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26 祝杯




「反対よ、ライリ!」

「お、オレも反対です!」


 真っ向から反対するニックスとティズ。二人はレオルドを毛嫌いしている。そもそも敵意を抱いていて、仲良くなれそうもない。

それを理解しているため、ライリは困った顔をする。


「アリエール部隊に入る」


 そんな二人の反対なんて気にも留めないで、レオルドは最終決定権を持つサリエル支部長に向かって言った。

 サリエル支部長はリンクとなにかこそこそと話している。リンクが静かにサリエル支部長に耳打ちしていて、サリエル支部長はあたし達を見ながら頷く。

なるほど、と納得した様子。

 え、なに。なに話しているんだ。ただならぬ雰囲気に悪い予感しかしない。


「キングリーン部隊、アリエール部隊」


 見た目麗しいサリエル支部長は、あたし達特殊部隊を呼んで注目を集めた。


「特殊部隊を再編成する。決定したら、発表する」


凛々しく告げるとポニーテールを揺らして、リンクと共にこの場を後にする。


「へ、編成って……?」

「……新しく、メンバーを入れ換える、ということだろう…」


嫌な予感しかしない。

ライリに降ろされてから訊いてみれば、顔を曇らせた。


「それってなに!?まさかあたしキングリーン部隊に入れられるってこと!?勝ったのに!?」

「"キングリーン部隊"を一度なくして、新しい特殊部隊を作って入れるかもね」

「ひゃう!?」


いつの間に立ったのか。背後からレオルドがあたしの肩に顎を乗せて笑う。驚いて距離を取る。

 つまり、つまり、つまり!?

あたしの要求は"キングリーン部隊の入隊に拒否"であるから、"キングリーン部隊"の名称を変えて入れるということか。


「或いは私とティズがキングリーン部隊に入れられ、キングリーン部隊から数人がアリエール部隊に入るかも」


ニックスが眉間にシワを寄せて憎たらしそうに吐き捨てた。

 なにそれ嫌っ!!

あたしはライリとティズとニックスのアリエール部隊にいたいのに引き離されるだと?

あたしはレオルドに睨み付けた。

元凶であるレオルド。


「ふざけんな!撤回しろ!」

「嫌だ。エリと任務がしたい」

「あたしはお前なんかとしたくないっ!」

「オレはしたい」

「あたしはしたくなぁいっ!!」


 駄々をこねるレオルドに撤回を求める。再編成を引き起こした張本人が阻止しろ!

 背後に迫る威圧感に肩を震わせる。

振り返れば、デュラン。真っ向から入ることを拒否した部隊の部隊長。


「どうなるか、楽しみだな?…エリーゼ」


 ぎらついた狂気に満ちた金色の瞳があたしを見下ろして微笑んだ。ゴクリ、と生唾を飲み込む。怖すぎる。

デュランの部隊に入れるな、と要求すればよかった。





「デュランは大人しくしてないわよ。アンタと毒蛇を手元に置こうとサリエル支部長と掛け合うはず。毒蛇まで手元から消えたら、ライリを殺すわよ」

「怖すぎる。」


 レオルドはデュランが何処かに連れていき、サリエル支部長から真意を聞くとライリはティズと一緒に支部長室に行ってしまった。

放心状態のあたしをニックスは背中を押して街に連れ出した。


「優秀すぎる問題児を手なづけることが出来るデュランだからこそ、問題児共が奴の部隊にいる。デュランに従うの、見たでしょ?猛獣で猛獣好きの猛獣使い」


 猛獣で猛獣好きの猛獣使い。

そうだ。確かにデュランはそれだ。

変わっている猛獣を集めることが、手なづけることがデュランの唯一の趣味。


「毒蛇は中でも一番のお気に入りよ。寵愛してる。ほら、初めて会った時、部隊が違うのに毒蛇はいたでしょ?好きなようにさせてやってるのよ。それが毒蛇を上手く扱う方法なのかもね。毒蛇は大事な戦力であって危険な猛獣、拗ねる前に要求を呑まなきゃ支部基地は血の海になるわ」


