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No.2 Origin

勢いよく落ちていた四人は、地上10m辺りで急にそれぞれの

懐中時計が光り出したのに気付いた。

「光ってる………」

「さっきほどじゃね―けど……」

光はゆっくりと広がり、それと共に四人の身体も浮いていく。

「…浮いてる…?」

「まるで夢を見てるみたいですわ………」

「……凄い…どんな原理で浮遊してるの?」

こんな時でも希美は必死に仕組みを突き止めようと頭を働かせる。

そうこうしている内に、足元に地上が見えた。四人が足をつけると、

懐中時計の光はゆっくりと消えていった。

「消えましたわね…一体何だったのでしょうか……?」

「んな事より、もっと重要な事があるだろ」

愛架がネックレスに着けている懐中時計を弄りながら言っていると、

割り込む様に勇揮の透き通った低めの声が聞こえた。


――――四人の目の前には、空に浮かぶ山や城、泉が見える世界が広がっている。


「…ここ……どこですか…?」

「少なくとも学校じゃねぇ事は確かだよな」

希美が少々怯えた様子で辺りを見回し、勇揮はイラついた感じで

前髪をかきあげる。

「恐らく日本でもありませんわね。こんな光景は日本では

 見る事さえ出来ませんもの」

「ううん…多分……私達が知ってる世界でもないと思うわ…だって、

 山や城が浮かんでるなんて事、私達の世界じゃありえないし……」

考えながら言う愛架の言葉を嗄喜が否定する。

「……じゃあ、ここ一体どこなんだよ?」

かきあげた髪をクシャクシャと弄りながら、勇揮が嗄喜に問う。

嗄喜は少し言いにくそうにしながらもはっきりと言った。

「…異世界に連れて来られたんじゃないか、って………」

「そんな!ありえないですよそんなお伽話の様な事…!!」

「でも、実際に私達はこの光景を目の当たりにしてるわけですから…」

信じられないといった表情で言う希美に、愛架は辺りを見回して返す。

ぐっと詰まる希美に、愛架が笑顔で言った。

「まぁまぁ。私達が今どこにいるのかも分かった事ですし、それぞれ

 自己紹介でも致しません?」

のほほんと言う彼女に、少し不安になって来る三人だった。


愛架は右手を胸に置くと、綺麗な笑顔を浮かべて言った。

「では、私から。私は鍵盤科声楽コースの荻原 愛架と

 申します。十六歳の高校二年生ですわ」

「…ちょっとまて、荻原って…まさかあの声楽界のホープか!?」

「はい。恥ずかしながら、そう呼ばれてますわ」

勇揮の驚いた様な言い方に愛架は笑顔で頷いた。三人は顔を見合わせた。

「…まあいいや。次は俺な。俺は弦楽器科でチェロコースの

 金沢 勇揮だ!因みに十七歳の高二だぜ」

少々雑な自己紹介に、今度は希美が聞いた。

「え…金沢 勇揮さんって…『勇さん』と言われ慕われているあの

 金沢さんですか……!?」

「あぁ、そういやぁそんな風に呼ばれたりするっけな」

動揺している様子で聞く希美に、勇揮はニヤリと笑みを浮かべて言う。

 声楽界のホープに不良のチェロ弾き。こんな豪華な顔が揃っているとは。

「では、次は私ですね」

希美はゆっくりと立ち上がり、一礼して自己紹介を始めた。

「私は、管楽器科のフルートコースを選考している天谷 希美といいます。

 十六歳の高校二年です。――…因みに、皆さんからは何故かは

 知りませんが、秀才のフルート吹きと呼ばれています……」

少し頬を赤くして言う希美に、愛架達はまたもや目を丸くした。

「貴方があの希美さんですのね……お会い出来て嬉しいですわ」

愛架は綺麗な笑みを浮かべながら言った。

「さて、と…最後は私ね」

嗄喜はそう言うと、地を蹴ってくるりと後方に一回転をすると、

見事に着地した。

「私はミュージカルコースに所属してる祠堂 嗄喜よ!因みに

 十七歳の高校二年!よろしくね」

満面の笑顔で言う嗄喜に、勇揮は目を輝かせた。

