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25 毒蛇と決闘




「嫌だっ!!」


 デュランは怖かったが、今後もこの威圧感に当てられるなんて嫌だ。だから嫌だ!

キングリーン部隊に移されることを頑なに拒否してライリの腕をきつく抱き締める。


「あたしはライリの部隊じゃなきゃ嫌!ライリ!」

「…あ、ああ。この通り、本人の意思を尊重します。エリを渡せません」

「っライリ!」


 泣きそうな声ですがれば、ライリは毅然とした態度でサリエル支部長に告げた。感動する。持つべきものはいい部隊長っ!


「まっ、ということだ。デュラン、レオルド」


 サリエル支部長もあたしとライリの意思を尊重してくれるらしく、デュラン達に諦めるよう言った。

ほっと安堵したのも束の間。肩を掴まれる。レオルドだ。


「嫌だ。エリと同じ部隊がいい。エリと任務がしたい」

「はぁ!?知るか!お前の我が儘なんかであたしを引っこ抜こうとするな!」

「嫌だ」

「嫌なのはこっちだ!」

「キングリーン部隊に入って」

「嫌だっつうの!」

「エリが入らなきゃ嫌だ!」

「キングリーン部隊なんて嫌だ!」

「ねぇ、エリ」

「煩い!」

「エーリー」

「煩い!」

「エーリーってばぁ」

「またそれかよ!!」


 ブンブンとレオルドが二の腕を握るため、その手を振り払おうと振り回しながらやり取りをする。

なにコイツめっちゃ精神年齢幼いんだけど!

 あまり感情が顔に出ない方だったせいか、落ち着いている大人な方だと思っていたがかなりレオルドは精神年齢が幼いみたいだ。駄々こねてやがる!

子どもが親にねだるみたいに甘えた声で頼み込んできた。断固拒否!


  ダンッ!


あたしとレオルドの幼稚な攻防に終止符を打ったのは、机を叩いたサリエル支部長だった。


「ぐだぐだと口で言っていても埒が明かない。決闘して決着をつけな」

「け、決闘!?」


 見惚れてしまうほどかっこよく男前に告げたサリエル支部長に、驚愕したのはあたしとライリ。

レオルドの顔を見れば、にんまりと笑みを浮かべていた。





「おい、こりゃなんの騒ぎだ?」

「毒蛇とお嬢ちゃんが決闘だとよ。なんでもキングリーン部隊に引き抜きを拒否してよぉ、双方譲らず決闘で決めることになったらしい」

「まじかよ!面白ぇ!」


「何を賭けたって?」

「部隊先だってよ」


「毒蛇と異世界の新人?こりゃだめだな、毒蛇が勝つだろう」

「おいおい、キングリーンに引き抜かれる逸材だぜ?もしかすると…」

「いや、勝ってほしいが、毒蛇には勝てないだろう」


 あたしとレオルドの決闘は、あっという間に兵隊の大半を呼びつけた。

ざわざわと稽古場の壁に沿って観客する兵隊は、ざっと五十人はいるだろう。

口々に勝敗の賭けをする野郎共の多くは、毒蛇と呼ばれるレオルドに賭けた。レオルドの剣さばきに右に出るものは、デュランとニックスくらいのものだ。

 でも剣を持たされてあたしはそのレオルドと向き合わされた。

 この支部基地のルール。

決闘を申し込まれたら受けなくてはならない。

喧嘩とは違い、何かを賭けた勝負。女だったり地位だったり称号だったり、様々なものを賭けて決闘する。

 つまりレオルドが勝てば、あたしは嫌でもキングリーン部隊に入らなくてはならないと言うことだ。

 横目でサリエル支部長達を見る。

彼女の後ろに揃ってライリとニックスとティズが、心配そうにこちらを見ていた。サリエル支部長が公認した決闘だから、彼らは止めにはいれない。

反対側にデュランとフィロとチャールズ。負けたら奴らにいびり殺される。


「レオルド…」

「なに、エリ」


 今か今かと始まるのを待つ白銀の男を見上げた。病的なほど白い肌は大理石のようで、髪は肌に合わせたみたいなさらさらな白銀。細めて笑う瞳は白銀の睫毛に囲まれていて、薄い青色をしている。

