喪之五 魔法喪女は怨嗟を吐く
「作戦終了後はさっきのバンに乗車してください。自動運転で帰宅できます」
「それは分かったけど、ここの仕事って何なの? 掃除じゃないよね」
ジョン=スミスにスカウトされて、初仕事として東京の中心部にあるラブホテルの屋上機械室に清掃員の姿で忍び込んでいる私は、
高天テルコ 31歳 魔法喪女
ジョン=スミスが用意した自動運転のバンで2時間半かけてここに来た。話によると帰路は別々らしい。
仕事内容の詳細は未だに聞いてないけど、対面でスカウトして仕事に同行しているということは【闇バイト】の類ではないはず。そこは安心できる。
「作戦開始時刻が近いのでボクは降りて配置に付きます。テルコさんはここで待機してください」
「えー、そろそろ仕事内容知りたいんだけど……」
「今回の仕事は【社会正義】です。独身女性の人生を弄ぶ不倫男や、遊びと金目的で若い女を何度も乗り換えるヒモ男を一網打尽で懲らしめます」
「そういうのは、民事裁判で裁けばいいんじゃないの?」
「テルコさん甘いです。ああいうクズは【慰謝料】踏み倒して繰り返すんです。ユウタさんみたいなのを放置して、他の若い子が同じ目に遭ったらどうします?」
「それは確かによくないわね。【社会正義】がんばるわ」
ユウタの件。私はもう大人の心で割り切ったけど、次の被害は防がないと。
「では、ボクは行きます。後で電話します」
「了解」
「テルコさん。お元気で」
ガチャ
…………
トゥルルルルルル トゥルルルルルル
ジョン=スミスと別れて屋上機械室で待つこと15分。スマホに着信。
『テルコさん。作戦開始です』
「えっ?」
仕事に使命感を感じてはいるけど、本当に何すればいいか聞いてない。
『ボク思ったんですけど、ユウタさんと2年同棲して普通に【未経験】ってことは、最初から女と思われてなかったってことですよね』
ゴルァァァァァァァァァァ!
薄々感づいていたけど、考えたくなかったことを言われて怨嗟が沸き上がる。
そして、国立工業大学工業化学専攻修士課程卒の知識が仕事の答えを見出した。
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【塩素】
原子番号:17
質量数:35.45
性質:単体の塩素ガスは黄緑色で空気より重い。強い毒性を持ち危険。
※Wikipedia参照
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「喪魔法奥義! 【喪女の漂白吐息】!」
ゴバァァァァァァァァァ
怨嗟の想いを塩素に変えて、口から噴射。
溢れた大量の塩素ガスが屋上から建屋を満たし、ビルの隙間の地面まで黄緑色のガスで覆い尽くす。
こんなに派手にやらかしてなんで自分が平気なのか分からない。
あまりに意味不明すぎる状況で、半ばヤケクソで決め台詞を思いついた。
「漂白で済めばいいけどね」 キリッ
●オマケ解説●
塩素ガスは化学兵器として使用されたこともあるほどの毒ガス。
空気よりも2倍以上重いので、散布すると地を這うように広がりなにもかもを漂白していく。
ただし、風向き次第で逆流してくるので、兵器としての使い勝手は悪い。
そして当然だけど、そんな物を街中にぶちまけたら漂白じゃ済まない。
どうなることやら。
ひどい。ひどい。