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現実世界でチートだった男が異世界に行ってもほぼチートだった件  作者: 松本隼龍


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出発と車内

「一体どういう経緯と理由で?」

このガルツ神官の突拍子もない事には驚かないが、イセを隣の国に送るというこりゃまた突拍子もない内容だったので問いただす。

「現在この街とも交流のあるクマポンの国にある姉妹都市のソーアに魔人族の国ガサから攻撃を受けていると連絡がありました。」

先程のイセの説明の中にあった人間族と魔人族の国だ。攻撃を受けているという事はその二つの国は隣接しているのだろう。

「姉妹都市の契りと人間族の国同士の取り決めにより、有事の際には協力を惜しまず。武術、魔法に長けた者をその地に派遣する事になっております。」

魔法に長けた者‥その対象に、いかに少女といえど魔法学校主席の実力者は含まれるということか。

「これまでは巫女という立場と未成年者という事でありましたが15を迎え半年経ち、成人で実力者となれば今回の事態においては避けようにも行かなくなったという事なのです。」

忘れていたがこの世界では15歳で成人扱いなのだった。江戸の元服制度の様な風習に思えるが、生物学的には人間の本来のサイクルだったりする。と言っても俺にとってはイセは未成年だ。大人が守る義務がある。

「それで私に護衛をと。」

「はい。私としても神官まで街から不在とするわけにもいかず、だからと言って娘を送り出すには不安しかない親心も持ち合わせているのであります。どうかお願い出来ないでしょうか?」

戦争に子供を送り出したくない。なんていうのは親としては当たり前の感情。ここは手を貸す一択だ。

「お引き受け致しますが私とて未だ低レベルな部分があります。少し準備を行う時間はありそうですか?」

「攻撃を受けてからすぐに連絡が飛んできたことと高台にある街ですし、すぐに陥落とは行かないでしょう。しかしソーアまではここからでも3日かかります。出来れば早く出立して頂きたいです。」

「分かりました。3日かかるのであればその間に準備をしましょう。チャル。」

「はい!ご主人!」

「昼ごはんを食べて旅の準備をしたら出立だ。道中も現地に近づくにつれ敵に出くわすかも知れない。覚悟していこう。」

「了解っす!」

「では私たちは街に行き、食料などの調達を致します。イセさんは準備が出来次第、移送手段でお越しいただき、夕刻前に街道の入り口で落ち合う事としましょう。それでは準備にかかります。」

