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23 任務出動



「後ろが無防備だぞ!」

「っ!」


 後ろから振り下ろされたティズの剣を避ける。すると対峙していたニックスが、首目掛けて剣を振ってきた。

それをなんとか剣で受け止める。


「今のは致命的だ!」

「くっ!」


 ティズを蹴り飛ばして、ニックスを魔動波で吹き飛ばす。

それで一時の休息を得られたが、踏み留まったティズが攻撃を仕掛けてきた。

それを受け止めれば、ニックスがくる。

後ろを見た隙に、腹にティズの蹴りが入った。


「ほら、油断した!」


 またライリの怒号を食らい、イラッとする。

剣を離して、両手を交差して左右の二人に向けて魔動波を放って飛ばす。

ティズは反応に遅れて吹き飛んだが、ニックスは叩き切った。

直ぐに剣を握り直してニックスと剣を交じり合わせる。ニックスの剣はかなり重い。

蹴りを入れようと右足を上げれば、身体を支えた左足をニックスに崩された。


「殺されるぞ!」


 床に倒れればまたライリが怒号を飛ばす。容赦なくニックスが剣を振り下ろしてきた。その剣を魔動波で弾き飛ばして、床すれすれに足を振りニックスの足を崩す。

膝をついたニックスの顔面に肘を打ち込もうとしたが、受け止められた。それはフェイク。

がら空きのニックスの腹に、受け止められていない方の掌から魔動波を打ち込んだ。


「勝ち!うっしゃ!!」


 ティズもニックスも倒れた。

ブン!と天井に両手を突き上げる。


「どう考えても、お前がとっくに負けてるだろうが!」

「最終的に倒したじゃん!」


 ティズの反論にバタバタ跳ねた。ライリに判断を委ねる。ライリは渋った様子だった。

 これに勝利しないとまたランニングさせられてしまう。

再び異世界に戻ってきて二週間経った。

緊迫した戦闘の最中、魔術を駆使して戦えるように、真剣でニックスとティズ相手で戦った。かれこれ三日やっている。

合格か、失格か。

見ていたライリの判断を待つ。

 すると基地に美女の声が響き渡った。


〔特殊部隊、出動要請。至急集まれ〕


 特殊部隊、出動要請?

ただならぬ呼び出しに、汗を拭きつつライリを見た。


「任務だ」


ライリは顔を険しくして、行くよう急かす。

任務?あたしもやるのか?

と疑問に思いつつも、早歩きで向かうライリ達の後を追った。




「タルドンマカールの兵隊に襲撃を受けているブルマンドの住人を救出及び撃退せよ」


 任務の内容は、同じく国境付近にあるアルトバスポリス国の街であるブルマンドに、タルドンマカールが襲撃してきたそうだ。ブルマンド支部の兵隊は不足している。壊滅させられかねない。

