳であたしを見てきて、自分から唇を重ねてきた。

 さっきと同じように舌を入れると、レオルドが自分から舌を絡めてくる。気のせいか、さっきより口の中が熱い。


「ふっ……んぅっ…」


 レオルドの手が髪を指に絡めながらあたしの頭を押さえ付けられる。

あたしもレオルドの頭を固定してるから、なんか、これ、エロイぞ。いや、今更かっ。

 湿った舌と舌が絡み合う。

クチャクチャとぐちゃぐちゃになる口の中で音が立つ。

レオルドの呼吸が更に荒くなり、甘い吐息を溢す。

 もう無理!限界!チキン肌ぁああっ!

レオルドの顔を押し退けるけど、直ぐにレオルドに引き寄せられてまた唇を塞がれた。


「れおっ…」

「んふっ」

「っも、やめ…」

「もっとぉ」

「んんんっ!」


 ゴクリ、とレオルドが唾液を飲み込むと吐息を漏らしてあたしの舌を吸い上げる。

 こっのっ野郎っ!

唇の中の唾液を全て奪うみたいに、激しく噛み付いてくるレオルドの舌に歯を立てて抵抗しようとしたが、その舌が引っ込んだ。ギッと歯を噛み締めて拒否。

 すると逆にあたしの唇に歯が立てられた。

間近にある薄い青い瞳を睨む。

大人しく口を開けろ、と目で云うレオルド。口を押し付けあったまま停止。

 もう十分だろうが!部屋出ろ!とあたしが唸ると、レオルドはペロッとあたしの唇を舐めた。それから唇の先で軽く挟んで、あたしの唇を遊び始める。

 つまりはやめる気がねぇのか?

苛立ちが膨れ上がった。

だから、魔術を発動。

レオルドの肩を握って電流を流す。

触れていたあたしの唇にもピリッときた。自分も感電するのはわかっていたからちょっと強い静電気程度。

おかげでレオルドがビクンと震えて離れた。痺れて上手く動かせない手でレオルドを押し飛ばせば簡単にベッドから落ちた。


「もう出てけ!さもなきゃ次は気絶するやつお見舞いすんぞ!」

「…………エリ、最近元気ないよな」

「は?」


起き上がったレオルドがベッドに顎を置いて呟く。


「元気ない、暗い」

「明日はてめえのせいで寝不足だっ!出てけ!」


 レオルドを追い出して、外から開かないように施錠の魔術をかける。これで入ってこない。

ベッドに俯せで倒れる。

そして枕に顔を埋めたまま溜め息をつく。

 携帯電話の電池を魔力で注げたらいいのに。試したがだめだった。


 あれから四日が経つ。


守護霊の魔女は帰り道を未だに教えてくれない。

二回目の異世界滞在は四週間目だ。

あと何日で帰れる?あと何日で父親と会える?

それを考えると、なかなか眠れなかった。




  ダンダンダンッ!


 ドアが叩かれる音に目を開く。ティズの目覚ましコールだ。

寝不足のせいか、今日はいつもより気だるくて起き上がれなかった。


「ゲホッ」


 喉が乾燥してて咳が出る。ちょっと熱っぽく感じるが、寝起きだからだろう。

起き上がろうと寝返りを打つと、隣にいたデュランとぶつかった。

あ、悪い。と咄嗟に声が出たが掠れて言えてなかった。


「……………………」


デュランが隣にいる。

寝て、いらっしゃる。


「うぎゃあああああっ!?」


 ばっと飛び起きる。

何故!?何故だ!?

あたしは昨夜、毒蛇といかがわしい取引を交わしてデュランから脱出したはずでは!?それは夢だったのか!?

と周りを見てみたがここは間違いなくあたしの部屋。

 なんでデュランがいる!?つうかどうやって入った!


「うるせぇ……」


 低い声を、デュランは目を開かないまま出して、あたしに腕を回して引き寄せた。

デュランの立派で熱い胸板に顔を押し付けられる。Yシャツを着ていないから、素肌に密着。


「…大人しく、抱かれてろ……ティアナ……」


 眠気たっぷりにデュランは低い声で、色っぽく囁く。

…寝惚けてやがるのか?

誰だよ、ティアナって。

 寝惚けてるくせに力が強くて頭に回された腕が外せない。

廊下が騒がしくなった。あたしの悲鳴にティズ達が慌ててる?


「るせぇ…らしくねぇぞ……」

「っ!?」


もぞ、とデュランが動いたかと思えば、耳たぶを噛み付かれた。


「ん?おい、ティアナ…ピアスは…………あ?」

「………」


 デュランが瞼を上げて金色の瞳であたしを見る。漸く覚醒したようだ。

ポカーン、と瞬きをするデュラン。

 その直後に、ライリ達が突入して入ってきた。

全員が事態を飲み込むまで、静止するのだった。






エリは、気に入ると好きは別だと思っています。

レオルドは、気に入ると好きは一緒です。




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