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31 メデューサ


 振り返ってあたしを見上げる十歳くらいの少女は、灰色のおめめであたしを不安げに見つめてくる。

うっかり目を見てしまったが、石化はしていないと思う。

 メデューサ。

こちらでも同じ神話が存在している。目を合わせたら石になるという、蛇のような化け物。髪は蛇、そして美しい女の姿をしているが下半身は大蛇。というのがあたしの世界でのメデューサの姿。

 しかし目の前にいるメデューサと呼ばれる少女は、……人間だな。


「……あ、りがと」

「……」


 髪がメデューサの触手に変わっていたから、彼女こそがメデューサ本体。彼女に助けられるのはこれで三回目だ。

 戸惑いつつもお礼を言うと、頬を赤らめて唇をキュッとしめて俯いた。

物凄く美少女だから、可愛い。女のあたしから見ても可愛い。

誰だよ!メデューサを見たら生きて帰って来れないとか言った奴!めちゃくちゃ可愛いじゃねぇかこら!


「……メデューサ、かな?」


 一応確認で聞いてみた。

コクコク、とメデューサは頷く。何故嬉しそうににんまりしてるんだろう。とにかく可愛い。

 キュンとしつつも、彼女がメデューサならば百年前からいる生き物だよなぁと思い出す。


「百年前から、いるのかな?」


 コクコク、とメデューサは頷いた。

人間じゃない。魔女が産み出した生物って説が当たりか。


「喋れないのか?」

「喋れます」

「じゃあ喋れよ!」


 腰を降ろして口が聞けないのかと訊いたら、あっさり可愛い声を出したから思わずツッコミを入れた。

そしたらビクンッと震え上がったメデューサは、涙を浮かべて今にも泣き出しそうになった。


「お、おぉ…声を上げて悪かった…泣くなよ、な?」


 泣いている子をあやせない。

慌てて謝れば、メデューサは鼻を啜り涙を拭った。

落ち着いたと判断して単刀直入に訊く。


「あたしをこの世界に召喚したのは、アンタか?」

「はいっ!」


 清々しいほど爽やかに笑顔でメデューサは犯行を認めた。

そうか、おめぇか。

くそ、殴ろうと思ったのに、殴れねぇよ!

清々しいほどあっさり認めた上に、美少女で殴れない!しかも悪いと欠片も思っていやがらねぇよ!


「本当はもう少し計画を練ってから貴女様を召喚しようと考えていたのですが、あたくしの独り言をピンクキャットというお方に聞かれてしまいまして、捕獲をされて強制的に貴女様を召喚させられたのです。そのままタルドンマカールに連行される予定だったのですが、毒蛇というお方が登場したのであたくしは森に逃げて貴女様を奪還しようと機会を伺ったのですが、失敗して貴女様はアルトバスボリスへ。しかし幸いアルトバスボリス側は親切にも保護をしてくださったのであたくし安心しておりました!森でピンクキャットに襲われて怪我を負った時、あたくしはこの身が裂けるような苦しみを感じました…!しかし流石です…!自ら治して生還するとは!メデューサ感激です!まともにお話が出来ないまま帰ってしまわれたので、あたくしはとてもとても寂しかったです。ピンクキャットがまたあたくしに召喚させようと捕まえに来たので逃げ回っていて呼び出す暇がありませんでした。しかし、漸く召喚できてこうしてお話が出来るようになりました!メデューサ嬉しいです!」


 清々しすぎるほどにメデューサお喋りっっっ!!

一回目も二回目もメデューサが召喚。しかも一回目はうっかりタルドンマカールに知られたから。

洗いざらい反省の色なしの笑顔で、たまに目をキラキラ輝かせて、最後には嬉しそうに頬を赤らめて喜色満面に笑ったメデューサ。

 おっ、怒れねぇええっ!!

こんな少女にあたしは振り回されていたのか。このおバカさんにか。くそ、保護者どこじゃ、面貸せこら!


「メデューサ?…何で二回目の召喚の時、声かけなかったの?」

「…それは貴女様の機嫌が…悪かったから…その……近付けなくて…」


 不安げに身を縮めるメデューサ。

どうやら怒鳴られることが苦手らしい。二回目の召喚は怒鳴り散らしていたあたしに怖くて近付けないまま見送ったというわけか。


「じゃあ、会いに来るの遅すぎないか?あたし、待っていたんだけど」

「まぁ!エリ様があたくしを!?嬉しいです!……ですが、エリ様があまりにも楽しそうだったので、お邪魔するタイミングが掴めなくて…」


 額を押さえつつ押さえれば、メデューサがぱぁ!と笑顔を輝かせて、にこにこ笑いかけてきた。

え、つまり、なにそれ、ずっと見てたってこと?

そりゃあ楽しかったけど、ライリ達といる日々は。でもタイミングなんていくらでもあったろ!?

だめだ!天然だ!この子天然さんだ!

とんでもない疲労感に襲われた。


「あら?エリ様、朝御飯を抜いたからご気分が悪いのですか?」


 朝飯食わなかったことすら知ってるよ。メデューサがストーカーだよ。天然ストーカーだ!自覚なしのストーカーっっ!!