身体は細い腰をしていているが、ちゃんと筋肉がついていて、俊敏に動く。

 異名の毒蛇の由来は、致命傷の猛毒の如く一撃で仕留める刃を蛇のように柔軟にしなやかに動き振るうことからきている。

彼が多勢を殺戮したところを見たし、サクッと大男を容赦なく殺す姿も見たし、どんなに強いか理解しているつもりだ。

勝算?ないに等しいことはわかっている。だが。


「あたしが勝ったら!キングリーン部隊に引き抜こうとすることを禁ずる!」


 剣先を向けて勝利の要求を告げた。

そうすれば笑って答えたレオルドもあたしに剣先を向ける。


「オレが勝ったら、キングリーン部隊に入ってもらう」


 互いに要求をした。

負けた方が勝った方の要求を呑む。

死んでもキングリーン部隊には入りたくない。あんな皆殺しが基本な部隊に、人一人殺したことがないあたしが入るなんて嫌だ。

死亡確率は格段に上がる。なんせキングリーン部隊の内二人はあたしを嫌っているのだ。いびり殺されるのが落ち。

つまり、負けられない。

絶対に、負けられない。

死んでも負けられない。

 深呼吸して、集中した。

ただ目の前の毒蛇駆除に集中する。


「────始めっ!」


 あたしとレオルドの準備が出来たと、判断したサリエル支部長は決闘開始を告げた。


  キィンッ!!


あたしとレオルドの剣がぶつかり合う。レオルドの剣はあたしの剣より半分の細さだが重く、弾き返すことができなかった。

だからその剣を握る手を蹴り飛ばそうとしたが、もう片方の手で受け止められる。

その足を引っ張られて足を崩された。床に四つんばになったあたしに、レオルドは剣を振り下ろす。あたしはそれを剣を翳して受け止めてから、こちらも足を崩そうと蹴るが避けられた。

 五秒経った?

立ち上がったあたしに、蛇のようにしなやかに白い刃が飛んでくる。絶対に剣を離さないためにきついくら握り締めて受け止めた。

体重をかけて押し込むと、腕を顔目掛けて振られる。

それを仰け反って避けてから、レオルドの整った顔目掛けて足を振り上げた。

頬を掠めるだけで終わる。

 レオルドは余裕で寧ろ楽しんでいるように笑っていた。剣が触れないように押し退けてから、レオルドの腹に回し蹴りを決める。

今度は入ったが、レオルドは大してダメージがなかったのか笑みを浮かべたまま向かってきた。

 一分経った?


  キキキィン!


毒蛇の噛み付きが激しくなる。

気圧されるほどの斬撃を、追い付く限り剣で防いだ。ヤバイ。

息もつけないほど繰り出される攻撃。

手が痺れてきた。

 この決闘の勝敗を決めるのは───相手の手から剣を奪うこと。

だから何がなんでも、剣を放してはいけない。放したら負けだ。

毒蛇の毒が回ってきた手が、放すのも時間の問題。

───こっちが先に剣を奪わないと、負ける。


  バチィッ!!


弾いてレオルドはよろめいたが、剣は放していない。

魔術で電流を流したのだが、思惑通りには上手く行かず放してもらえなかった。

幸い魔術の使用は禁止されていない。剣だけでは悔しいがレオルドには勝てない。魔術を駆使して勝たなくては。

 くそ!今ので勝つつもりだったのに!

剣が交わっている間に電気を流して感電させて剣を放させたかった。

二度も同じ手を食らうほど、レオルドは優しくはない。

驚いて目を丸めていたが、レオルドはやっぱり笑っていて、あたしと距離を取る。


  シュルリ。


 レオルドが剣を握る手に、裾から出てきた三匹の白い蛇が絡み付く。

レオルドが魔術で作り上げた蛇だ。こっちも迂闊に近付けない。

あの魔力で具現化した蛇に剣を絡み取られて奪われたら、あたしは負けだ。キングリーン部隊に入れられるくらいなら、この決闘で死んだ方がまし!

無事帰ることを約束した父親のために死ねないがなっ!!


  ボォオッ!


