女子会と理由②
今回と次回は実話になるため少々重い話となります。ご注意ください。読み終わった後に「そりゃ転生するわな!」と思って頂ければと思います。
「私からも少し質問をよろしいでしょうか?」
2人の興奮冷めやらぬままに、ハルエが手を挙げて名乗り出た。
「カナリ様の前の世界での話なのですが、色々な技術を身に付けるに至った経緯をお教え願えますか?」
「私も聞きたいですわ。何故あれほどの技術を学ぶ事になったのか。」
チャルは頭を掻きながら考え込む。話をしてしまった以上興味を引く事になったのは自分の責任だ。話せる部分だけと言ったのでその選別はしなければ。
「話せる部分だけっすけど大きく3つ理由があるっす。」
「3つ‥ですか。」
「1つ目は他人に対して自分の様な境遇に遭わせない為っす。経験者は行っちゃいけない境界の壁であり、誘導員であるべきだと、特に次世代に対しては自分の世代の問題を渡してはならないって考えっす。」
「なんと‥優しさと責任感の塊みたいな話ですね。」
「そうっすね。他人の為に動くご主人の行動原理の根源がここにあると思うっす。元々楽しませる事は好きで手品やものまね、太鼓打ちといった技術も持ってるっす。」
「芸事も身につけておられるのですか‥。」
新たに知らされた技術にハルエも落胆を示す。政治、武術、調理、調査分析、更に芸事とは‥多彩や器用と一言で語られてしまうと本人の努力への侮辱かもしれないがその言葉しか出てこない。
「二つ目はある約束を守っていたからっす。」
「約束?どなたとのですの?」
「ご主人のおじいちゃんっす。」
カナリ様のお祖父様。さぞ凄い方なのでしょうとイセもハルエも耳を傾ける。
「ご主人のおじいちゃんは父方母方の2人とも陸軍と海軍のそれぞれの将校だったっす。」
「なるほど。そのお二人の意思を継いで自衛隊とやらに入られたわけですね?」
ハルエがピンと来たように答えたが、
「残念ながら違うっす。」
不正解。正解だと思ったハルエはキョトンとした後、少し視線を下げて恥ずかしそうにしている。
「特に父方のおじいちゃんっ子だったご主人は、ボクがいなくなった後が特にひどい状態になって、そのおじいちゃんが家に訪問した時、その姿を見て約束をとりつけたんっす。」
少し饒舌になってしまっている所を見るとその時の姿は本当に筆舌に尽くしがたいのだろう。チャル本人も思い出させたくないと言わしめる姿とは‥。
「おじいちゃんは戦争で敵国に捕まり、将校として2年ほど軟禁された経験を持つ人だったっす。そのおじいちゃんがご主人に対して、
「じいちゃんより先に死ぬなよ」
って言ったんす。その一年後に母方のおじいちゃんとも同じ約束を取り付けられ、その後も何度か死にかける目に遭いながらもお二人が亡くなるまで守り通したっす。」
戦争で数多の屍を見てきたであろう人間が見ても危ない姿に子供を追いやるなど、親は何をしていたのでしょうか‥。
「生き抜く為に鍛え上げたのがあの数々の知識や技術であるのですね‥。」
「最初はほとんどがその状態に追い込んだ人間への復讐の為だったんす。格闘技、あの世界の隠密集団「忍者」の技術、植物の毒性、武器の作成とボクが見ただけでも暗い技術をこれだけ勉強してたっす。」
「私もお嬢様の護衛の為、格闘を嗜む者ですが足の運びと隙のあるようでない姿勢などを見ているとその話にも納得が行きますね。経緯には同情の念を隠せませんが。」
ハルエは悔しそうに膝の上に拳を握る。
「その後、技術が身につき、いつでもヤレる状態になった事でようやく精神に余裕が出来たんす。そこでご主人の本来の優しさが勝って、他人の為にその技術を明るいものに変える努力に向かうっす。」
「皮肉な事ですわね‥。」
他人からしたら喜ばしい変化だ。だけど力がついてようやく目標に届いた所でその技術の根本を変えるのはどれほど精神力を要する事なのだろう。
「その過程でその技術が通用するかどうかと知識を披露する度に襲って来る過去の記憶により、いつ暴走するか分からないから合法的に死ぬ為に自衛隊に入ったんす。」
「なんと!死ぬために入られたと言うんですの!?」
「そうっす。」
イセの驚きの反応にさらりとチャルは返す。
「だけど自衛隊に入る事でその当時の技術がめちゃくちゃ役に立ったんす。戦闘にも活かせた事は勿論。他の隊員に格闘技や栄養学の知識等から変換していた医学的知識による身体の整え方の実践と普及。階級が一番下なのに先生と呼ばれるまでになったっす。」
「それまでの事が身を結んだのですね。よかった。」
イセは胸を撫で下ろし、身を結んだ神の采配に感謝する。
「だけど知識を使う度に襲ってくる記憶の澱はそのままっす。体が出来上がるまではうまくいかず、入院も数回するぐらいだったすから相当苦しかった筈っすね。そんな中、事故で隊の同期、仲の良かった上官、そして結婚まで考えていた恋人を相次いで亡くす事になったっす。」
「なんと!!」
2人の驚きの声が上がり、見事にハモる。同時に心の中では神の采配に感謝したことを撤回した。
「やり甲斐を感じ始めていた反面、亡失も大きくなって気がついたら建物の屋上から飛び降りそうになってたくらいっす。同期の人の声がけがあって意識を取り戻し、ことなきを得たっすが。」
怒りでも虚無感でも人は死を選んでしまう。その二つが実際この男には降りかかる事になったのだ。本当によく生き残ってきたものだ。
「それからしばらくして3度目の災害に派遣される事となってそこで全力で炊事にあたったっす。」
「私もそれを聞きました。そういう班に所属していた事もあったからあのソースカツサンドなる食べ物も効率良く作れたのだと。」
「実際は一食あたり600人分の食事の一品を1人で担い、他も手伝いながらそれに使う道具一式の整備もその場でやってのけていたっす。4夜5日ほぼ寝ずに。」
災害の規模は分からないが600を1人でとはどれほどの作業量か‥それを寝ずにとは‥
「そこにご飯を貰いに来ていた被災者の女の子1人笑顔に出来なかった事を悔い、派遣交代での帰り際にその女の子がお礼を言った事で、自分が救われてしまったという悔しさと役割を果たせたことを認めて貰えた嬉しさに大泣きし、次世代への環境づくりの必要性を感じて次世代育成活動を始めるっす。」
イセとハルエはその経緯を聞いて目に涙を溜めている。当時、それはさぞ悔しかったんだろう。嬉しかったんだろう。きっとこの男はどれほどの頑張りを見せてもすり抜け、届かぬ所があると知り、それでも自分の目標に向かって戦い続けているのだ。異世界に来てまでも。
「その次世代育成活動のもう一つの原点、それが三つ目の理由っす。」
「それは‥。」
2人は少し嗚咽が混じるようになっていたが真剣な眼差しで聞いている。
「3つ目は‥。」




