言いなり王子は途方に暮れる
王子視点がいきなり浮かんだ。
リヒャルドは困っていた。
「ねえ、カリス」
メリーアンが選んでくれた家具にメリーアンの用意してくれたおすすめの紅茶。メリーアンの最近お気に入りのお茶菓子をのせて、メリーアンが注文してくれたソファに腰を下ろして、ご満悦な状態で従兄のカリスを呼び出す。
いとこの座るソファの後ろにはいとこが見つけた従者見習いの少年が控えている。
「メリーアンの誕生日がもう直なんだけど、何をあげればいいのかな?」
大切な愛するメリーアンに喜んでもらいたい。本人に聞くのが一番だと理解しているがそれだと物足りない。
「メリーアンを驚かせて心の底から喜んでもらいたいんだ。何かいい方法ないかな」
メリーアンに内緒でメリーアンのための物。嬉しそうに受け取る様を思い浮かべるとワクワクする。
「…………それ去年も言ってたよな。リヒ」
カリスが思い出すのも億劫だとばかりに告げてくるが、そんな記憶はない。
「いや、思い出せ」
「昨年……確か、この時期殿下は国内を見周りに行っていたと思うけど……」
カリスの後ろに控えている従者見習いが呟く。
「それであってるぞ。ノヴァ」
国内を見周り……。
「ああ。昨年は確か、女性に物を贈るのなら宝石など貴金属がいいと聞いたから鉱脈に行って宝石の原石を……」
「鉱夫に混ざって、鶴嘴を持って掘っていたと知らされた責任者が遺書を書いていたのを知って、メリーアン嬢が慌てて止めに来ただろうが!!」
「ああ。そうだった。やっぱり渡すのなら一から用意したいと思ったんだ」
「マーゴック家の間違った方向に全力で舵取り……」
従者見習いが震えあがっている。
「ちなみに一昨年は」
「……それは覚えているよ。メリーアンが食べてみたいと言っていた料理を作るために料理人に作り方を教わって、材料を狩りに行ったからね」
「お前が失踪したと騒ぎになってメリーアン嬢が心労で倒れたからな」
あの時のことは反省している。メリーアンが倒れるほど思い詰めていたのだから、それ以降どこに行くのもきちんと伝えるようにした。
「他には……メリーアンが花が好きだと聞いたので花屋を買い占めようとして自分が使える資金で買い占めは無理だったので諦めた。民の血税を無駄に出来なかったし」
「買い占め……いや、普通に出来そうだけど……」
「国中の花屋を買うには資金が乏しくて……」
「やれなくてよかったな」
ほっとしたように言われた。
「では、自分がもらって嬉しいものを差し上げたら? 殿下の欲しいものもあるでしょう?」
従者見習いの言葉を聞いて、
「メリーアンの着なくなった服、かな。メリーアンのぬくもりが残っていそうだし、メリーアンの成長がうかがえる」
「却下だ!!」
酷いなカリス。本心なのに。
「もう、メリーアン嬢に聞け」
「だから驚かせたいから」
「知るか!!」
怒鳴られてしまった。
「なら、メリーアンの肖像画」
新しいのが欲しい。憂いている表情か真剣に悩んでいる顔の絵はまだ持っていないから。
「では、殿下の肖像画を贈ったらどうでしょう」
メリーアンに自分の肖像画。
「いや、メリーアンの部屋は僕ですら数回しか入ったことないのにたかが肖像画の分際で四六時中一緒でメリーアンの素の表情も寝顔も寝巻や着替える様も一緒など許せないな」
「そのやばい思考やめろっ!!」
本心なのに止められてしまった。
「おかしいことなのか」
「少しは自覚してくれ……頭痛が痛む」
「言葉がおかしいよ。その場合頭が痛むか頭痛がするというべきだと思うけど」
貴族令息なのだから言葉は正しく使いなよと注意する。
「お前もな……」
何かおかしいことでも言っただろうか。
「あの……殿下は卒業したらどうするのですか?」
従者見習いの言葉に少し考えて、
「直轄地の管理をするだろうね。継承権は放棄したら多分直轄地を貰って貴族籍になるだろうし」
「ならっ、こんなのはどうでしょう!!」
必死に叫ばれて、提案された内容は確かにメリーアンが喜びそうだと思ったのだった。
「お誕生日おめでとうメリーアン」
両手に溢れるほどの花束を抱えて差し出す。
「ありがとうございますリヒャルドさま」
メリーアンはすぐにメイド数人に渡して、花瓶に入れるように指示している。
「早速なんだけど、メリーアン」
誕生日プレゼントをそっと机に広げる。
「父上からもらえる予定の場所に建てる屋敷をメリーアンと一緒に考えたくて、書類を持ってきたよ」
『新居を一緒に考えるというのは特別な贈り物になると思います』
ありがとうカリスの従者。メリーアンが嬉しそうに考えているよ。
心の中でお礼を言いながら真剣な眼差しのメリーアンを堪能するのであった。
カリスくんとノヴァ君に。
つ胃薬