喪之六 魔法喪女は副業で鍛える
「テルコさん。次の仕事持ってきましたよ。きっとスキルアップできます」
「……大丈夫なのよね。それ、引き受けても大丈夫なやつよね」
同居人のジョン=スミスと一緒に自宅のテーブルでくつろぐ私は、
高天テルコ 31歳 魔法喪女
東京中心部で怨嗟を吐いた後、非常階段を駆け下りて、待っていた自動運転のバンに乗車。現場から脱出した。
帰宅したらジョン=スミスが先に帰っていて、2人で【社会正義】の成功を祝ってケーキを食べた。
あれから1カ月。
現場はかなりひどい状況だったけど、全く報道されない。
だから、地球外生命体に見せられた悪夢だったと思いたい。
「ぬははははは。ボクの仕事が危なかったことありますか?」
「うーん。確かに、ないかな」
相変わらずHMDを外さないジョン=スミスが、おもむろにリビングのテレビを点けた。
画面に何かの資料が表示される。
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・国内ニュース:社会福祉法人の理事長が職員に刺され死亡
複数の施設を運営する社会福祉法人の理事長が、法人が運営する児童養護施設にて鋭利な刃物のようなもので刺され死亡しました。
警察は通報してきた施設の職員が犯行を認めた事より緊急逮捕。理事長交代後の労働条件に関する不満が動機と見て事情を聴いています。
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「えっ? 何この胸糞悪いニュース。仕事と関係あるの?」
「関係ありませんが、これが【社会正義】です」
関係ないのかよ。そして【社会正義】ってなんだよ。労働条件不満なら辞めればいいじゃん。辞めたくないなら労基に行こうよ。
「頼みたい仕事はこっちです。在宅勤務ですよ」
テレビの画面が切り替わる。
あのHMDと連携しているのか、便利な機能だ。
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ゴルァァァァァァ!
「何でこの仕事! 確かに前職で動画作ったことあるけど!」
「……3日前に、テルコさんに、【太った?】と言われまして……」
「えっ?」
やたらとスイーツ食べてて気になったからつい言ってしまったけど。気にしてたのか。
「それに、この仕事をしていれば、より強力な【怨嗟】が吐けるようになれます」
あぁ、それでスキルアップね。
いいよ。引き受けるよ。得意分野だし。
●オマケ解説●
東京都の中心部で地面が黄緑色に覆われる程の塩素ガスを出したらタダで済むはずはない。でも、何らかの理由で【報道しない自由】が発動している模様。
まぁ、よくある事です。
多才なテルコさんは動画編集もわりと得意。
前職では教育用やデモ用の動画を頼まれてはサクサク作ってた。
便利なテルコさんに辞められて、前職の職場はちょっと困ってるとか。
同棲しながらも素顔を見せないジョン=スミスは、太ったことを気にしていた模様。
仕事の選定はその仕返しなのかどうなのか。
ひどい。ひどい。