喪之三 孤独喪女は仕切りなおす
「テルコさん。……なんなんですかこの手紙」
「同棲相手に捨てられたのよ。バンドマンになりたいって言うから生活費援助してたのに、私が離職したって伝えた途端にドロンよ」
怒りに任せてカフェで暴れてしまい、当然の如く追い出された。仕方ないから、ジョン=スミスを名乗るHMD装着の失礼な青年を連れて帰宅した私は、
高天テルコ 31歳 孤独喪女@反省中
【喪女】が失礼だからって、普段の私なら暴れたりしない。あの時は虫の居所が悪かった。ちょっと反省してる。
ジョン=スミスがユウタの置手紙をテーブルに戻して、深いため息。
「何やってるんですかテルコさん。それ明らかにダメなパターンでしょ」
「恥ずかしながら、ドロンされて気付いて冷めたわ」
「それに、同棲相手いたなら【喪女】って訳でもなかったんですね」
「もうそこは【喪女】でいいわよ」
「言われると怒るくせに、自称は抵抗無いんですね」
「男の【ハ●】だって似たようなもんでしょ」
人に言われたら怒るくせに、それをネタに芸とかする中年オヤジがたまに居る。反応に困るからやめてほしい。
お茶を飲みたくなったので、二人分淹れてリビングのテーブルに対面で座り話の続き。
「どうして離職したんです?」
「実質私がリーダーで進めてた社内プロジェクトから社長の独断で外されたのよ。【女】だからって理由で」
「それは、どんなプロジェクトだったんです?」
「フィリピンの営業所立ち上げ。私がマニラで1人で現地駐在員になる予定だったのに」
ブーッ ゲホッ
ジョン=スミスが鼻からお茶を噴いてむせた。
「テルコさん本当に一人で行く気だったんですか! そこがどんな所か知ってます?」
「知ってるわよ。タガログ語も勉強したし、現地料理のハロハロも楽しみにしてたのに……」
「そうじゃない! 外人女性が安全に一人暮らしできる国じゃないんですよ!」
「はぁ~。現地男性とのステキな出会いとかも楽しみだったのになぁ。私のドコがいけなかったんだろう」
駐在員は私じゃなくて、3年下の男の後輩が行くとか。
結局出世は男が先なんだ。
「そういう危なっかしい所ですよ。社長グッジョブです」
冷静に考えるとそんな気もする。今思えばいい会社だったのかも。
でも、【退職代行サービス】で辞めたんだからもう戻れないよね。
「再就職……。は、しばらくいいかー。多少貯金もあるし」
「【自分探し】ですか?」
ずっと前だけ見てひたむきに生きてきた。
そのせいで、視野が狭かったからこんなことになったのかも。
ちょっと時間はできた。いったん止まって、見聞を広めてみよう。
【喪女】人生、仕切り直しだ。
●オマケ解説●
日本人の感覚から見れば、フィリピンは治安が悪い国と言えます。
女だから行けない、男なら行けるというわけではありませんが、たまに危なっかしいテルコさんは明らかに不適格。
社長グッジョブです。
そして、いろいろ失ってしまった31歳の誕生日。
だけど、未練を感じる程の価値は無かったのかどうなのか。
テルコさんはポジティブに人生を仕切り直すようです。