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11 海老天ぷら




 ライリとリンクを見送って、あたしとニックスとティズは図書室に残って魔術の勉強をした。


「そういえば、召喚の魔術について教えろよ」

「召喚には魔法陣が必要。以上」

「ざけんなよ!」

「ふざけてねーよ!」


 ティズの胸ぐらを掴み上げる。そしたら真面目に返された。


「召喚は高度な魔術だ! 膨大な魔力を注ぎ込み、呼び出すんだぞ! 絵空事に近い技術だ! 支部で召喚魔術ができるのは、支部長しかいないくらいなんだぞ! その支部長だって、異世界から召喚なんて不可能!」

「支部長の場合、都心へ移動するため使うのだけれどね。でも異世界から召喚出来る魔法陣を知っているなら、支部長にも可能だと思うけど」

「いえ! 不可能です!」


 あたしの世界では魔術は全部絵空事なんだけど。

なんかティズが必死だったので、胸ぐらを放してやった。

ライリとニックスを慕うティズが、珍しく反発するように断言したのはあたしもニックスも吃驚。

先輩に従うよき後輩だったのに。


「物でも人でも召喚する対象のいる場所を知っていなければ、召喚は不可能なんです! 魔法陣で空間を繋ぐためには、その場所に魔力を送り込んで呼び出す。支部長は空間を繋いで遠くの都心へ行き来していますが……異世界を知らない支部長は魔法陣を知っていても異世界に繋げません」

「……つまり、異世界を知る者にあたしは呼び出されたの?」


 召喚するには、召喚する対象の現在地を知らなくてはならないってこと。

あたしを異世界から連れてきたのは、異世界を知る者の仕業。


「わからないわよ。何が起きても可笑しくない場所なのよ、魔女のいた跡地は。魔女がその地に魔力を残して奇怪な現象を起こすらしいし……もしかしたら異世界に繋がったのは偶然かもしれないわ」

「なんでそうハッキリしないんだよ!」


 ニックスの憶測に混乱してしまう。どれか一つにしてくれ!


「とにかく跡地で魔法陣が残っていたなら、エリが試しにやってみたらいいじゃない。エリは自分の世界を知っているもの」

「あ、そっか」


 空間を繋げる先を知っているなら、自分で道を作って帰れる。


「じゃあ移動出来る魔術を教えてくれよ! ティズ!」

「簡単じゃないって言ってるだろ!」

「頑張るから!」

「頑張って出来るもんじゃない!」


 いつものようにわぁぎゃあ騒いで、召喚の魔術を教わることにした。




「よっしゃ! 出来た!」


 案外簡単に出来た。

隣の机に置いた本を、ティズが描いた魔法陣の上に召喚。本を見ながら魔法陣に魔力を注いだだけ。

はしゃいで飛び回っていたら、ティズがものくそ悔しそうな顔をしていた。どうしたんだろうね?


「よし帰る!」

「気が早すぎだ! 支部長が頷いても三日は行けないぞ!」

「"メデューサの森"だし、万が一に備えて私達以外の隊長も護衛につけて、任務として行くことになるはずよ」

「任務? わー初仕事だわー」

「なんで棒読みなんだよ!」


 行き詰まりかと思いきや、一気に帰り道が見えてきた。

あと三日我慢すればいい。

最初で最後の仕事をして、帰れる! 父さん!


「寂しいわね……もう帰るのか。まだ……。そうだ、今日はエリの部屋に泊まっていいかしら?」

「お断りだオカマ」


 その手には乗らない。両刀のゲイを部屋に入れてたまるか。

 でも確かに寂しい気がする。

毎日三食一緒に食べたし、なんだかんだ稽古の合間は笑いあっていた。なかなか楽しい一週間だったと思う。

コイツらじゃなきゃ、四六時中父さんを思い出して悄気ていたに違いない。

なんだかんだここを楽しめたのはコイツらのおかげで、たくさんお世話になった。お世話になったのに、あたしはなにもしていない。

一文なしでもなにか出来ないかと考えた。


「あ。今日の夕飯はあたし作るよ」

「飯作れんのか?」

「おう、夜飯はいつもあたしが作ってた」


 家事は父親と二人でやった。朝昼晩家事なんて嫌だと初めは口論していたが、最終的には父親が朝飯を作るからあたしは夕飯を作ることに決まったのだ。

ということで料理はできる方なり。

 ……父さん、食べてるかなぁ。


「なに作ってくれるの? カレー?」

「ああ、オレカレーがいい」

「あたし天ぷらが食べたい。天ぷらにしよう」

「オレ達に作るんだよな!? お前の食いたい物を作るんかよ!」

「てか、テンプラってなに?」


 あたしの腹は今、天ぷらを求めている。

ライスがないのにカレーなんて作りたくないわい! カレーにパンって! カリーパン食べてろバーカバーカ!