「メデューサ………なんであたしを召喚できたんだ?召喚するにはあれだろ、異世界を知ってなきゃ召喚出来ない」

「ああ、それは」

「あ、いや。いい。それより先に、魔法陣を教えて。異世界を行き来する魔法陣」


 あたしを召喚した魔法陣。

エリ様とか貴女様とか、呼び方からしてメデューサの事情を聞かない方が賢明だと判断。

 とりあえず魔法陣を確保したい。魔法陣を聞き出してサッと帰ったりしないが、レオルドがこの子を殺さない保証はないので先に暗記しておきたい。

百年生きたこの子を殺せるかはわからんが。

 メデューサは困ったように首を傾けて、視線をあたしの斜め上に向けた。

誰かいるのかと振り返ったが鬱蒼とした森があるだけで誰もいない。


「それは出来ないそうです」


 それは出来ないそうです。

なにその言い草。まるで誰かと話したみたいじゃないか。

もう一度メデューサが見たであろう先を見てみたが、やっぱり誰もいない。


「えっと、何故?」

「魔女様が拒否しております」

「……」


魔女?

魔女って、メデューサを作り出した魔女?

もう一度周りを見回したが、魔女は見当たらない。


「魔女って、何処に」

「貴女様の後ろです」


  バッ!!

振り返ったが、やっぱり誰もいない。いないじゃん!

べ、別にビビってねぇし!!


「魔女様は貴女様の守護霊なのです」

「守護霊だと!?」


メデューサは電波ちゃん!?

頭大丈夫!?

振り返っても、いない!


「お亡くなりになった魔女様は異世界で生まれ落ちた貴女様の守護霊となったのです。魔女様に生み出されたあたくしは、異なる世界にいても魔女様の魂とお話ができ、時には視界の共有もできるのです」


 にこぉ、と毒気が抜かれる無防備過ぎる笑みで話すメデューサ。

お医者さんに診てもらった方がいいよ。そうだ、先ずは精神科に行こうか?


「エリ様はとても素敵なお方。幼い頃からお父様を支えて生活をしておりましたね」


仕事クビになって父親がぐれる前に急かしていただけだ。


「たくさんの方々に慕われておりましたね」


わんさかと不良達になつかれて慕われてただけだ!


「エリ様の存在が偉大すぎて行く先々で道を譲られておりましたね」


それ怖がられてただけだからっっ!!

アンタ何処まで知ってんだ!?


「エリ様には役不足のお仕事だと就職希望先では断られておりましたね」


つーかアンタは何故全てを美化してんだ!!?

全てを脳内で美化をするスキルを持ってんのか!?

声を張り上げて訊きたい!つうかツッコミてぇ!

 だが、声を上げたら泣くだろうから必死にそりゃあもう必死に堪えた。

 あたしの守護霊で、生みの親の魔女と魂が連携していて、話ができて見ているものが同じ。

それならバカげているが、バカげているが、バカげているけど、メデューサがあたしを知っているのも納得できるかもしれない。いやできないかな。ううんできる。いやできない。いや。いや。いや?

 数分だけ沈黙して頭の中を整理して、一度散らかして整理した。

それで守護霊の魔女の目から、あたしをストーカーしていたと。

そうかそうかそうかそうか…。


「あたしを召喚した理由は……?」

「はい、魔女様とエリ様とお会いしたかったからです」

「ざけんなっっっ!!!!」

「ひゃうっ!」


 会いたいから勝手に呼び出したと、遥々異世界からか!

耐えきれず怒鳴り付けたら、震え上がって目一杯に涙を浮かべた。ぐあっ!泣くな!泣くな!


「メデューサ、帰り道を教えてくれ」

「だ、だから…魔女様がだめだと…」

「な、ぜ?」

「ふういっ…!…異世界に繋がる召喚魔術の魔法陣は…複雑で…魔女様から教えてもらえないと……でも魔女様が、だめと」


 だから何故!?

メデューサの肩を握り締めながら後ろを振り返って睨むが、やっぱり見えない。


「何故っ、何故っ……あれ?……つまり、なんだ?魔女の魂があたしに憑いているから、タルドンマカールはあたしを狙ったのか?」

「いえ、正確には魔女様の全てが与えられた貴女様を、手中におさめたいということでしょう」


 手で顔を押さえて呻く。

タルドンマカールが狙う理由は、あたしの守護霊が魔女だから。


「…魔女の全てって、なに?」

「薔薇に触れる夢をごらんになられたはずです。その薔薇は魔女様の魔力、エリ様に全てをお渡ししたのですよ」


 にこっ、と涙を引っ込めたメデューサは笑いかけた。

うんと奥にある記憶を掘りおこす。薔薇の夢を、見たような、ないような…。うわ、見た。

あたしの魔力は魔女にまんま貰ったものなのか。そうか。ソウカ。


「あまり知られておりませんが、通常の人間よりも魔女と呼ばれる人間の方が魔力が清らかなのです。清らかな魔力の方がコントロールが容易く、より多くの魔術を扱えるのです。最も清らかで多くの魔力を持って生まれた人間を、昔は魔女と呼ばれておりました。現在魔女と呼称されるほどの魔力を持つ人間は……あ、エリ様がいらしておりましたね!」


守護霊の魔女に魔力を与えられて魔女になったのか。

知らぬは本人ばかりっ!!