よって特殊部隊が援軍として迎い、住人を救い敵兵を撃退する。


「あの、あたし、も?」


 一応サリエル支部長が任務の説明をしている間に、キングリーン部隊もアリエール部隊も支度をしていたのであたしも汗を拭いて、剣と銃を装備した。

どうやらアリエール部隊も行くらしいが、果たしてあたしも行っていいのか。


「ライリ。お前が決めろ。エリが任務に参加できるほどの力量があるかどうかを答えろ」


 支部長はライリに目を向けた。

あたしを育てたライリに判断させる。

ライリはあたしを見た。

あたしも見上げる。

するとライリが支部長に顔を戻した。


「はい」


 力強く頷いた。

あたしは戦える、任務ができる、というのがライリの答えだ。

認めてもらえた。


「よし、ブルマンドに送る!特殊部隊!出動!」


 それを聞くとサリエル支部長は声を高らかに上げる。

返事も聞かず、あらかじめ書いてあった床の魔法陣に足を踏み下ろした。

 移送の魔法陣だ。

その魔法陣の中にいたあたし達をサリエル支部長がブルマンドへと送る。

その魔術が使えるからこそ、他の街に援軍として向かうことが出来るのだ。

 視界はゆらりと歪んでは変わった。

焦げた香りが漂う。黄土色の建物が並ぶ街の中、爆発が見えた。逃げ惑う悲鳴が聴こえる。戦闘の騒音が響いた。


「オレは東」

「こっちは西」


 デュランとライリが短く話す。

キングリーン部隊は左に行き、アリエール部隊は右に行くということらしい。

 ライリの背中を追いブルマンドの街を駆けて、戦場に向かう。


「互いを見失わず、敵を倒せ!」

「はい!」

「了解!」

「イエッサ!」


 紫に近い紅い隊服を見付けて剣を抜く。戦っていたブルマンドの兵隊達を援護、そして敵を切りつける。

 息を止める、なんてことはしない。

戦闘不能にするだけだ。生身の身体を切りつける不快感に襲われたが、それでも戦った。

 敵国の兵隊から国民を守る。

逃げ遅れた人達を街の中心部へ誘導しながら、敵を倒していく。


「エリ!離れるなよ!」

「わかってる!」


 ちゃんとティズ達を視界に捉えつつ、仕事をやっている。

あたしが一人になって拉致される可能性があるからだ。ま、あたしが異世界の人間だって気付かないだろうけどね。

こうしてこの世界の兵隊として戦うと、自分が異世界の人間だということを忘れかけてしまう。


「おねぇちゃん!いっしょにきてぇ!」

「うわっ?え?」


 いきなり隊服を引っ張られて危うく背中から倒れかけた。

振り返ると腰くらいの身長の男の子が涙を浮かべてあたしを見上げている。さっきの誘導した街の人々と行けばよかったのに!

 一人では動けないと言わんばかりにあたしの新調した隊服にしがみつく。

敵は待ってくれるはずもなく、複数が向かってきたが魔動波で全員まとめて弾き返す。


「わかったよ!もう!」


 しゃがんで背中に回した腕で男の子を背負う。

さっき誘導した街の人のところまで連れていけば、この子も安心して行ってくれるはず。

軽い子供を背負っていてはあまり速く走れなかったが、さっきの人々を追い掛けた。


「こーんな簡単な手に引っ掛かるなんて、おバカだね。おねぇちゃん」


 耳元に子どもらしかぬ声がかけられる。目の前に現れた幼い掌には魔法陣が描かれていた。移動と召喚の魔法陣だ。

 それに気付いて剣を手放して、その手首を掴み地面に叩き付けるように投げ飛ばす。

男の子は受け身を取り、着地した。

 まじかよ!

顔が引きつる。絶対に子どもじゃねぇえ!


「まっさか、おねぇちゃんと遭遇するとはね。アルシュに一泡吹かせてやれるぜ。でもおねぇちゃん、子ども投げるとか酷くない?」

「……子どもじゃないだろ」


 剣を拾い構える。

しまった。ライリ達と離れた。

何故かこの通りにいるのは、この子どもの姿をした兵隊と二人だけ。


「ばーれたぁ?」


 にやぁ、と子どもらしかぬ笑みを浮かべる男の子は、とても不気味だった。

男の子が両手で頭を抱える。ゴキ、と不気味な音が聴こえてきた。

ボキボキ、ゴキ、グググ、と鈍い音を鳴らしながら、男の子の骨格が変わっていく。その顔立ちも変わり、体格が変化した。

 男の子が青年に変わる。

変身魔術は、痛みとリスクが伴う危険で超高度の魔術だ。身体の全てを隅々まで変える魔術は、身体の構造を動かすため激痛を味わうし、失敗すれば戻れなくなる。

 そんな超高度の魔術を使った魔術士。ヤバすぎる。異形な光景を見せられて足がすくむ。


「へーんしんは初めて?」

「……エリ・クロキ。アリエール部隊。よろしく」

「よーろしく。オニア・F・トゥルス部隊長でーす」


 一応名乗ってみれば緑色の髪を掻いて青年もご丁寧に名乗った。

この襲撃の主犯格だ。

ピンクキャットも部隊長。

強さは彼並みだと考えるべきだろう。まぁ、つまり、その………勝ち目なし。


「で?あたしを仲間から引き離して拉致する気?」

「なーかま?仲間ねぇ…?意味わかんないなー、おねぇちゃんの仲間はボクらだよ」


 上っ面に笑いかけるオニアが、しゃがんだ。

魔法陣が描かれた左手を地面に置いた。何が仲間だ、ばりばり拉致する気満々じゃん。

 オニアの隣にオニアが召喚したものが現れた。三メートルはあるでろう大男。その迫力は半端ないものだった。

三メートル近くある巨漢は怖すぎる。オニアではなくその大男があたしを拉致するわけだ。

 でもその大男は既に誰かを相手していた。もがき背中にいた白銀頭の男を振り落とす。


「げぇっ!」


 白銀頭の男があたしの横に転がり落ちたのを見て、オニアはワントーン下げた声で露骨に嫌な反応を示した。


「毒蛇まできちまったよ…うぇっ」

「れ、レオルド…」

「あ、エリ…」


 敵部隊長にまで異名が知り渡った毒蛇、レオルドがあたしをきょとんと見上げる。

街の東側であの大男と戦っていたのだろう。キョロキョロしたレオルドは、自分が一緒に召喚されたことに納得したように頷くとあたしを見上げた。


「アイツの下手な芝居に引っ掛かったの?」


 呆れた目を向けられる。

どうやらオニアのお得意の手らしい。なら教えようよ、男の子が泣き付いたらそれ敵だよってさ!アホ!


