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喪之四 失業喪女は求職する

「テルコさん。再就職しなくていいんですか?」

「いいのよ。退職金も入って当面は生活できる貯金はあるし」


 新卒から6年半務めた会社を【退職代行サービス】で辞めてから1カ月。ジョン=スミスを名乗るHMDヘッドマウントディスプレイの青年となし崩し的に同居している私は


 高天たかまテルコ 31歳 失業喪女フリー・ヴァージン


「無職女性は【婚活】にも不利ですよ」


 ジョン=スミスは何かと私に再就職を促してくる。

 だけど、私だって学習したのだ。


「場当たり的に求職して安く働くよりも、今はスキルが欲しいのよ。それより、家賃光熱費半額ちゃんと出しなさいよ」


 離職したとたんに同棲相手に逃げられた反省点を活かし、今回は生活費折半を徹底だ。

 そのために机に向かって同居開始以来の家計簿をまとめている。


「老後までに貯蓄二千万円必要とか言われてるから、少しは焦ってもいいのでは?」

「あんなのデタラメに決まってるでしょ。全世帯がそんだけ貯蓄したら日本円が市場から消えて経済が凍るわ」


 口座引き落としの分は集計できたから、次はクレジットカードの明細を確認。


「容姿も普通な堅実で聡明なテルコさんがなぜモテないのか。やはり貧乳が」


「ゴルァァァァァァァァァァァァァ!」 ガターン

「わぁぁぁぁ! ゴメンナサイ!」


「なんでクレカの請求が100万なんじゃぁぁぁぁ!」


 携帯電話代ぐらいしか使っていないはずなのに、身に覚えがない多数の請求で限度額いっぱい。


「ユウタか! あの野郎! ドロンする時に持ち逃げして使い込みやがったな!」


 ゴゴゴゴゴゴ


「テルコさんすごい怨嗟です! 今こそ【喪力もりょく】を開放するんです!」


 怒りに燃える私をジョン=スミスが意味不明に煽る。

 なんだかよく分からないものが沸き上がってきたので、怒りに任せて思いつくままに開放。


「萌え上げれ怨嗟! 【リマインズ(余り者)☆メイクアーップ!】」


 ドカーン


…………


 変なコスチュームに変身するとかそんなヘンテコな現象は起きなかったけど、何故か吹き荒れた爆風で部屋が散らかってしまった。


「おめでとうございます! テルコさんは【魔法喪女(マジカル・ヴァージン)】に覚醒しました」

「は、はぁ、そりゃどうも……」


 これは、スキルアップってことでいいのかな。


「……そろそろ求職してもらえないでしょうか」

「えっ? なんでそうなるの?」


「僕は【魔法喪女(マジカル・ヴァージン)】をスカウトするために来たんですが、求職してもらえないとスカウトできないじゃないですか……」


 私をやたらと働かせようとしてたのはそのためか。

 わかったわよ。スカウト受けるわよ。


 【魔法喪女(マジカル・ヴァージン)】として。

●オマケ解説●

 日本の世帯数はおよそ5000万世帯。

 それが全部2000万円貯蓄したら1000兆円。

 対して、日本円の発行総量(マネタリーベース)はおよそ650兆円。


 老後不安に怯えて貯蓄に勤しむアホが増えると、日本円の流通が滞って景気が冷える。やむなく通貨の発行量を増やしたら当然インフレに。今の物価上昇の原因か?


 頭の回転が速く算数も得意なテルコさんは、老後二千万問題が危険なデタラメだと瞬時に見抜いた。


 優秀なテルコさんは、女性総合職として入社した時の研修で、バリキャリしている先輩女性社員から、貯蓄よりも自分への投資が大切と教わった。

 その教えを律儀に守り、激務の傍らスキルアップを心がけいろんな職能を身に着けた。


 でも、その教え自体が【職場のやみ】の【再生産】だった事は見抜けなかった。

 アラフォーになった先代の【職場のやみ】は、未だに職場で孤独と戦っています。


 ひどい。ひどい。

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