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イルミネーションとココアを

「雅にぃ、お願い!」

「昨日まで熱あったんだから、ダメ」

「帰ってきたら大人しくしてるから」

「ボクは意地悪を言ってるんじゃなくて…」

「わかってるもん!でも、そろそろ外に出たい!」

 毎年、冬になると風邪を引く柊が、昼過ぎに起きてきて雅人とお願いの攻防をしているのを見て、今日は元気なんだなと呑気に考えていると、

「じゃあ、京一兄さんがいいよって言ったら連れて行ってもらいな」

と、二人の間で落しどころが見つかったようだ。

 京一は本を読むふりをして、二人の様子を見守っていたので、キッチンからやってくる柊の気配に本に向き合った。

「京にぃ、あの…」

「どうしたんだ?」

「本屋さんに連れて行ってもらえませんか?」

「そうだな…」

 柊の言葉に考えるふりをしながら視線だけキッチンに移すと、雅人が『ごめん』と音を出さずに唇を動かす。

「連れて行くのはいいが、約束を二つしてもいいか?」

「うん!もちろん!」

 柊は京一の出した約束の内容に頷いてから、『早く行こっ!』とリビングを飛び出していった。



「じゃあ行ってくる」

「うん。柊、調子悪くなったら絶対我慢しないで京一兄さんに言うんだよ」

「はーい」

 身支度をして、出かけられる服に着替えた柊と、上着を着て財布などが入ったカバンとは別に、トートバックを持った京一を雅人は玄関で見送る。もちろん、柊には言葉をかけるのを忘れない。

「京一兄さん」

「あぁ。ちゃんと見とくから」

「行ってらっしゃい」

 柊の前では心配している雰囲気を出したくないのか、柊が先に外に出たタイミングで雅人は京一に声をかける。京一はそれに頷いてから玄関のドアを開けた。

「柊、予算は一万円だからな」

「はーい」

「エアコン効きだすまで少し待ってな」

「うん」

車を走らせ始めると、柊は鼻歌を歌いながらスマホを繋いで流す音楽を選ぶ。

京一は今なら聞けるかと話しかける。

「柊、なんで今日だったんだ?」

「ん?何が?」

「本屋に行きたいって。今日特に新刊出る日でもないだろ」

「そうだね」

「雅人も言ってたけど、昨日まで熱出てただろ」

「うん…」

 京一は信号で止まったタイミングで柊を見ると、まっすぐ前を見ていた柊は、

実は、言葉をつなげた。

「今月は特にチェックしてる新刊はなくて。雅にぃを休ませたかったのと、年明ける前にイルミネーションが見たくて」

「イルミネーション?」

「そう」

 と話しをしながら車を走らせていると道の端に明るい光が見えてきた。

「クリスマスまで、期間限定でやってるイルミネーションが見たかったんだ。今年の冬は風邪とかでそんな余裕なかったから」

「なるほどな」

本屋の入っているモールまでの道にも何箇所か明るい光が輝いていて、見ているだけで楽しくなってくる。

「だから雅人折れなかったのか」

 イルミネーションは外で楽しむもの。今日は熱が出ていないとはいえ、寒空の中、一人で出かけさせることもできない。

 それに、柊も言っていたがここ数日雅人は柊の看病や家のこと、普段の在宅ワークとこなしていた。京一は学期末の試験前でバタバタしており、創も年末の仕事と忙しくしていたため手伝えることが少なく、負担をかけていた。だから、今日は柊のことを京一、家のことを創が変わろうと話しをしていた。

「イルミネーション見るのは五分だけだからな」

「いいの!?」

「五分経ったら、店の中に入るのと、本選ぶ前にカフェコーナーでココア飲むんならイルミネーション見るのいいぞ」

 柊にはホッカイロを貼らせたとはいえ、外は冷える。本当はイルミネーションはダメだと言いたいが、ところどころにあるイルミネーションに目を輝かせている柊にダメとは言えない。

 雅人には一緒に怒られるかと考えながら、書店の入っているモールの駐車場へとハンドルを切った。



「ただいま」

「寒かった〜」

 本を見て、家に帰ると柊はお風呂に入れと創に連れて行かれた。

雅人は、苦笑いをしていたが、出かける前よりはいくらか顔色がいいので、気分転換が出来たようだ。京一は雅人の代わりに夕飯作りと。食べられるように準備も整え始める。

「柊、お風呂入ってるよ〜」

「ありがとう。創」

 味見を雅人に頼んでいると、創が柊の荷物を持ってやってきた。

「キョウ、柊に甘くない?」

「なんの話しだ?」

「これ」

 創が手に持っていたのはレシートで、カフェで柊に買ったココアの金額などが書かれている。

 雅人はにこりと笑っているが、目は笑っていない。

「言い訳は…しないから後で柊に熱測らせてくれ」

「わかった」

「京一兄さんは後でボクの部屋に来てね」

「はい」

 創がさっきリビングの窓のカーテンを少し開けたら、暗い中に少しだけ白いものが舞っていたと言ってから、

「冬だね」

と少しも目が笑っていない雅人と、顔が引き攣っている京一に笑いかけた。

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