18 戻った日常
「うわぁああっ!!」
「番長ぉおおっ!!」
「番長ぉおおっ!!」
「番長ぉおおっ!!」
「────…やかましいっ!!」
同い年と年下の野郎共が情けなくボロボロと涙を落として雄叫びを上げて泣きじゃくる。
頬の筋肉を痙攣させて見ていたが、耐えられなくなって怒鳴り付ける。
「だいたい番長呼ぶな! やめるって何回言えばわかる!?」
「だって……ヒクッ……黒木さんより強い人がいないんですもん……」
「もんじゃねぇよ! 可愛くねぇ!」
涙と鼻水を垂らす不良を蹴り飛ばす。
学校に来るなり不良共に囲まれた。生傷だらけで日本人らしい一重の瞼の少年達は、情けないほどボロボロ泣いた。気持ち悪い。顔立ちが平均以下ばかりだから、余計情けなく思える。
「……つうか、なんでてめぇら怪我してんだよ? ……さては乱闘したな!?」
「ひぃ! なんでバレた!?」
「見りゃわかんだよバカ野郎共!!!」
廊下に並んで泣いていたバカ野郎共を順番に蹴り飛ばす。
どいつもこいつも、制服が泥まみれで汚れていて足を引きずったり腕を庇っていたりしている。その怪我は大人数で喧嘩した証拠。
大方隣の高校の不良共とやったのだろう。
やめたと言っても、どう足掻いても、あたしはこの学校の不良のトップ。他校と問題を起こすとなると、最終的にはトップ同士の衝突になる。集団で喧嘩をするとなると、更にその可能性が高まるのだ。
だからあたしに迷惑をかけないよう勝手に他校と揉めない、と以前彼らは話した。話していたのにやりやがったのだ。
「だって黒木さんが失踪なんて……! 絶対に他校が闇討ちして山中に埋めたと思ったんですよ!!」
「汚い手を使わなきゃ黒木さん率いる俺らに勝てないからだっ! 絶対そうだと思って!」
「皆で黒木さんの弔い合戦をっ!!」
「勝手に殺すなアホ共めっ!!!」
もう一度全員をまとめて蹴り飛ばした。勝手に殺すな! 物騒すぎるだろうが!
「でも他校の奴らも知らないって言うから……」
「ヤクザに闇討ちされて山中に埋められたかと思って!」
「皆で山中に穴掘って遺体を探したんです!!」
「だから勝手に殺すな! アホ共!! ────…っっっこのアホ共ぉお!!!」
力の限り怒鳴り散らしてもう一度蹴り飛ばす。
学校に来て早々喉が死にそうだ。
なんで闇討ちされて山中に埋めらたと決め付けてんだよ。
あたしの最期は結局山中か!?
あたしヤクザに闇討ちされる覚えないぞ! あたしをなんだと思ってやがるんだ!
「黒木さん……今日は加減ないんすね……幽霊じゃないんですね……嬉しいっす!」
「やっぱり番長はアナタだ!!」
「やかましいわっっ!!!」
また泣き始める野郎共にガミガミと叱りつけては蹴り飛ばして疲れた。
ゼェハァ、と肩を揺らして呼吸していれば、その肩に手を置かれる。
誰だ! あたしに気安く触りやがるのは!
と振り返り睨み付けたら、ギョッとして震え上がった。
何故アンタがいるっ!?
大男。強面な顔には曲線に顔の傷があり、感情の出ていない顔は無表情でも怖い。細い目で見下ろす彼が一個年上なんて信じられない。
「……氷河サン……何故ここに……」
「闇雲に山中探しても見付からないと思い……氷河サンに助け求めました!」
「アホ!!」
笑顔で言い退けるアホの急所に蹴りを入れれば悶絶した。
強面な男、去年卒業した生徒である氷河雄四郎。
あたしの前の番長だ。
彼を倒してあたしは番長になった。
番長になった後で、氷河がここら一帯をシマにしているヤクザの息子だと知った。現在は正真正銘、ヤクザなり。
このアホ共はそのヤクザまで巻き込みやがったのだ。
「すんません! 氷河サン! 煩わせてすんません!!」
「……全くだ。余計な心配かけやがって」
「すんません!!」
「……無事でよかった」
「すんません!!」
ばかでかい手で頭を掴まれる。必死に謝るが、きつく頭を握り締められた。痛い! 痛い!!
