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14 薔薇の首輪




 てっきり危険人物指定にされたキングリーン部隊に集団リンチされるのかと思いきや、連れ出されたのは街。

街には技を習得出来なかった罰として走らされた時に、二度いったきりで観光はしていない。

 街でも女性隊員は珍しいのか、注目される。派手な飾りがないドレスを着た女の人達は、デュランを見て頬を赤く染めていた。

この顔で色気むんむんな上半身を晒しているから、無理もない反応だ。


「なぁ! 首放せよ! 犬じゃないんだから!」

「おっと悪い」


 ちょっとの抵抗でもがけば漸く首から手を離してくれた。そのままUターンしたかったが、今度は手を掴まれて引っ張られて行く。


「お詫びとか、まじでいらねぇんだけど」

「遠慮するな、エリーゼ」

「だからエリだって! いい加減にしろよ!」

「いいじゃねーか、エリーゼ」

「よくあるか! 勝手に改名するな!」


 未だにエリーゼ呼ばわり。なに? 気に入ってるわけ!?

怒って声を上げるとデュランは笑った。


「似合うじゃないか、エリーゼ」

「だあっ! ならこっちだって改名するぞ!」

「いいぞ」


 いいの!?

痛くも痒くもなさそうだ。絶対に嫌がる名前をつけてやる!

ジーとデュランの横顔を睨んでいれば、デュランは金色の瞳であたしを見下ろして待った。勿論、歩いたまま。


「黒すけ!」

「いいぞ」

「いいのかよ!?」


 人種差別用語だろコレ!

アンタがわからんよ!!

 ズルズル引っ張られて連れていかれたのは、お店。食堂のようだった。

お詫びって、飯を奢るってことだったのか。

だからパンすら食べさせてくれなかったのね。はいはい。


「あのさ、本当にいらないんだってば」

「なにか言ったか?」

「……嬉しいなぁー」


 無理矢理丸いテーブルにつかせられたが、断ろうとしたら目が笑っていない笑みを向けられたので諦めるしかなかった。

狂気に満ちた目は、"次言ったら殺すぞ"って言っていたぞ絶対。

 こんな奴と二人で食事なんて、嬉しくない。


「料理長の飯もいいが、素材は安いモンだ。こっちは高くて美味い。味わって食え」

「高いと言われるとぜひって食いたくなるけども……」


 この世界の金銭感覚を知らないからなんとも言えないが。


「兵隊は儲かるの?」

「命がけの仕事だからな、それなりに。食堂で食べた分の食費は差し引かれて、特殊部隊も任務がない月でもこれくらい。任務の危険度によって決まるが勿論成功しないと貰えない。聞いてないのか? ライリから」

「……ほとんどあたしには関係ないからね」


 指を三つ立てて見せるデュラン。それが高いのか安いのかわからん。

任務がなくても給料もらえちゃう。任務を成功させると報酬が貰えるシステム。

警察の役割もあるからかな。

あたしがこの一週間隊員やった分の給料っていくらになるのだろう……。


「帰るんだってな。良かったじゃないか」

「あ、うん……ありがと」


 あまり興味なさげに言われたが、あたしは反射的に礼を言う。レオルドから聞いたのかな。


「趣味もないから金は有り余ってる。他人と金を使った方が満足感があるから、使わせてくれ」

「なら自分の部下に奢ればいいじゃん」

「見慣れた野郎共に奢ってもしかたねーだろ?」


 くっ、男に生まれてくればよかった。

 でも喪失感ではなく満足感が得られると言うならば、一緒に食べてやろうじゃないか。仕方ないなぁ。香ってくる香ばしい匂いに負けたわけじゃないぞ。店の隅に運ばれたステーキに負けたわけじゃないんだからな!

 稼いだことがないから、その満足感は想像できないけど、奢るって一石二鳥を得るのか。しみじみ思いつつ、メニューを見た。

 しまった、文字読めないんだった……。

覚える気のないあたしは、メニューを見ることを諦めてデュランを見る。


「オススメは?」

「チキングリル」

「じゃあそれで」


 こうして字が読めないという障害を乗り越えるのだ。人生器用に生きないとな、うん。

 店員に注文した後、沈黙が訪れた。一対一で食事するとこうなる。

デュランとなに話せばいいんだ……。

適当に店の中を見回してみる。西部劇のお店みたいに木造。天井も家具も壁も。見飽きてなんとなく視線を前に戻せばデュランと目が合った。

 ひぃっ。

デュランは頬杖をついてあの金色の目を、真っ直ぐにあたしに向けている。

ここでわざとらしく目を放したら、怒って首をへし折られるんじゃないかと思い、目が逸らせなくなった。

 目を合わせて数秒その状態が維持される。

やべ、なんか話すべきか……?

