19 恋しくて
不良もツライのよ。
親孝行として就活を始めた恵璃ちゃん、その結果。
異世界から無事生還して直ぐに、学校は夏休みに入った。
今更勉強する気はなく、夏休みの課題などやるつもりもない。
求人雑誌を片手に片っ端から応募した。
仕事探しは父親を手伝っていたので、履歴書の書き方もわかっていたので不便なく記入して面接を受けた。
徒歩で行ける範囲の店を選んだ。接客も裏方作業も関係なく、全てにトライしてみた。
夏休みの後半。
あたしは蝉が鳴き喚く公園のベンチで項垂れた。
面接で行く先々であたしが不良で番長だと知る者が青ざめた反応をする。
学校の一般生徒と同じ反応だ。絡まれないように目を逸らす教師と同じ反応だ。
今日はスーパーの面接だったが、面接をした店長が明らかに目を泳がしていた。
きっと今回もダメだ。
受けた面接、全てダメだった。
買ってもらったばかりの携帯電話を投げたい衝動に襲われたが、なんとか堪えた。
すっかり癖になった首につけたチョーカーをいじる仕草をして、一ヶ月前の経験を思い返す。
「……はぁ……」
溜め息が零れ落ちる。
あそこの兵隊達は、あたしのこと怯えてなかったなぁ。
好奇の目でじろじろ見てきたっけ。一般生徒や教師や店員達が見せる反応は、誰もしなかった。
そりゃああたしは喧嘩っ早い性格だけども。これでも番長やめてからやってないぞ。
父親に報告したらむっちゃ褒められたんだから。
喧嘩売られなければ、喧嘩しないし。
誤って人殺した前科もないぞ。
どうみたって小柄な女の子に、なんでビビるかねぇ……。
「あちぃ……」
髪を掻き上げて木漏れ日を見上げる。
真夏にセーラー服とかまじ暑い。暑いのにスカートが黒だぜ。まじやんなる。
面接だから着るしかなった。ジャージだと尚更怖がられる。
人生簡単じゃないな、とまた溜め息をつく。
父親に黙ってやってるし、アドバイスは聞けない。相談できる友達もいない。
友達、で思い浮かべる赤毛のつり目。
アイツなら、なんて言ってくるんだろう。先ずはツッコミから入るだろうな。
横で聞いていたオカマはきっと腹を抱えて笑う。
お節介な筋肉マッチョは、真剣な顔付きをして面談を始めるだろう。
想像したら吹いてしまった。
その次の瞬間、胸が締め付けられて姿勢を正す。
逃げたり蹴っ飛ばしたりしたのに、仲良くしてくれた彼らを思い出して悲しくなった。
さらりと入隊させた巨乳ねーちゃんみたいな店長がいる店、見付からないかな。お節介な筋肉マッチョな店長がいる店、見付からないかな。
異世界で過ごしたあの支部基地みたいな職場は見付からないのかな。
仕事らしい仕事はしてないけど、喧騒の食堂つきの職場にまたつきたい。
あの部隊みたいに、あたしを受け入れてくれる場所は何処だろう?
異世界で経験した出来事は凄く、楽しかったし痛かったし最悪だったけど。
笑い話になる思い出になるはずだったけど。顔を見るなり拒否られてしまい、傷付いてあたしは。
あの部隊が恋しくなった。
もう会えないし、声だって聞けない。
そしたらまた胸が締め付けられた。
「ネバーギブアップ!」
気付いたら、暗くなっている。帰らないと父親が失踪届けを出すかも。一昨日携帯電話の存在を忘れて、警察に失踪届けを出そうとしてたんだよね。
頭をブンブン振ってベンチから飛び降りる。いつまでもクヨクヨしてられない。
恋しがっても、無駄だ。
そう無理矢理気丈になったが、苦しくなりその場に踞る。
ギュ、と学校の革鞄を握り締めた。
社会の屑、と言われるんだろう。ちょっと踏み外した不良も、そのまま弾き飛ばされてしまう。
残された道は、下り坂。
下り坂を転がった方が楽なのかも。
いっそう氷河の組に入っちゃおうか、優遇してくれるってさ。持つべきものは悪い先輩か、ははは。
なんて下り坂を転がり落ちても這い上がって、カタギで仕事している父親に申し訳ないのでそのネガティブな選択肢をぶった切る。
兵隊直伝の武術が勿体ないし、体力も有り余っているから軍人にでもなろうか。
軍人ってどうなるのかな。わかんねーや。ググってみよう。
きっと異世界みたいにはいかないんだろうな。わかってる。
あたしに噛みついた毒蛇に引き留められた時、残るって選択肢を取るべきだったかな……。
そんな後悔が押し寄せてきたが、あたしはそれをどっかに追いやった。
これでよかったのさ! あたしがいるべき世界はここ! 帰ってよかったんだ! 遅かったら父親はアルコール中毒になって死んでたもん! 帰ってきてよかったんだ!
異世界で死にかけたけど無事生還した! 十数件面接に落ちたくらいでへこたれないぜい!
「この試練の壁だって乗り越えてやるさ! おうよ! 異世界から生還したみたいに乗り越えてやるよ! この石の……か──────壁?」
バッと立ち上がって今度こそ立ち直る。
目の前に丁度石の壁があったので触って、この壁を越えてやる! と宣言しようとした。
石の、壁。
瞬きをして暫く石の壁と見つめあった。暗くなったはずの辺りは、明るくなっている。
一応確認で空を見上げた。
水色の空。
石の壁に目を戻す。うん、壁がある。現実を直視したくなかったが、あたしは恐る恐ると周りを見た。
無数に並ぶ石の壁が道を作っている。なんか見覚えあるぞ。
これを人はなんと呼ぶ?
答えは、デ・ジャ・ブ。
手をついた壁は、やっぱりそこにある。一応頬をつねってみた。痛かった上に壁がある。
誰かがまた、あたしを異世界に召喚しやがった。
表出ろやこら!!
はい!ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!
一度帰れたのに、再び異世界に召喚された恵璃!
ここまでが第一章でした。
召喚された理由も解明されないまま一章終わり。恐らく二章で明らかになる!…かもしれません。
そんなこんなでまだまだ続く!
二章では敵キャラを出して、毒蛇の病んだデレデレを披露して、金髪少女ちゃんと恵璃が召喚された理由を書きたいと思います。
作者が楽しく書いている小説ですが、読んで笑ってもらえると嬉しいです!お気に入り登録とポイント評価、ありがとうございます!