あたしが番長の座を奪ったせいなのか、どうもこの人には嫌われてしまっている。
あたしが唯一この学校で恐れていた人。卒業したら会わないとばかり思ったが、度々こうして学校に訪問してくるのだ。
何故か卒業後はどうするかをしつこく訊いてきて、しかも組に勧誘してくる。
組にいれて人生台無しにしようと企んでいるに違いない。怖いよ、この人!
「……それで、今まで何処にいた? ……何処のモンに拉致された? 監禁か?」
「た、ただの家出っす! 放浪の……まじで迷惑をかけてすんません!! すんません!!」
「……無事なら、いい」
「ハイッ! すんません!!」
家出と言えば更にあたしの頭を強く握る氷河。まじ怒ってるよぉ!
ヤクザを引っ張り出してきた不良共を睨み付ける。氷河に怒られているあたしをニマニマ見ていた。
だから全員まとめて、実践で戦う兵隊直伝の武術でシメた。
「……く、黒木さん……なんか更に強くなって、ませんか?」
「なんか……なんか強いっすね……」
「レベルアップの旅に行っていたんすか……」
「……次はおともさせて、ください……ガクッ」
「……黒木。進路は決まったか?」
「このタイミングで!?」
「うちの組なら優遇扱いするが」
「遠慮します!」
廊下に転がる不良共を全員倒したところで、氷河からいつもの勧誘。全力で断った。
進路は考え中だが、ヤクザにだけはならない。あたしはカタギになる!
「お前が番長になれ」
「えぇえええっ!?」
悶絶した不良を叩き起こしてから、ソイツに番長の座を渡した。
「ならないって言ったら山中に埋める」
「ちょ! 黒木さん! まだ学校生活あるのになんでやめたがるんですか!?」
「就活するからだ、ボケ」
「え? ………………無理ですよ、絶対」
憐れみたっぷりの目で悲しげに言われたので、頭突きを食らわせておく。
「うぃいっ…! あのっ、絶対に近所は雇ってくれませんよ! 悪い意味で顔知れ渡ってるんですからね!」
額を押さえて悶えるボケが言う。
誰のせいじゃ、誰の。
少なくとも通勤しやすいという理由で選べば、誰かしら顔を知っているから雇ってもらえない。
だからと言って、大学に行くつもりがないならば、就職するしかない。先ずはアルバイトを見付けるか。
番長の座を譲ったので、心置きなく就活に専念しよう。
家に帰って部屋の掃除をした。
父親は掃除しなかったため、ゴミだらけ。掃除を終えてから、夕飯の支度。
天ぷらが食べたくなったので、今日は天ぷらにすることにした。白米あるしね。
父親が仕事から帰ってくると、手には携帯電話ショップの紙袋。
「持っておけ」
「まじか!」
生まれて初めて携帯電話を持たされた。脱携帯電話を持たない女子高生!!
喜んで飛び跳ねたが、今まで携帯電話を買わなかったのは、買う余裕がなかったからだ。
「……お金は大丈夫なの?」
「使いすぎなきゃ大丈夫だ、ほら飯」
あたしが行方不明になって、連絡手段がないことを悔やんだのだろう。だから携帯電話を買った。
絶対に無駄に使えねぇ、と思った。
……早く仕事、見つけよう。
実は氷河にはめっちゃ可愛がられているのに、恵璃には全くその愛が伝わらない。不器用な次期組長さん。恵璃の強さに惚れています。でも恵璃は気付かない。
周りは気付いていますが微笑むだけ。…不良達もヤーさん達も。
なんだかんだで慕ってくる不良達を叱りつける面倒見のいい番長だという自覚はない恵璃。
所々鈍感。
終わりませんよ!
これからです!
お気に入り登録ありがとうございます