冷や汗がかいていれば、デュランが口を開いた。


「ウチのもんに痛め付けられたと聞いていたが、元気そーだな」

「! ああ……一晩寝たら治った。レオルドが助けてくれたし」

「レオルドが、ねぇ……」


 伊達に特殊部隊に育てられていない。強烈な攻撃だったが、骨も折れていないから問題なし。元々打たれ強いからもだけど。

デュランは意味ありげに金色の瞳で、あたしを観察するように見てきた。な、なんだ……?


「エリーゼは異世界の人間にしては、成長が速くて強いな。魔術も武術も」

「……褒めていただきありがとー」


 デュランは褒めた。

褒めたけれども、褒めていない。

異世界の人間にしては。異世界の人間にしては、評価するという意味。

でもこの世界の人間ならば、評価に値しないってことだ。

 それは喜ばしいことなんだけどね。

デュランは進んで悪癖のある隊員を招いて、部隊に入れる変わり者。それがデュランの趣味だろう。

ずば抜けて強くそして奇人で狂人を、手元に置きたがるのだ。

 気に入られるなよ、とライリに忠告されたことを思い出す。大丈夫、デュランはこれっぽっちもあたしを気に入っていないようだ。

異世界の人間、ってだけでは興味が沸かないらしい。

エリーゼ、は気に入ってしまったらしいが。

ま、もう帰るから気に入られても意味ないんだけどね。




「……美味いっ……!」

「ははっ」


 今満足感を味わい中。

こんがり焼かれたチキンは、皮はパリパリで中はジューシー。オニオンのソースがこれまた合っていて、美味かった。

 料理長の安い肉も美味かったけど、この世界に来てから一番の美味さ。

あたし満足!

 デュランは満足そうに笑いつつ、同じチキングリルを食べた。

ヤバい、ハマる。一週間の食事全部、これでも構わないとさえ思う。

黒すけ、ありがと!


「次はこっちだ」

「うんっ! ……ん?」


 お腹が満腹で上機嫌で外に出ると、来た時と同じく手を引かれた。目を瞬かせている間に、支部基地と逆の方に進みどんどん離れていく。


「んっ!? 何処に行くんだよ!?」

「あっち」

「もうあたしは戻っていいだろっ?」

「終わってない」

「何故っ!?」

「ドレスないんだろう? 買ってやる。もう少し金を使わせてくれ」

「いやいやいやドレスなんていらないから!」


 どうやらデュランはまだ満足していなかったらしい。どんだけ金を使いたいんだ、募金しろよ募金。

この世界はドレスが女性の服装だと決まっているらしい。勿論、兵隊がドレスを着て戦えるわけがないため、あたしは制服を着ている。

一応ニックスにドレスを渡されたが、一度も着ていない。着るわけないだろうが!

ドレスなんてコスプレだろコスプレ!

 訴えればピタリ、とデュランが止まった。


「女捨ててるのか?」

「っなわけあるか!!」


 憐れみ一杯の目を向けてきたかと思えば、あたしの短い髪に触れると言った。

んなわけあるか! オカマじゃねぇんだから!

思わずこんがりな手を叩き落としてしまった。


「あたしの世界は! 全員がドレスを着てるわけじゃねーの! 女もズボンなの!」

「へー。髪も男みたいに切るモンなのか?」

「おうよ! ファッションさ!」

「へー。まぁ、似合ってる」


 意外にも怒った様子もなく、感心したように頷いてみせるデュランは、さらりと笑顔であたしの髪型を褒める。

そしてあたしの毛先を摘まんだ。

 な、なんだ……コイツ?


「初めて見た時、男かと思った」

「顔はどうみたって女だろ! おい!」

「その髪型の女は初めてみたからな。まぁ、胸元が見えたんで間違えなかったが」

「胸元!?」

「屈んでたから、ばっちり見えた。見た目よりあるんだろ」


 バッと胸元を隠す。

コイツが狂気な目をしてなきゃ顔面ボコボコにしていたぞ。くそう!

そう言えばサリエル支部長も、長い髪を一つに束ねていたっけ。この世界の女性は髪が長いと決まっているのか。なるほど。

決してあたしは女を捨てたわけではない。不良なだけだ。男前なだけだ!


「その髪型だと似合わないかもな、ドレス」

「ドレスは柄じゃないんだよ」

「髪飾りだと微妙だ」

「柄じゃないし、髪飾りなんて」

「その首に首輪……いや、チョーカーをつけさせたい」

「今首輪って言わなかったか……?」


 とりあえずドレス購入はやめてくれたが、次は首輪を買うことにしたのか、首をじろじろ見られた。

首輪って言ったよな? 言ったよな!?


