だって、仕事のことを相談してくれるって…
「んー。キョウの棚は相変わらず難しそう…」
祝日の火曜日。
三男の創は「今日は本を読むぞ」と久しぶりに読書時間にどっぷり浸かろうと本を選んでいた。
しかし、自分の本棚には新しく買った本がなく、ほとんどは読み終えていて、新鮮味がない。今までに読んだことのある本を読みたい気分でもなく、何か新しい風を感じたい。
そう考えた創は、兄たちも弟もいないリビングで本を選んでいた。
が、惹かれる本が見つからない。
「どうしようかな? 今日は本の気分だしな…」
棚の前で悩んでいると、ふと部屋の一角に積まれた山が目に入った。
「あ、シュウが買ったばかりの山に何かあるかな? 」
創は、本の山を崩してしまわないように、上から下に顔を覗き込みように一冊ずつタイトルを見ていく。
「この本読んでみたいかも」
下の方に積まれている本で、気になるタイトルのものを見つけた。
ここに積まれている本は柊に聞けば借りられる。
「シュウに借りてもいいか聞いてみよっと。部屋にいるかな? 」
リビングを出て一階の廊下を進んでいくと、柊の部屋からバサバサと何かが倒れる音がした。
「シュウ、どうしたの?! 」
慌ててドアを開けると、また何かが崩れる音がした。
「創にぃ、大丈夫? 」
「シュウこそ大丈…ってなにしてるの?」
部屋のドアを開けると、床一面に積まれた本とその中にいる柊。その奥には空っぽの本棚が目に入った。
「本棚の整理してたらこんな有様に…」
柊はへへへと笑っている。
「リビングにも積まれてたけど、こっちもなかなかすごいね」
創は足元に気をつけながら、部屋の中を見回す。
柊はスマホを操作しながら本を仕分けていく。
「気になる本を買ってたらこんなことになってしまって。創にぃは何か用事だった? 」
柊は手元の本を傍に積むと、創を見た。
「ん? あ、そうそう。今日は本読んで過ごそうと思ったんだけど、シュウの買ったばっかの山の中に気になるのがあって、それ借りたいなって」
「そうだったんだ。上の方の? 」
「いや、下の方…」
創の言葉に柊は困ったように笑って、黙ってしまう。
「あの山崩さないように本抜け…ないよね」
「そうなんだよね。だからシュウに確認をと思って来たんだけど…」
と部屋の中を見回すが、柊は本の山に囲まれて、今すぐこの部屋を出るのは難しそうだ。
「後でで良ければ部屋に持っていくけど…」
柊はそう言って立ち上がり、足の踏み場を作ろうと試みる。
しかし、本が多すぎためちっとも進まない。
「シュウ、予定変更する」
「ごめん。創にぃ…」
「予定変更! シュウの部屋にある本チェックして読みたい本予約する! 」
創の言葉に柊はポカンと口を開けたが、だんだんと気持ちが込み上げてきて最後には笑い出した。
創はそんな柊の様子を見て頬をかいている。
「もうっ! シュウ笑いすぎ! 」
「ごめん、ごめん。でもいいの? 創にぃ本読む気分だったんじゃないの? 」
「うん。俺も片付けは苦手だけど、シュウがこれ全部一人でやったら今日中に終わらないでしょ? 手伝いも兼ねて宝探しさせてよ」
「わかった。ありがと、創にぃ」
創は柊の部屋に入ると、本を積み重ねて抱える。
「とりあえず、読み込む本を渡していくからシュウは読み込んでいって」
「わかった」
「棚に並べる順番は何か決めてるの?」
「文庫と単行本とその他の大きさで作者を五十音順にしようかなって」
「なんか難しそうだけど、手伝うよ」
「ありがと。じゃあ、創にぃは足の踏み場作って、俺に本渡していってください」
「はーい! 」
創は本を抱えては横に積んでいき、先ずは足の踏む場を作る。
柊は読み込み終わったものを本棚に並べていく。
「シュウ、どの辺りまで読み込んであるの? 」
「んーと、多分この本まで」
と、柊の周りにあった本を指さす。
「じゃあ、これを読み込んでみてから新しい本渡していくね」
「うん。お願いします」
柊は棚に本を並べ始めると、手早く本のジャンルを分け作者順にしていく。
「シュウ、この本ジャンル分けってどうしてるの? 」
「ん? どれ? 」
創が見せた本を柊が見ると、「あぁ、これね」と受け取ると、後ろのバーコードを読み込んでから一冊だけ別に置いた。
「並べないの? 」
「あれは読み終わったコーナーでまたジャンル分けするよ」
「シュウ、読み終わった本全部覚えてるの!? 」
「全部ではないと思うけど覚えてるよ。タイトルはうろ覚えでも表紙とか見ればわかるし、内容もなんとなく覚えてるし。まぁ、自分の手元にある本だけだけどね」
柊はそういうと、スマホが動くスピードで本を読み込んで棚に並べていく。
「なんかすごいなぁ…」
「そう? 」
柊は棚と向き合ったまま話しをする。
「だって、この部屋だけでも足の踏み場がないくらいあって、リビングにも山と貸本コーナーにあってさ。シュウの頭の中本で埋め尽くされそうなのに、小説も書いてるし…」
「本はいい感じに忘れてることもあるから、『これどんな話しだっけ? 』とかもあるし、二重買いもしちゃう時あるし」
「それでも、この整理の時間が防いでる時間でもあるんでしょ? 」
柊は「それもそうだね」と言ってから、何か悩み始めた。
創はそれに気づかずに手を動かす。
「今日もさ、俺『何かいい解決案ないかな? 』って自分の棚見たんだけど、ビジネス書っていうの? そういうの全くなくって」
柊は振り向き、創の背中を見る。
「創にぃは記憶力を鍛えたいの? 」
「え、そうなの? 」
柊の質問に、創も首を傾げてしまう。
「創にぃは、何か困ってるの? 」
創は手を止めて考え始めた。
「困ってる…というか、最近仕事であんまり上手くいってなくって」
「うん」
「誰かと揉めたとかはないんだけど、最近仕事で伸び悩むというか? 任せられる仕事は増えてるけど、それを全て管理しきれなくて。スケジュールとかタスクは大丈夫なんだけど、だんだんパンクしかけてるというか…」
創は「何て言えばいいかな…」と迷い始めた。
「創にぃは普段仕事の管理とかってデジタル? 」
「うん。ペン持つのは電話の留守を預かるくらい」
「タスク管理とかは? 」
「全部パソコンとスマホ」
「アイディア出したりはしないの? 」
「アイディアは…あんまり出せてないかな…」
柊はそっかと言ってから、辺りの本の山の中を積み重ねては避けと動き始めた。
「シュウ、何か探し物? 」
「うん。多分役に立つ本を買ったんだけど…。あ、あった」
柊は見つけた本を創に手渡した。
「俺が大学に入った頃買ったやつだったと思う。すぐに読み終わるから、これ読んでどうしたいか決まったらまた声かけて。それまでに続きで貸せそうなの山から掘り起こすから」
柊はそう言って笑った。
「ありがとね。柊」
「いいえー。俺は嬉しかったよ」
柊は鼻歌を歌いながら本棚整理に戻る。
創は「嬉しい?」と呟いてから借りた本を空いたスペースに置き、手を動かす。
「とりあえず、手伝いが終わったら読んでみるね」
「うん。感想も待ってるね」
創は柊の言葉に、「感想ね…。お手柔らかに」と言ってから柊に渡す本を抱えた。