「………魔女はなんて言ってるの?何故あたしを帰してくれないの?」


 脱力しつつもなんとか理由を問う。

メデューサはあたしの斜め上に視線を移して、コクコクと頷いた。


「今は教えられませんとのことです」


 何故だぁあっ!?

悲劇のヒロインポーズをして俯く。ちょっと、吐きそう。あ、吐くもん腹にねぇや…。


「時が来たら教えるそうです。…お腹が空いていらっしゃるのですか?アルトバスボリスにお帰りになりますか?」

「………そうだな…アルトバスボリスに、戻るか…」


あたしの顔を覗き込むメデューサの肩を掴む。ポンポンと叩く。


「一緒に来てくれる?」

「……はいっ!喜んで!!」


聞いてみれば、メデューサはキラキラと目を輝かせて喜色満面の笑みで力強く頷いた。

 メデューサがいないと"その時"とやらになっても、わからない。だからそばにいてもらうことにしたが、一つ問題が。

 レオルドが、メデューサを始末する可能性が大いにある。有言実行、彼はメデューサを殺しかねない。

あたしを帰さないために。


「メデューサ、他の人にはバレずにあたしのそばに…」

「はい。できますよ」


 ポン、と目の前にいた少女が消えて代わりに地面にはタランチュラ。

 瞬時に変身した。ボキボキとかゴギゴキとか、グロいシーンもなかったな。すげぇ。

タランチュラを手に取り、肩に乗せてから魔法陣を描く。

 ふぅ、やっと戻れる。

支部長室を思い描いて魔力を注いだ。


  ふにゅ。


床ではない感触に目を見開く。

地面に触れていた掌の下には、レオルドの顔。

なにこれ、死神よりホラー。


「エリ……!」


目を見開いたレオルドが、笑みを浮かべた。脳内停止中。瞬きをして何故いきなりコイツと出会したのか、原因を解明しようとした。


「お前、なんで…床に?…簀巻き?」


レオルドはよくよく見たら、縄でレオルドの身体はぐるぐる巻き。


「エリを救出するって暴れたからな、縛っておいた。遅かったな、よく無事に戻った」


 顔を上げれば目の前には見た目麗しい美女の上司、サリエル支部長。

なるほど。レオルドを押さえ込むのは不可能ではないのか。

上から退くとうねうねと動いてレオルドがすり寄ってきた。キモっ!

それを避けつつ周りを確認、支部長室にはあたし達しかいなかった。


「死神と戦ってて遅れたんだ。えっと……タルドンマカールの人間を転送しちゃったんだけどぉ…」

「エリから直接話を聞くまで応接室で待ってもらっている」

「…すんません、勝手なことして」

「全くだ」


 あたしが送った脱獄仲間は無事らしい。一応謝罪すると、特に怒った様子もなく手元の書類にペンを走らせる支部長。


「アリエール部隊で手配を済ませろ」

「!…了解っ」


その言葉は移住許可のお言葉。


「仮住まいはライリにツテがあるそうだ。その他諸々の手続きはリンクに任せる。お前が拾ってきたんだ、ちゃんと面倒見ろ。責任者はお前だからな」

「うっ…」


眼差しと共にキツイお言葉がきた。責任者か。責任。オモイゼ…。


「あっ…寮ってペット可?」

「動物まで拾ってきたのか?」

「蜘蛛だよ」

「蜘蛛?」


ついでに肩に乗せたメデューサこと蜘蛛の飼育の許可を得た。

潰されるなよ、と忠告された。

うん、レオルドに潰されないようにする。


「ピンクキャットとオニアは?」

「オニアを奪還して退却した」

「……被害状況は?」

「怪我人が五人、損失は直しているところだ。あとで報告書を出せ、ほら早く行け」


オニアは逃げた。死人は出ていない。

 手早く答えると支部長は右手を一振り、レオルドの縄を解いた。

自由になった途端、立ち上がったレオルドがあたしを腕の中に閉じ込める。


「触んなこら!」


 アッパーを食らわせようとしたが空振りに終わった。避けるために離れたレオルドがニマニマと笑みを浮かべている。

支部長の前で堂々とセクハラやりがった!こいつっ!

 じりじりと後退りをしてから、ダッシュで支部長室から出た。レオルドは追ってくる。


「なんで来るんだよ!?」

「誰にも奪われないようにそばで守る。」

「断るっ!!」


近付くなだし!

走って応接室の中に逃げ込もうと、応接室の扉を開けた瞬間。


「エリ!」


聞き覚えのない幼い声とともに、溝に衝撃を食らった。






色々考えて、こうなりました。

恵璃ちゃんはもう少し人を疑うことを覚えた方がいいですよね←



笑ってくれましたか?(笑)

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