「お前が祠堂か!いや―会ってみたかったんだよなぁ!!」

二人は握手しながら楽しそうに話す。その横では愛架と希美が

何やらとても難しい話を繰り出している。

 そんな様子の四人の上空から、

「お主達は一体いつまでじゃれておれば気が済むのじゃ」

という怒気が含まれた声が響いて来た。

四人は弾いた様に上を向いて見回す。勇揮は崖の上に人影を見つけた。

「テメ―誰だよ!!」

彼女の叫び声に答える様に、影は数十メートルほど上空にある崖から

勢いよく飛び降りて来た。

「…お主達が異世界に『転生』されたという伝説の戦士か」 

四人にそう言ったのは、自分達よりかなり身長が低く、妙な格好をして、

いかにも重そうな杖を持った少女だった。

「何だよその偉そうな態度は!!テメェ―どっからどう見たって

 俺より年下だろ!?」

勇揮が額と手の甲に怒りの象徴を浮かべ少女に指をさす。     (←良い子は指差さないでね。:作者談)

すると、少女は左手に持っていた杖を勇気の頭に思い切り振り下ろした。

「何を失礼な事を抜かすか!我はこう見えて528歳じゃ。10の頃から

 背の成長などとうに止まっておるわ」

「何いぃぃ!!?」「「ええぇぇぇぇぇ!!?」」

三人は驚きの声をあげた。

「まぁ…かなりお若く見えますわね。とても528歳とは思えませんわ」

こんな時までも、愛架はのほほんと言う。

「『若い』で納得出来る限界を軽く超えてますよ、528だなんて……110歳でも

 驚きなのに……」

希美は座り込み、頭を抱えてう〜んと唸っている。

「………お主達よ、じゃれ合いはここまでじゃ」

少し低い声に変わり、不思議なオーラを纏う少女に、四人は思わず

圧倒されかけた。少女は続けた。

「お主達をこの世界へ呼び出したのは誰か分からぬ。しかし、じゃ。

 …今、お主達や我ら、沢山の世界に大きな『ヒビ』が入っておるのじゃ。

 それらの世界が危ういのは変わらぬ」

少し俯く少女に、嗄喜は何かひっかかりを憶えて言った。

「…世界に『ヒビ』?」

嗄喜の言葉に少女は深く頷いた。

「この世にはお主達の世界の他に数多の世界が存在する。もちろん、

 普段は互いの世界に影響されず干渉されぬ様に、世界と世界の間は

 高度な魔法や呪術の壁が立ち塞がっておる。――……じゃが、

 どうやらこの頃、その幾つもの世界の間にある筈の壁が消えておる。

 そのせいで、互いが互いの世界に影響を及ぼし、世界自体に『ヒビ』が

 入ってしもうておるのじゃ」

一しきり言うと、少女は深い溜め息をついた。

「世界に『ヒビ』…つまり『傷』が入っているのは分かりましたが、それが

 私達と一体どういう関係があるのですか?」

分からないといった様子で希美が聞く。この様子では、彼女の頭で考えても

答えを出せなかったらしい。

「……お主達の話は三百年前に遡るのじゃ」

そう言うと、少女は杖を構えた。すると、杖の中から勢いよく分厚い本が

飛び出して来る。

「ぅおっ!?おい!危ね―だろがよ!!!」

「お主ほどの優れた反射能力があれば楽に避けられるであろう」

思わずぶつかりそうになった分厚い本をしっかりと受け止めた勇揮は

不平を言ったが、すぐ少女に返されてしまい返答に詰まっていた。

「その本はこの世界に語り継がれてきた伝説を細かく記した古文書じゃ。

 自分達の事は旅の道中ででも読んで知るが良い」

少女の勝手な言動に、一瞬四人は自分達の耳を疑った。

「ちょ、ちょっと待って下さいません?貴方、今何と仰いました…?」

愛架の言葉に、嗄喜達は空耳であって欲しいと願った。

――だが、その願いは脆くも崩れ去る事となった。

「おぉ…言い忘れておったの。お主達にはこの世界や他の世界に

 入った『ヒビ』を消し去る旅をして貰いたい」

軽く言う少女に、勇揮は掴みかかった。止めようとする希美の手を振り払い、

「てめぇ!!何勝手にごちゃごちゃ言ってんだよ!!『旅』だとぉ!?