 レオルドが譲らないならば、要求を呑まないと支部基地は殺戮現場になる。

失うことができない主戦力。かといって宥められるような相手ではない。味方でも危ない。

だから、十中八九あたしとレオルドは同じ部隊に入れられる。


「毒蛇が他人に興味を示すなんて、初めてなのよ。エリ。間違いなく毒蛇の監視役を押し付けられるわ」

「監視されてるのはあたしだよね!?」

「毒蛇がアンタにべったりなら、敵から奪われる可能性はまずない。互いを監視してそばにいるなら、毒蛇は大人しくなるはずだし、エリは守れる。つまり確実にアンタと毒蛇はセットになるわ」


毒蛇を首に巻いて締め付けられながら、敵から守られるわけか。

なるほど。なるほど。


「それってあたしが毒蛇を宥めなきゃいけないってこと!?ふざけんなよぉおっ!!」


あの危なすぎる奴を見張って暴走を止めなきゃいけないのか!

メリットないぞ!デメリットばかりじゃん!


「あたしに出来るわけないじゃん!」

「出来るって、さっき実証したじゃない。感電させて吹き飛ばしてもレオルドはキレるどころかデレデレに笑ってたじゃない。オニアを殺そうとしてたけど、止めたのはアンタでしょ。つまり、出来る」

「ズバッと言うなだしっ!!」


 頭を抱えたあたしは耳を塞いだ。

決闘で勝ったのが仇となっただと?じゃあ勝たない方がよかったのか?

いや、負けたらあたしはキングリーン部隊に入れられていた。

 あたしにどうしろと!?


「っは!…あたしの世界に帰る!」

「帰れないでしょうが」


 自分の世界に帰れば問題解決!

完全なる現実逃避にニックスは脳天にチョップを落として引き戻した。


「オニアから聞き出して帰るぅううっ」

「涙目ね。ほら、胸貸してあげる」

「断る!」

「ちっ」


隙あらば手を出そうとするオカマ。こんな時までやめろや。

 泣きそうになりつつ、あの色黒と色白のコンビの部隊に入れられない方法を考えた。

やっぱりオニアを痛め付けてでも情報を聞き出して、帰るために必要な魔法陣を手に入れよう。それしかない!