「異世界に来た記念品としてチョーカーを買ってやる、エリーゼ」


 にっこり、機嫌良さそうに笑いかけられては拒否が出来なくなる。

これで拒否して機嫌を損ねれば、間違いなく殺されるわ……。

貰えるもんは貰おう。

あたしは諦めることにした。

 次に連れていかれたのは、こじんまりしたアクセサリーショップ。壁に沿って台があって中央にも台が置かれてあってそこに商品が並んでる。中央にあるのが目玉商品なのか、キラキラと宝石みたいなのが光っていた。

着くと手は離され、デュランは物色を始めた。

 やれやれ。プレゼントするなら巨乳ねーちゃんのサリエル支部長にすればいいのに。なんであたし?

デュランの容姿なら、金を使わせてくれるカノジョをすぐ作れるだろうに。あたしに金を使う様子からしていないよな。いたらビックリだよ。

 長身の背中に呆れた視線を送ってから、飽きたので周りを見た。

一番最初に目に留まったのは、一つのアクセサリー。というかアーム。

壁にある黒いボードに飾られている一つのアームは、きらびやかな光を放つわけでもない紅い石は薔薇の形に削られている。いつか夢に見た薔薇と同じ色だった。


「キラキラ光る宝石なんかそっちのけで、熱心に見るんだな」


 いつの間にか隣にデュランがいてあたしをククッと喉で笑う。

そんなに熱心に見てたのかな……。

「これを」と白い髭の小太り店員を呼ぶと、黒光りするチョーカーと薔薇のアームを購入。店員がチョーカーにアームをつけると、デュランはそれを受け取った。

 嬉々として受け取ろうと手を差し出したが、その手にチョーカーは置かれなかった。

デュランがあたしの首にチョーカーを回して、つける。後ろに金具がついているのに、前方からつけてくるデュランは、後ろを覗きながらつけようとした。当然のようにデュランの顔が近付く。

後ろに回るなり、あたしを後ろに向かせればいいのに、デュランは苦戦した。あたしがやった方がよくね?

というかなんでアンタがつける。顔近いわ。


「よし、つけられた」


 その距離のまま、満足気にデュランは笑みを浮かべて、あたしの髪を撫でた。

その行動で気付く。


 コイツ、女慣れしてやがる……!


「似合ってる」


 至近距離で微笑むデュラン。

その顔は女性が好むであろう整った顔で、視線を下には目のやり場に困る逞しい上半身。チョコレートに近い肌色は艶やかで色気がただ漏れ。

自然に近付いて触ってくる仕草は、確実に女を落とすための手段。

さっきあたしの髪を摘まんだのも、女を落とす手段だ。

 首につけられたチョーカーが重く感じてきた。

もしかしなくとも、あたし狙われてる……?

そんなわけないよなぁ……と金色の瞳から目を逸らす。


「ドウモ……」

「大変よくお似合いです。指輪もどうでしょうか?」

「いりません!」


 これ以上貢がれたくない!

余計なことを言う店員を睨み付けて、先に店から出る。あとからデュランも出てきた。


「もういいだろ? あたし稽古あるから。ありがと」

「そうだったな。帰るか」


 漸く満足したらしく、あたしの手を取ると支部基地へと歩き出す。

 手を引く意味が……。

終わるならいいか、とあたしは振り払わず支部基地に戻る。

戻ったら絶対にキングリーン部隊に関わらないぞ。

避けまくってやる。死亡フラグは立てないぞ。絶対にだ。


「任務決行は明後日だ。魔法陣が残っているといいな」

「……なんで任務のこと、知ってんだ?」


 このまま会話なしで基地に戻るのかと思いきや、デュランからまた口を開いた。


「あれ、聞いてないのか?」


 顔だけデュランはあたしを振り返ると告げる。


「エリーゼの護衛として、キングリーン部隊も行くんだぜ」


 聞いてねぇええっ!





デュランは経験豊富で女慣れしている上に猛獣使い。猛獣は部隊のイカれた兵隊。


エリは男に囲まれてばっかなため、男口調が染み付いていて髪は伸ばすなと言われているだけで、決して女を捨ているわけではありません。


デュランは手なづけられるなら手なずけようとしていて、他人に興味ないレオルドが珍しく興味を抱いていたため、ほんのちょっとだけ興味があるだけ。今のとこ。

レオルドは……今後動きます。



いつの間にかお気に入り登録ありがとうございます。


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