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24 引き抜き



  グシャ!


 振り返ったレオルドは白い蛇のように剣をうねらせて、オーガスの眼球に深々と突き刺した。その動作に躊躇なんて欠片もない。

 一撃必殺。一度食らえば死ぬ猛毒の如くの斬撃が決まった。

オーガスがズドン!とまた倒れるが、もう二度と起き上がらないだろう。

 剣を引き抜いたレオルドの表情は、なんとも思っていないと言いたげな無表情。白い剣についた血を振り払えば、その血があたしのブーツに飛んだ。コ、イ、ツ!

 怒る暇などなかった。あたしの足に、オニアが左手で掴もうとしていたのだ。

危うくあたしはラチられるところだった。


  ザクッ!


「うぁ゛ぁああぁ゛っ!!!」


 オニアの苦痛な悲鳴が響き渡る。

思わず口を押さえて吐き気を堪えた。

魔法陣の描かれた左手を、例の如く躊躇なくレオルドは切断したのだ。


「っ毒蛇ぃ!!」

「早く吐かないなら、右手も切る」

「や、やめろ。やめるんだ、お前ちょっと離れろよ」


 恨めしそうにオニアは手を失った左手首を押さえながらレオルドを睨み上げる。

これ以上現場を血塗れにさせないように、レオルドを押し退けた。


「ほら、手貸せよ」


 至極触りたくなかったが、切り落とされた左手の魔法陣を擦って消す。それからオニアの手首をくっつけて、治療魔術を施した。

 指とか足とかが切断された時にくっつける魔術。五体満足に帰りたいがために、身体の構造も勉強して習得した。

このままだと出血多量で死ぬからな。


「大丈夫か?」

「……っ…!」


 ちゃんとくっついたかどうか、確認してもらおうとオニアの顔を見てみれば、途端に爆発したみたいにオニアの顔は真っ赤になる。

 え、なにそれ。まるで好きな子と目が合っただけできゃーって騒ぐ女の子みたいだぞ。

中学校に、そんな子がいたな…。周りにバレて冷やかされて相手は避けまくって、女の子は落ち込んでたっけ…。

 しょうもないことを思い出していたら、背中から冷気を察知。振り返ればレオルド。


「……殺す」

「なんで!?」


 殺すなって言ってんだろ!

目的を吐かせるんだから!

レオルドから庇うとオニアに盾にされた。血塗れなのに背中にしがみつかれた…新調したばっかの上着がぁあ…!


「おい!オニア!あたしは味方じゃないぞ!訊いてること答えなきゃまたレオルドが切り落とすぞ!」

「そーしたら、またエリが治してくれるんだろ?」

「なに?切り落とされたいの?マゾなの!?」

「エリ、見た目より胸ある」

「うぎゃああっ!!」


 もう諦めて脅したのだが、背中にしがみつくオニアはギュッと腹に腕を回してきて締め付けてきた。更には胸を鷲掴み。堂々としたわいせつ行為!!