「めーんどうくさい奴連れてきやがって…まぁいい、オーガス!おねぇちゃんは生かしとけよ」

「うぉお!」


あたしとレオルドはあくまで大男であるオーガスが相手して、オニアは下がった。


「魔術で皮膚を硬くしてる、剣が刺さらない」

「まじ───っか!」


 あたしとレオルドに向かってオーガスは、岩らしき棒を振り下ろす。それを避けるために二人で左右に飛ぶ。

レオルドのお得意な一撃必殺の斬撃が効かずに苦戦していたというわけか。

 なら剣は無駄だな、と早々に剣で戦うことを諦めて、脚のホルダーにいれた銃をとる。

大型リボルバー。これかなり重いんだよね。


「レオルド!」

「?」

「自分でやる?それともあたしとやる?」

「……楽しそう」


 ちゃんと返事しろだし。

レオルドなら一人で片付けたがるかと思ったが、道の反対側にいたレオルドがニヤリと口元を楽しげにつり上げた。

どうやらあたしと一緒に戦うことを選ぶらしい。

 あたしはレオルドにオーガスを任せて、オニアに目的を吐かせたかったんだけど。しゃーない。


「頭撃ち抜く。援護して」

「いーよ」

「はは!むーだ無駄!おねぇちゃん!効かないよ!」


 高みの見物状態なオニアが笑うが、あたしはオーガスに向かう。

またオーガスが岩のような棒を振り下ろしてきた。それを横に飛んで避けたあと、その棒に飛び乗る。そして巨大な腕の上を走る。

 オーガスの醜い顔に向かおうとしたが、振り下ろされてしまう。なんとか受け身をとってダメージを最小限に留めた。

その間、レオルドが剣を振り引き付けた。

意外に協調性あるじゃん、と感心する。

 見物をしているオニアを一瞥してから、オーガスがまた棒を地面に叩き付けたのを合図に飛び出して石のように硬い腕を駆け上る。

今度は振り下ろされる前にオーガスの肩に行き着いた。

 皮膚が硬くとも眼球は弾丸を通す。

銃口を構えた。トリガーを引く。


「─────と、見せかけて」


  ガウン!


「ぐっ!!」


 残念ながらあたしに誰かを殺す覚悟はまだ出来ていない。眼球を撃ち抜いたら死ぬじゃん。

だからオーガスではなく、余裕綽々に高みの見物をしていたオニアの肩を撃ち抜いた。油断していたオニアは撃たれた衝撃で倒れる。

 大型リボルバーの反動は強すぎてあたしはオーガスの肩から落ちる。それは予測済み。

銃を手放し、両手を交差してオーガスの顔に突き付ける。


「掻き鳴らせ、雷鳴!」


 台詞はただのノリ。

 雷鳴が轟く。皮膚が石のように硬くなろうが、皮膚は皮膚。電気を通す。

雷を作り出して魔動波のように放つ。雷版の魔動波だ。

効果抜群なようで、黒焦げになったオーガスが背中からゆっくり倒れる。

 その前にあたし。あたし落ちてる!

どうやって着地しようか迷っている間に、落下。かっこよく着地出来ず、背中から無様に落ちる!と思った。

 が、受け止められた。

真下にいたらしく、レオルドが受け止めてくれた。きょとんとしている間に、オーガスの巨漢がドスン!と倒れる。


「…あ、ありがと」


いわゆるお姫様抱っこ状態から脱出しておいて、オニアに向かう。お姫様抱っことか、柄じゃねー。


「殺す?」

「いや、尋問させてよ」


 あたしを呼び出した目的が知りたいの。追い掛けてくるレオルドに殺すなと釘を刺す。


「ちょーしに乗りやがってっ…!」

「はいはい、で?あたしを連れてきた目的は?」


 迂闊に近付くと転送されかねないため、手が届かない距離で左肩を押さえるオニアに問う。

しかし。


「う゛お゛ぉっ!!」

「!?」


 あれだけの電撃を食らってもまだ意識があったオーガスが、あたし達の背後で起き上がった。







桃色思考が働かないから、お姫様だっこされてもときめかない恵璃。

恵璃は殺さない主義を貫きます。


次、殺人と流血に苦手な方はご注意。



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