思い出の・・・
もし願い事が叶うなら私は死にたい。小高い丘の上にある一本の桜の木。彼と私の思い出の桜の木。そこで安らかに眠りにつきたい。私のせいでごめんね・・・・篤弥。本当は私が死ぬはずだった。
2月13日
桜木姫香は授業中の教室の窓から、小高い丘の上の桜の木を見ている。丘の上の桜の木には雪が積もっている。授業終了のチャイムが鳴った。
「きりーつ、きをつけ、れーい」
「ありがとうございました」
何時もの日課が終わる。急いで鞄に荷物を詰め込む。帰ろうと椅子から立ち上がった瞬間、後ろから声が掛かった。
「桜木さぁーん。」
必要以上に声が高い。後ろを振り向くと、クラスの中心人物である松山志織だ。姫香は志織を少し睨み付け、
「何?」
と言葉を放った。志織は姫香の態度はお構いなしにテンション高く話を続けた。
「きょーう、どうしても外せない用事があってぇー、桜木さん掃除当番代わってくれなぁーい?」
姫香は少し間をおいて、ため息を着いた。
「何であなたと仲良く無いのに、掃除当番代わらないといけないの?どうせ外せない用事とか言ってこれから合コンとかじゃないの?それに私が掃除当番の時にはそんなこと知らないとか言って、逃れる気でしょ?」
志織の顔には焦りが見えた。姫香は志織とは反対に表情を変えずに鞄を肩に掛けた。
「もし本当に外せない用事があるなら、あなたのお友達に頼んだら?」
と、言葉を吐き捨て教室から出て行った。教室には志織の取り巻き3人が志織の周りに集まり、姫香を睨みつけていた。
「何よ!ちょっと美人だからっていい気になって、お高く気取ってるんじゃないわよ!」
姫香は心の中で(聞こえてるよ)と思いながら話を聞き捨てた。
下駄箱で靴を履き替えていると、遠くから手を振りながらこっちに向かっている人が居る。
「姫香ー」
姫香の友人の赤坂麻希だ。
「姫香、あんた松山志織に楯突いて仕返しで何されるか分からないわよ。」
半分冗談で、半分本気のような口調で言った。
「別に好き勝手にやらせておけばいいのよ。私には関係ないわ。」
強気とも思えない顔をして姫香は歩き始めた。
「ちょっと待ってよー姫香。」
慌てて麻希が靴を履き替え姫香を追いかけていった。
帰り道に姫香と麻希は無言のまま歩いていた。麻希は姫香の顔をチラっと見て、姫香に話しかけた。
「姫香・・・やっぱり明日学校休んでお墓参りに行くの?」
姫香は麻希と顔も合わさずに前を見ていた。麻希は少し顔を下に向け話を続けた。
「私が言うことじゃない事は分かっているけど、もう4年が経つんだよ。何時までも自分をせめても篤弥君は帰って来ないんだよ?そもそもあの事件は姫香のせいなんかじゃないんだし・・・篤弥君だって・・・」
麻希は姫香の顔を見て話しを続けようとした。しかし姫香の口が麻希よりも先に開いた。
「麻希、ごめん・・・私用事があるから先に帰るね。」
麻希の返事もきかずに、姫香は足早に走って行った。麻希は走って行く姫香の後ろ姿をただじっと見つめていた。