「無茶なこと考えるんじゃないの。支部長の考えをライリ達が聞いていったから、それから掛け合えばいいわ」


 あたしの考えていることはお見通しだったらしく、ニックスは呆れて溜め息をつきつつも静かに言い聞かせてあたしの頭を撫でた。

あたしが小柄だからって皆頭を撫でやがって…。


「…ところで、何処行くの?」

「お酒買うのよ。レオルドに勝ったお祝い」

「嬉しくない」

「だから飲むのよ」

「いや、飲まねーから」

「飲めば悩みは吹き飛ぶわ」

「意識が吹き飛ぶわ」


 背中を叩かれて急かされた。

励まそうとしてくれているのか、はたまた酔わせて押し倒す気なのか。

どっちかはわからないが、落胆しつつも一緒に買いに向かった。


「酔い潰れたくないなら、カクテルを作ってあげましょうか?アルコールが低いの。皆が気持ちよく酔っているのに自分だけ素面じゃつまらないでしょ」

「いいよ、別に。アンタらが楽しんで飲めばいいよ」

「一緒に楽しみましょうよ。なに?私のこと信頼してないわね」

「企んでるしか思えない」


 笑って言えるほど、少し元気を取り戻せた。

購入した酒瓶は全部ニックスが持つ。そんなニックスの紳士的な厚意を眺めつつ、支部基地へ戻った。

 支部長から話を聞いたライリは「後程話す」とだけ言われたそうだ。

どうなるかは、決まってから発表ということらしい。

 まるで死刑宣告を待つ囚人だ。

ぐらぁんと落ち込むあたしの背中を撫でながら、ライリ達は酒を飲もうと笑いかけた。


  ちょこん。


あたしの部屋で飲むことになったのだが、何故かそこにレオルドが加わった。


「なんでいるんだよ!?」

「祝い」

「お前を倒した祝いなんだけど?寧ろお前の我が儘に振り回されてやけ酒飲むんだけど?」

「付き合う」

「だから原因お前っ!!」


酒瓶まで持参してきたレオルドは居座って無理矢理参加してきた。勿論、彼と剣でやり合うバカはいないわけで、誰も追い出せない。

が、威嚇はする。


「自分が負けた祝い?アンタ、マゾ?」

「お前は一生オレには勝てないがな」


 嘲るニックスに、嘲り返すレオルド。

心底バカにして鼻で笑う。

バチバチッと火花が散りそうな睨み合い。あたしの部屋で暴れないといいが…。


「飲み競べしましょうよ!」

「オレが勝つけどね」


ニックスは酒を注いだジョッキをレオルドに渡した。レオルドの嘲りにニックスの闘争心に火がついたどころか爆発したように見える。

グビッと、二人は一杯目を飲み干した。

ライリも参加するらしく、グビッと飲んだ。


「オレも!」

「バカっやめろ!」


 バカ!

あたしの制止もむなしく、対抗心剥き出しでグビッとティズが飲み干す。すぐにバタンと倒れた。

 ああ…バカ…。一番酒弱いくせに…。


「全く…困った奴だ」

「てか対抗心強すぎない?」


 死体のようにぐったりしたティズをライリと一緒にベッドに運ぶ。

目を回しておる…。


「キングリーン部隊は天才、アリエール部隊は凡人って比べられるから。劣等感だぁよ」


 答えたのはレオルド。

視線を送る先は、ニックス。

劣等感を抱いている二人をおちょくる嫌な奴になっている。


「凡人って…キングリーン部隊が規格外なだけだろ」

「だからこそ比べられて見下される」

「お前すんげぇ嫌な奴だな…」

「エリのことは見下してない」

「弁解してねぇよ」


 にへらぁ、と笑いかけるレオルドの白い頬は真っ赤に染まっていた。アルコールが回っている証拠だが、白いと余計目立つ。

あたしの何処を気に入ってるんだかわかりゃしない…。

 特殊任務を遂行する部隊だ。キングリーン部隊に比べたら、そりゃ劣るかもしれないが強いぞ。

キングリーン部隊が悪目立ちするだけだ。なに?隊員はそんな認識なの?

 唇を突き出していたら、レオルドが床から立ち上がって身を乗り出そうとしたが、その前にニックスが掴んだ。

 二杯目、突入。


「隊員皆が思ってるの?」

「さぁな…。だが貴族達は思っているだろう」

「貴族?」

「?、言わなかったか?オレ達は貴族の出だ」

「初耳だけど!?」


 お前らそんなナリして貴族!?

驚愕していたら「貧乏貴族だがな!」とライリは豪快に笑うとバシッ!とあたしの背中を叩いた。心臓にまで響いた…。

アルコール入って加減が出来てないライリを、一刻も早く酔い潰そうとどんどん酒を注ぐ。

ニックスがレオルドと夢中に酒飲みをしているから、あたしは酒を飲まずに済んだ。





「…あれ?」


 瞬きをする。

ベッドに座ったまま、横で静かに酔い潰れているティズを見る。視線を少しずらせば、床に潰したライリが豪快なイビキをかいていた。そのまた横に視線をずらせば、壁に背を向けて酔い潰れているニックス。

顔を少し下ろすと、こちらを見上げてくる薄い瞳と目が合う。

 何故だ。いつの間にか毒蛇と二人っきりになってしまっている。

一番酒に強いニックスに、レオルドは勝った。物凄く余裕に見える。


 にんやり、と浮かんだ笑みにゾワッと悪寒が走った。







ヤンデレと二人きり。



ライリ達が貧乏貴族だってことは、頭の隅で覚えておいてくださいね。



毒蛇が兎にデレデレします。



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