 ふざけんじゃねぇ!!こちとら毎日忙しいんだよ!!!」

と少女に怒鳴りつける。三人は必死に二人を引き離そうとする。

だが、少女は何の反応もなく、ただ勇揮の額に人差し指をそっと当て、

ブツブツと何か呟いただけだった。

 しかし、次の瞬間に三人は驚きのあまりその場に立ち尽くしてしまう。

少女が指を離すと、勇揮は瞬く間に石像と化してしまったのだから。

「金沢さん!?」

希美は石となった勇揮を叩いたり揺すったりするが、勇揮の石化が解ける

様子は見られない。

「案ずるでない、仕置きをしただけじゃ。ちゃんと生きておるわ。

 尤も、身動きだけは取れんがの」

少女は乱れた服を直しながら言った。そして三人に向き直ると、

「手荒な真似をしたのは謝る。しかし、お主達が務めなければ世界は

 破滅への道を歩むばかりじゃ……頼む」

頭を下げて言う少女に、嗄喜は頭を上げさせると、

「……分かった。何だか知らないけど、私達がいる世界も危ないんでしょ?

 やってみる」

「私もやりますわ。どの世界にも危険が迫っていて、それを防ぐのが私達しか

 出来ない事でしたら、答えは決まってますもの」

「そうですね。私達が出来る限り、やらせて頂きます。ただ……」

そこまで言うと、希美は俯いてしまった。少女は顔を覗き込み、

「……ノゾミ、と言うたかの。遠慮せずとも話してみるがいい」

と微笑した。その可愛らしい笑顔に希美はつられる様に言った。

「…私達は高校生です。昼間は授業があって抜ける事は出来ません。

 授業が終わった後でも、帰りが遅くなれば両親が心配します」

希美の言葉に、残りの二人は気まずそうな顔をした。

どうやら、二人はその事を考えずに返事をした様である。

そんな三人とは裏腹に、少女は大声で笑い出した。

「心配するでない。そこは我がどうとでも出来る範囲じゃ」

笑いながらそう言う少女に、希美もどうやら安心した様だ。

「…それでは、気兼ねなくやらせて頂きます」

そう微笑んだ希美の遥か後方で、『何か』が目を光らせていた

事には、誰も気付かなかった。









 深い闇に包まれた森の奥では、空間に虹色の裂け目が現れ、

同時に何かの影が飛び出した。

その影はしばらく森の中を駆け抜けている内に、段々と人の形を

見せていく。次の一瞬で、影は人間の姿になった。

漆黒の衣を纏う者は、まっすぐに森の中を進んで行った。

その内、大きな広場に出ると、漆黒の者は呪文を詠唱した。

長い呪文を唱えていると、広場になっている空間が歪み始めていた。

歪みが完全に消えると、その広場には闇のローブを纏った者達が

三日月を描く様に立っていた。

「フィアルグ様…『外』の様子はどうでしたか?」

一番近くに立っていた、闇色の髪を背中まで伸ばした女性が

漆黒の者――フィアルグ――に問うた。

「…『壁』を保つ為に人間界に転生した筈の戦士が現れた」

フィアルグの一言でその場は騒然とした。

「三百年前の伝説が甦るのか……」

「あれだけは避けたいと思っていたのに…」

口々に言う者達の顔は、皆 同じ様に焦っていた。

「ちょっと止めなさいよ!」

「だがフュイレン、これでは我々の計画が駄目になってしまう」

「…キュラーまで…………」

フュイレンと呼ばれた先程の女性は、騒ぎを静めようと一喝したが、

キュラーという男性の困った様子で一気にしゅんと萎れる。

 フィアルグが口を開く。

「現れた戦士達は十六、七の子供だ。伝説など成就しない」

不敵に笑う彼に、どうやら周囲の者も安心した様だ。


  しかし、フィアルグは厳しい表情を見せたまま言い放った。


「だが、“ 念には念を ”というからな……ソルヴィル」

「はっ!」

ソルヴィルと呼ばれた女性は、一礼した途端ふっと消えた。

 フィアルグは踵を返しながら呟いた。



「『壁』はこの手で消してみせる―――必ず」


あぁぁ……またもやごめんなさい!!!

また二ヶ月掛かっちゃいました……J

中間試験や実力試験に期末試験、

一ヶ月試験やってたと言っても

過言ではないくらいでして………JJJ

受験まであとわずか。入試が怖いです……(泣)


今回の話はどうでしたか?

楽しんで頂ければいいんですけれど。

でも結局、懐中時計の正体分かりませんでしたねJ

すみません…本当に行き当たりばったりなもので、

予定がずれてしまうんです。

今度は明らかにさせますから!!


次回は四人と謎の多い少女の元に、更に謎の深い

闇の男・フィアルグの刺客が襲撃します。

初戦で四人はどういう行動をとるのでしょうか。

乞うご期待を!!

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