「殺す!」

「殺してほしいけど殺しちゃだめだぁあっ!」

「エーリ。肩も治してー」

「なんで図々しいの!?お前は!」


 オニアから離れれば、殺気立つレオルドが剣を振り下ろそうとした。殺していいと一瞬思ってしまったが、なんとか止めにはいる。

オニアは図々しくも怪我を治せと言った。

 レオルドを押さえて拘束していないオニアに背を向けているこの状況は、とても無防備。


「なに遊んでいるのよ」


 敵のオニアの背中を踏み潰してねじ伏せたのは、ニックス。

「任務中よ」と言いながらオニアを拘束し始めた。


「ごめん!オニアに目的を吐かせようとしてて…ライリ達は?」

「まだ戦っているわ。オニアを見せれば降参する、連れて行きましょ」

「エーリが連れてってー…いてて!」


指揮する部隊長は捕まえた。

こちらが勝ったも同然。

ニックスはオニアを完全無視して、弾丸が貫いた肩の傷を握り黙らせた。

 確保したオニアを視界に捉えると、タルドンマカールの兵隊達は部隊長を置いて退却。


「普通さ、武器を捨てて降参するんじゃないの?仲間見捨てて退くって可笑しくない?」

「兵隊なんて消耗品だから」

「…なんでエリは敵と仲良くなってんだよ」

「え!?なってないし!さっき胸鷲掴みにされんだよ!?」

「なんだと!?貴様!嫁入り前の娘になんてことを!」

「うわお!?」


 退却する兵隊達を見送りながらも置いていかれたオニアに訊いてみれば、さも当然に答えるオニア。タルドンマカールは兵隊を消耗品扱いか。

 何故か仲良しに見えたらしいティズに強く否定したら、ライリが反応してオニアに飛び蹴りをした。危うく巻き込まれかけたあたしは避ける。

父親にあたしの操を守れとか言われたのかな…。


「キングリーン部隊にもオニアを見せに行く?」

「必要ないわよ。どうせ皆殺しにしてるわ」

「………………………。」


 こっちは終わったがキングリーン部隊が向かった東側にも、オニアを拘束したことを知らせるべきか訊けば必要ないとのこと。

キングリーン部隊はレオルドがいなくとも皆殺しがセオリーなのか……。

 本当に皆殺しをしたらしく、ブルマンド支部基地に待機していれば、キングリーン部隊は返り血を浴びて来た。


「お、レオルドが掴まえたのか?」

「いやあたしとレオルドが掴まえた」

「連携プレーでか?」

「…まぁ、そんなとこ」


 くしゃくしゃとデュランがオニアを見つけると頭を撫でる。オニアは不快そうに顔をしかめた。

連携プレーと呼べるかどうかわからなかったが一応頷く。共同線張ったもん。

デュランは驚いたように目を丸めながら笑った。


「え!?二日も歩いて帰らなきゃなんないの!?」


 来た時のように移送してくれるサリエル支部長がいないがため、歩いて帰らなければならないらしい。早くて二日はかかる距離らしい。

疲れているのに!?


「やだぁ!疲れたぁ!」

「駄々をこねるな、帰るぞ」

「皆疲れてんだ」


座り心地いいソファーにしがみつけば、ティズに引っ張られた。


「あたしだけ魔術で帰っていい?」

「お前を二日も一人に出来ない」

「じゃあアリエール部隊だけで」

「オレ達だけ先に帰るわけにはいかない」


 あたしだけ帰ることは許されず、アリエール部隊だけ帰ることも許されない。ライリが眉間にシワを寄せて渋るので立ち上がった。


「わかったよ!全員まとめてあたしが帰してやらぁ!!」


人はこれをやけくそと呼ぶ。


「は?サリエル支部長みたいに全員を転送すると?出来るわけないじゃないですか」


 大いに鼻で笑い退けたのは、フィロ。その喧嘩買った!

眼鏡を叩き割ってやろうとしたが、ティズに腕を回され止められた。


「出来るのか?エリーゼ」

「出来る!!」


デュランに問われて、断言する。

眼鏡野郎に見せつけてやらぁ!!

 デュランが乗り気なため、フィロは従わなくてはならなくなりあたしを睨み付ける。

べー、と舌をフィロに突き出しながらもティズに手伝ってもらいながら支部長が使った魔法陣を床に描く。

描くものはなんでもいい、インクでもいいし石灰でもいい。魔法陣がちゃんと描ければ、あとは膨大な魔力と居場所のイメージがあればいい。

 インクで描いた魔法陣を踏まないように一同に中に立ってもらう。捕虜のオニアはチャールズに担がれている。

あたしもそこに立ち、床に手を置いた。正直自分一人を移動させることに自信があるが、この大人数を飛ばすことに自信は……。

 集中して目を閉じる。

場所を思い浮かべて、魔法陣に魔力を注ぎ込む。十二分くらいの魔力を。

 目を開けば見た目麗しい上司がいた。


「……驚いた、早い帰還だな」


見た目麗しい巨乳のねーちゃんと見た目麗しいおにーさんが、机の上で取り込み中だった。

 も、物凄く申し訳なかった…。





「エーリじゃなきゃ話さない」


 捕虜したタルドンマカールのオニア部隊長の尋問は進まなかった。オニアはあたしではなくては話さないの一点張り。


「エーリ、ボクと一緒にタルドンマカールへ行こうよ」


 あたしが尋問に立ち会うと勧誘をしてくるため、あたしは追い出された。尋問する隊員がこれまた氷河並な強面、結構痛めつけられていた様子だったがそれでも口を割らないとは、見た目に反して口がかたいオニア。

 あたしを呼び出したその目的が吐かせられないまま三日が経った。

気長に待つことにしていつも通り稽古を受ける。

 今日はライリが適当に連れてきた兵隊十人を相手することになった。大勢相手に慣れるためだとか。


「ライリ、エリ」

「ん、副支部長」


その最中にリンクが来た。あたしとライリがお呼びだし食らった。


「え、なに?あたしなんかした!?」


 今兵隊十人を潰したけど、これ稽古だけど!?