握る剣に魔力を注ぎ込み、その魔力を炎に変えれば、炎を纏う剣の出来上がり。

これなら蛇は絡み付かない。

それを見たレオルドは剣を振り、蛇を投げ飛ばしてきた。

噛み付こうと大口を開けてくる蛇を慌てて切れば、その途端蛇は消える。

 あたしが蛇に気を取られていた隙に、レオルドは距離を詰めた。狙いは剣を持つ手首。治療が可能だから、切断する気だ。

当然の如く例の如く躊躇なしに振り上げてくるレオルドは、勝利を確信していた。

 あたしは狙われた左手を上げて刃から逃げて、屈んだレオルドの腹に足を打ち込む。


  バチィイイッ!!


レオルドは吹き飛んだ。

 通常魔術を発動するために魔力を集めて練り上げるのは、手や手の指先。一か八か、あたしは足の裏に魔力を練り上げて、雷撃の魔動波を放った。

確かサリエル支部長が魔法陣を踏んだだけで、魔術を発動させていたから出来るはず。やれば案外出来ちゃうもので、出来てしまった。

大男を感電させた時とは威力は半減させたが、効果は抜群。

 床に転がったレオルドは呻き、身体を痙攣させる。

その右手から剣は────離された。


「かった……」


 足の裏から魔動波を放つことが出来たことに驚いて、半信半疑で倒れたレオルドを見る。


「勝っちゃった…?」


 左手には剣。魔力を注ぐことを止めたので、炎は消えた。

 あたしは剣を握っている。レオルドは剣を手放した。

勝者は───あたしだ。


「勝った!!」


 キングリーン部隊入りは回避された!

大喜びしてサリエル支部長達の方を見る。五十人を軽く越える野次馬にギョッとする。そう言えばいたんだった、忘れていた。

存在を忘れてしまうほど集中していたが、隊員達は物音立てずに静まり返っているせいで微塵も意識できなかった。

 しーん…、と静まり返っている。

え、なに。どうした。まさかあたし反則した?


「うおおおっ!!」

「勝ったぞおい!!」

「やりやがった!!」

「すげぇっ!!!」


瞬きしていれば、稽古場に歓声が轟いた。反響したせいなのか、空気が震えて鼓膜が破れるかと思った。う、うるせぇ!


「エリ!!」

「すげぇよエリ!」

「やるじゃないエリ!」


 駆け寄るライリとティズとニックスの声も掻き消されて聞き取れなかったが、あたしは歓喜余ってライリに飛び付いた。

拒まれることなくわしゃわしゃと頭を撫でられる。

 あたしはアリエール部隊っ!

あたし生存してるぜい!

むぎゅー!とライリを抱き締めた。


「!」


 いきなり、煩い歓声が消える。どうしたかと思えば、レオルドが起き上がったからだった。

 感電させられて怒ったレオルドに殺される!?

猿のようにライリに抱きついたまま身構えたが、レオルドは何故か喜色満面の笑みを浮かべていた。

怒りの感情は見当たらないが、逆に怖い。

そのレオルドは、爆弾発言をした。


「アリエール部隊に入るっ!」

「っはぁあ!?」


あたしよりもライリが先に反応して声を上げる。耳が近かったため、耳がキーンとした。ふげっ…!


「ちょっと、毒蛇。負けたくせになに言っているのよ」

「エリの要求はキングリーン部隊への勧誘だ、それは呑む。オレがアリエール部隊に入る」


 ニックスがしかめて言えば、レオルドは平然と返した。

痺れているのか、立ち上がろうとしないままレオルドはあたしに無邪気に笑いかける。


「エリと同じ部隊に入る」


 その弾んだ声は、歳上のレオルドを幼く見せた。

見覚えあるぞこれ。あれだあれ。あたしの世界でもこんなことがあった。

「番長!番長!」とあたしを番長として慕う不良達と似た反応。

尊敬と憧れの眼差しが似ている。


「エリのそばにいたい」


毒蛇は薄い青い瞳を細めて笑いかけた。


 どうやらあたしは、この毒蛇になつかれてしまったらしい。







めげないヤンデレ(笑)。


キングリーン部隊入りを回避、と思いきや?


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