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第8話

お父さんに言った?

でも無駄だよ。誰も信じない。

あなたの部屋に入れる人なんていないもの。

──私以外ね。

だって私はあなたなんだから。

---

悟は顔面から血の気が引いた。

---

かすみと呼ばせてあげる。

あなたの裏でかすんでる方だから。

あなた、痛くないんでしょ?

全部、私が受け取ってあげてるから。

ねえ、ありがとうって言わないの?

あなたは殴られても痛くない。

……でも私は血が出るほど、縄で叩かれる。

吐き気もする。体が軋む。

あなたの代わりに──全部。

よかったね。痛みを知らずに生きられて。

---

あなたは知っていたはずよ。

構造はあなたの才能を知って気付いた。

あなたの本当の父親があの元執事だと。

あなたの本当のお父さんは

構造の父親、二ノ宮華山のゴーストライターだった。

あなたの描く絵は元執事の絵と瓜二つだった。

構造はあなたが妻と元執事の不倫によって生まれた子だって知ったのよ。

それからだったわね。

あなたが絵を描いているときだけ、優しくされる。

描き終えると豹変する。

そう、あなたを都合のいいゴーストライターとしておきながら…

その裏で構造の中に、あなたの本当の父の才能に対する嫉妬と怒りが全部ある。

それがあなたに向く。殴られ、蹴られ、縄で叩かれる。

だからあなたは痛みを私に預けた。

私は傷だらけになった。吐いた。血が出た。

でもあなたは、痛くない。

悟は呼吸を忘れ、ただページを見つめた。

あなたが生きるほど、私は死んでいく。

苦しみは続く。

だから──私のために死んで。

私は自分で死ねないから。

耐えるためだけに生まれたから。

次をめくらずにはいられなかった。

《かおる》

> 本当にごめんなさい。本当に ごめんなさい

私も身体中が傷だらけなこと、知っていました。

でも痛みを感じなかった。

全部あなたに預けていたから。

もう少しだけ待って。

今描いている絵と演劇が終わったら──

あなたの言う通りにします。

---

《かすみ》

> 世紀末学園の謎──それが終われば、私は解放される。

遺書に、ウロタサチコの苛めと書いておく。

パソコンで。

これで二人の関係も出ない。

あなたのイメージは守ってあげる。

---

《かおる》

> ありがとう。

本当にごめんなさい。

苦しかった日々を許してください。

---

悟は声を押し殺した。

涙がボロボロ落ちた。

「……気付けなくて、ごめん。

かおる……ごめん、ごめん、ごめん……」

日記を閉じる。

その音だけが、部屋に落ちた。

吉川刑事は、静かに言った。

「多重人格……ひどい虐待の末、自我を守れず、別の人格がそれを受け止めることがある。

普通は、互いを認識することはない。

だけど──この日記が、二人を繋げてしまった。」

悟は震える声で言った。

「……許せません。あの構造を。

人格を壊すほどの虐待なんて……人間じゃありません。

一生償ってほしい。」

吉川は、はっきり答えた。

「必ず。君の気持ちも、僕が背負う。」

悟は涙を拭った。

そして、小さく頷いた。

次の瞬間、ポケットの中で携帯が震えた。

美奈代からだ。

悟は短く返す。

「今見てた。明日話そう」

電話を切り、息を吐いた。

「美奈代には──日記は証拠品で見せられない、そう伝えておきます」

「うん……それがいい。頼んだよ」

悟は立ち上がり、署をあとにした。

背中が、妙に重かった。

翌朝。

「おはよう」

「おはよう」

いつもと変わらない挨拶を交わした瞬間、悟は頭をかきながらぽつりとこぼした。

「昨日は、ごめんな。咄嗟に嘘ついちゃった」

美奈代はふっと笑う。

「分かってたよ。吉川刑事のところでしょ」

「えっ、なんで分かったの?」

「何年幼なじみやってると思ってるの。それくらい分かるわよ」

そう言いながら、彼女の胸には小さな安堵が広がっていた。――自分の予想は半々だった。

美奈代はまだ、悟が自分に内緒でシナリオを書いていたことを引きずっている。だから余

計に、悟を信じたかった。

「結局、あの事件は構造が嫉妬で二人を殺害し、絵を描かせて利用しておきながら、虐待ま

でしてた。しかもそれをウロタサチコのせいにするなんて……最低だね」

言葉の最後が震えた瞬間、彼女は突然泣き出した。

「かおる……可哀想。誰にも言えずに……」

美奈代は道端で膝を折り、大粒の涙をこぼした。

通勤途中の会社員、学生、通りすぎる人々。みんな振り返って二人を見る。

――いい。見たきゃ見ろ。

悟は思った。

こんな場所でも泣き崩れる彼女の気持ちのほうが、よほど大切だ。

公園の横にさしかかったとき、悟は声をかけた。

「今日は二人で遅刻しよう。公園でゆっくりしようぜ」

しかし美奈代は涙をぬぐい、小さく首を振った。

「遅刻はだめだよ」

全く、真面目なやつだ。悟は苦笑しかけた、その時――

「押収された日記、見たんでしょ? ニュースで知ってるんだから。もちろん内容も、知っ

てるわよね?」

さっきまで泣いていたとは思えない、細められた鋭い目。情緒どうなってんだ、と悟は心

で毒づいた。

「……見たんでしょ!」

圧に押され、肩が跳ねた。

「う、うん」

「で? 何て書いてあったの?」

どこにそんな切り替えスイッチがあるのか。蛇のような執念を感じた悟は、観念した。

――あの部分以外は話そう。できるだけ、平静に。

「確認したかったのは、日記にもウロタサチコの名前が書いてあったんだ。だから、本当に

僕なのか裏取りされた。もちろん説明した通り、僕で間違いない」

美奈代は黙って聞いている。悟は続けた。

「それと、かおるのことをどこまで知っているか全部話した。構造とかおるが似てないって

思ってるか、もう一度確認された。向こうも構造が君枝さんと元執事を殺害したと疑ってた

けど、証拠がなかった。でも、DNA 鑑定で構造は本当の父親じゃなくて、元執事が本当の

父親だって分かったって」

すべて話し終えたとき、妙な沈黙が流れた。

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