自衛隊式の10度の敬礼が咄嗟に出る。よく見る挙手の敬礼は帽子を被っていない時は行わないので、この10度のお辞儀をする癖が体に染み付いている。

「どうかよろしくお願いいたします。娘の事もですがあの街には私の妹家族も住んでいるのです。何卒お力添えと無事のご帰還を。ベルレ神にお祈りいたします。」


こうして屋敷を後にして俺たちは調達の為に街の市場へ向かった。

アイテムBOXをフル活用して色々な食材と着替えや毛布など日用品や資材を購入していく中で顔見知りと出会った。

「カナリ様!どうしたい?そんなに慌ててよ?」

俺にとっての第一街人になるミクニだ。ちょうどサーツを売りに屋台を出している。

「今晩にでも荒らされたサーツ畑の復帰を報告しようと思ってたんだけどなんか急いでんのかい?」

「諸事情で一旦この国を離れる事になったんです。その旅の準備ですね。」

「カナリ様が離れるって事はよっぽどな事なんだろうな。よほどデカい魔獣でも出たのか?」

「内密ですがソーアの街で侵略があったそうで、イセさんが出頭を命ぜられて私がその護衛につく事になりました。」

「侵略!?って事は他国からって事か。そりゃ一大事だ。」

「というわけでサーツ20本。」

俺はVサインをして注文する。

「あいよお客さん!サービスで10本おまけ、それと今夜渡そうと思っていたケイブから預かってた礼の品も渡しておくぜ。」

ペッポの実の生産者であるケイブさんからは粗挽きとすりつぶしたペッポ(胡椒)を頂いた。旅の途中での調理に重宝しそうだ。ありがたい。

「俺たちの街にもまだまだやることあるんだろ?無事に帰ってこいよ!」

「承知。」

その送り出しの言葉に帽子は被っていなかったので自衛隊式の10度の敬礼で返す。

「やっぱいい人っすね!」

「そうだな。帰ってきたらなんか土産でも持っていこう。」

ミクニのおすすめの資材も聞き、色々と買い揃えて準備完了。旅となれば風呂に入れないであろうということで一度宿の温泉に入り、着替えて待ち合わせ場所へ。


街の入り口で荷物車付きのトカゲ車が停泊し、我々2人を待っていた。御者も1人ついて当然のごとくハルエさんも旅装束で佇んでいる。

「此度は護衛の件をお引き受けいただきありがとうございます。どうぞこちらで移動を。」

荷物車は幌がかけられ、長距離用なのだろうかいつものより大きいトカゲの車だ。俺たち2人が乗り込みハルエさんも乗り込み出発。中も広く、4人が向かい合って座っても足が伸ばせるぐらいだ。移動間、自分の足が動かせない上に狭いなどあの父親が娘に課す事はないか。

「此度は本当に感謝致します。お疲れではないですか?私が知る限りこちらの街に来られてから休んでおられないのでは?」

「大丈夫です。自衛隊時代やまちづくり活動時代は平均睡眠時間も短く7年という期間動き続けていましたから。数日ぐらい誤差です。」

「今まで大丈夫だったからって今後はどうなるか分からないっすよ。移動ぐらいちゃんと休むっす!」

多分レベル表記的にはこの3人の中で一番低いであろう俺が気遣われ、毛布を覆い被せられる。

「カナリ、リカーバ、スリプ。(回復するまで眠れ)」

えっ?なんかイセが魔法唱えた? そう思った瞬間強烈な睡魔に襲われ、眠りに落ちた。


「これぐらいしないとずっと頭使ったり動き続けるっすからねこの人は。」

「ええそんな感じでしたわね。色々と準備の段階で大変でしたでしょうに。そしてこれから大いに活躍を強いられるでしょうし、この時ぐらいは休んで貰えるとこちらも安心しますわ。」

咄嗟の連携プレイに敗れた男の寝顔を眺めながら3人は一息つく。そしてイセはある事を切り出した。

「質問をしてもよろしいですか?チャルさん。」

「何っすか?改まって。」

「チャルさんはカナリ様の従者なんですわよね?その‥恋人とかではなく‥。」

おずおずとお嬢様は質問を述べたが彼女の返答はあっさりと、

「そうっすね。ベルレ神様から遣わされて従者になったっす。」

そのあまりの簡潔具合に驚きつつ、問いを重ねる。

「本当にそれだけですの?」

「‥何か変に感じたっすか?」

猫人族のチャルの瞳が少し険しくなる。その眼光にドキリとするもお嬢様は見解を述べ始めた。

「お二人の仲というか、チャルさんの言動を見るに‥従者以上に近しいというか、『何かを』知り合っているような気がするのです。」

「つまりボクの正体が得体がしれないから疑ってるって事っすか?」

「ただならぬ関係に見える。という程度ですわ。従者は従者なのでしょう。ただ自分の言葉を引く、明るい振る舞いをカナリ様の緊張を解きたい間で確実に入れているといった配慮は従者のそれではなく、出会って数日の相手にしては長い年月を経た恋人に近い、と思っただけです。」

お嬢様の饒舌な説明にチャルは一時目を伏せる。そして一息ついてカナリが寝ている事を再度確認し、口を開いた。

「なかなか鋭いっすね。ご主人が寝てるなら、話せる部分だけお伝えしておくっす。気になってたら戦闘にも支障が出るかもっすから。」

ありがとうございます。とイセも姿勢を正し、改めて耳を傾ける。


「実はボクはこの世界で生まれ育ったわけじゃないんす。」

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