「揚げ物だよ、あたしの国の食べ物」


 あれ、天ぷらって日本食だよね。まぁいいか。


「キノコあったし玉ねぎもあったし海鮮もあった……蓮根はあるかな」


 白米以外は、ちゃんと材料あるといいが。

あ、やべ。蓮根は旬じゃないや。

そんなこんなで、今日は天ぷらを作ることにした。





「料理長。厨房貸してくださーい」


 厨房が忙しくなる前に、仕込みを始めている黒髭のオッサンに頼み込む。厨房がないと作れない。


「あと材料も欲しいんです。仲間に国の料理を作ってやりたいんで、どうか貸してください! ちゃんと後片付けしますんで!」


 両手を合わせて、慣れない敬語で頼み込む。

じと、と黒い目で見てくる料理長。


「いいぜ」


 低音の声で許可が降りた。


「ありがと!!」

「今朝のおもしれー戦いを見せてくれたお詫びだ」

「戦い? ……あー、チャールズをボコッたのか」

「奴らとやり合うなんて、将来は大物だな」


 話せば気さくな人だ。

とりあえず笑みだけを返した。将来大物って話は、この兵隊で地位を上げること。

市民を守る警察であって、国を守る軍人である兵隊はもう辞める。

自分の世界に帰ったら、軍人目指すか。なんて半分本気の思い付きをするが、こことは違って優遇してくれないと思うのでやめよう。

厳しいの、無理。


「んー美味いな!」

「いけるわね」

「うん、美味い」


 料理長にも試食をしてもらって好評だったのを、ライリとニックスとティズに振る舞った。ついでにリンクも一緒に食堂へ来たので分ける。

二人前以上を作るなんて初めてだったので、余分に作りすぎた。


「リン……副支部長は?口に合わない?」

「美味しい」


 黙々と食べているリンクに感想を聞けば、こちらも気に入ってくれたようだ。

塩をかけた天ぷらがどんどん食われていく。これで白米があればいいんだけどなぁ。白米が恋しい。

 白米に想いを馳せて、むしゃむしゃと海老を食べていたら影が降ってきた。


「美味そうな匂いだな」


 朝に聴いた覚えのある声がする。

振り返れば、目の前にはくっきり割れた腹筋。色気が滲み出るナイス体型を黒いYシャツから見せびらかしている人物は一人しかいない。

恐る恐る腹筋から胸板、胸板から顔へと視線を上げてみれば金色の目と目が合う。

 近っ!

デュランは前屈みになって、テーブルに手をついた。あたしはそのデュランの腕の中に閉じ込められてしまう。

 近っ、近い!!

ギョッとしていれば、あたしが加えていた海老がこんがり色の手によって引っこ抜かれた。

半分になった天ぷらの海老は衣を少し落として、そのままデュランの口の中へ。


「あたしの海老がぁ!! ちょ、お前返せや!」

「ん? 返す?」

「いらねーよ! 口からだそうとすんな!」


 モグモグと口の中で海老はデュランに噛み砕かれている。可哀想な海老……!


「僕のをやる」


 恨めしく睨んでいたら、向かいに座るリンクがまだ食べていない海老を差し出してくれた。

海老は五匹しかなかったので、これが最後だ。

 流石副支部長!

あーん、と口を開けて食べようとしたら、横から白い手が伸びてかっ浚われた。

見ればレオルドが海老を口の中に入れていた。


「レオルドーっ! お前まであたしの海老をぉ! お前らに食べられるために海老は生まれてきたんじゃないぞ!?」

「エリに食われるために生まれてきたわけじゃないぞ」


 ティズがなんか言っているが無視だ無視。


「勝手に食うなだし! あたしが作った天ぷらをっ!」


 お前らのために作ったんじゃない! とテーブルを叩く。未だにデュランの腕の中なのでレオルドに掴みかかれない。


「エリーゼが作ったのか、美味いな」

「エリだっての! 食うな!」


 デュランの手が天ぷらに伸びたので叩き落とす。


「ん」


 テーブルの横にいるレオルドが身を乗り出してきた。口には半分食われた海老。

顎で差すようにくいっと顔を動かすレオルド。

 なに、デュランみたいに半分食えってこと?

困惑しつつもレオルドが何も言ってくれないので、海老の尻尾を掴む。簡単に抜けた。

誰にも取られないうちにパクリと自分の口に入れる。衣のサクッとした食感と海老のプリっとした食感を堪能して飲み込む。満足!


「……」


 まだレオルドが身を乗り出したままの体勢でこちらを見ていることに気付く。

嫌な色をしたブルーアイで、じっとあたしを見てくる。

なに見てんだよ、と喧嘩腰になる前に気付く。

 わお、あたし要注意人物に挟まれとる。

海老に気をとられていて、デュランとレオルドの威圧感に微塵も気付かなかった。デュランは未だにあたしの両サイドに手をついてテーブルと挟んでいる。横からレオルドが身を乗り出している。

 逃げ道ないじゃん!?


「なにか用なのか?」

「美味い匂いに誘われただけだ、ごちそーさん」


 絶体絶命かと思いきや、あたしの左隣のライリがデュランに問えば、デュランはあたしから離れた。

それに従うように、レオルドはあたしから目を逸らすと別のテーブルに向かう。

流石は要注意人物を束ねる部隊長だ。


「……デュランって、いい身体しているよな」


 ライリと違って筋肉質だけど腰が細い。筋肉のつきが程よい感じだし、茶色の肌が色っぽい。あの黒いYシャツの中から見せているのがなんか絶妙。


「そうね、身体だけはいいのよね」


 同意してくれたのはニックスだけ。


「顔はだめ?」

「顔と言うか、デュラン・キングリーン存在自体だめ」

「存在自体か……。でも身体はいいよな」

「身体はいいのよね」

「食事中です、話題を変えてください」


 存在自体だめって、わかる気がする。

デュラン・キングリーンじゃなければいいんだ、中身が違うならいいと思うんだ。いい身体だから。結論、いいのは身体だけ。

 しかめっ面をするティズに言われたので話題は変えた。






間接キス、なんて言葉は微塵も浮かばないエリは、オカマと男の身体の好みが一致。


ゲイは美を追求する方々らしいです。

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