お叱りかと思ったがリンクは苦笑して首を横に振った。


「……支部長室へ、行こう…」


 少し困ったような表情を見せるリンクに、あたしとライリは顔を合わせる。あたしとライリを呼び出すと言うことは、オニアが漸く吐いたのだろうか。

いや、それならそうと伝えるはず。

 怪訝に思いつつも、リンクの後を歩いて支部長室に向かった。

 中に入ると、先にレオルドとデュランがいた。

その白と黒コンビを視界に捉えるなり、嫌な予感がした。いや嫌な予感しかしない。

何故かレオルドがニコニコしている。この上ないほど不気味だ。

 ライリを見上げれば、同じく嫌な予感しているらしくしかめている。

悪いことが起きる、絶対に。

 激しく逃亡衝動にかられた。


「簡潔に話そう」


 しかしサリエル支部長が口火を切ったので、逃げるタイミングを失ってしまう。


「エリ・クロキ隊員を、キングリーン部隊に引き抜きたいということだ」


 余分を省いて、直球で簡潔に話された。

理解が出来るまで時間がかかる。なんせ脳が理解することを拒んだからだ。

 キングリーン部隊に引き抜き?

誰が?───あたしがか?

キングリーン部隊って、あの変人で奇人で狂人だらけのキングリーン部隊、略して変隊のことか?

 硬直してしまった身体を無理矢理動かして、首をギギギッと回してレオルドとデュランを見た。

 笑顔だ。笑顔だった。

 至極恐ろしい笑顔だ。


「嫌だっ!!」


あたしはサリエル支部長に素直な気持ちを伝えた。


「嫌だ!!絶対に嫌だ!!嫌だ嫌だ!!絶対に断る!!!キングリーン部隊なんて嫌!!アリエール部隊がいいっ!!」


完全拒否。呆然としているライリの腕にしがみついて断固拒否。


「本人を前に酷いな」

「嫌!」

「エリーゼ」

「嫌だっ!!」


デュランの顔を見れば絶対脅迫されるから見ずに拒否する。


「なんで!?あたしに興味ないはずじゃ!?」


 優秀で奇人で狂人の隊員を手元に置くことが唯一の趣味であるデュラン。

異世界の人間としてはあたしを評価したが、手元に置くほどではないと判断していたはずだ。それを何故今!


「レオルドがどうしてもエリーゼを部隊に入れたいって言うもんだからな。レオルドが興味を持った他人って点、オニアを捕獲して任務を速やかに遂行した点、移動魔術を使える程の膨大な魔力を持っているという点、自分の腹に指を突っ込み内臓損傷を治した点に多少の無茶をする点、それは評価に値する」


 ゆっくりとデュランの男らしい声で、…点…点、と理由を述べられる度にライリに強くしがみつく。

 デュランが気に入った点。

半分はレオルドのせいだ。

あたしは恐る恐るレオルドを振り返った。睨み付けるが、レオルドは嬉々な笑みを浮かべている。

随分前からレオルドはデュランに引き抜きを話していたらしい。

 あの時だ。歓迎として食事を奢られた時に、調子を意味深に訊かれた。

あの時からあたしを引き抜こうと企んでいたんだ。

気付いていれば、阻止できたかもしれないのに!あたしは世間話だと思い込んだ!あたしのばか!ばかばかばか!!


「オレの隊で育てる。エリーゼをオレの部隊にくれ」


 うっかりレオルドの後ろにいるデュランを見てしまう。

黒いYシャツを前開きにしていい身体を見せ付ける色黒男は、金色の瞳を細めて"寄越せ"と挑発的に言っているようだった。

 無理矢理でも、奪ってやるぞ。

威圧感はそう伝えていた。







オニアはナイチンゲール症候群にかかりましたとさ。

恵璃はAカップ?と思いきやCカップあるってだけで、決して巨乳キャラではありません←



レオルドがヤンなデレデレを開始します!レオルドターン




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