喪之二 依存喪女は捨てられる
「ただいまー。ユウター。ちょっと話があるのー……ってあれ?」
新卒から務めた会社を飛び出して【退職代行サービス】で最悪な辞め方をしてやった。そして、同棲相手が待っているはずの借家に帰ってきた私は、
高天テルコ 31歳 さっき無職になった独女
ユウタは夢を追いかけて田舎から飛び出してきた若者。ひよんなことで意気投合して、私は生活費を出して同棲する形で彼の夢を応援していたのだ
いつもなら私が帰る時間にはご飯を作って待ってくれているはずなのに、今日は居ない。
部屋も何となく散らかっている。
玄関から入ってリビングに。そして電気を点ける。
テーブルの上に置手紙があった。
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拝啓、高天テルコ様。
挨拶もできずに突然の別れとなることをお許しください。田舎に住む父が高血圧を発症したため、親孝行のために夢を諦めて帰郷する事となりました。
無職になったテルコさんがイイ出会いに恵まれることを祈っています。
野原ユウタ
敬具
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ゴルァァァァァァァァァ!
ゴルァァァァァァァァァァァ!
ゴルァァァァァァァァァァァァァ!
…………
どのぐらいの間、リビングで吠えていただろう。
冷めた。
いろいろ冷めた。
進路選択の時、女が大学行くのは無駄だと母に言われて大喧嘩。
学費は自分で何とかすると豪語して、猛勉強して学業特待生として国立大学に入学。首席で卒業して推薦で大学院まで行って、修士号まで取った。
でも、母からは認めてもらえなかった。だから、仕事で大きな成果を上げようと、リーダーとしてプロジェクトを率いた。
なのに、終盤であっさり後輩の男に取られた。
ユウタを応援していたのは、夢を追いかける姿が昔の私が重なったから。
だけど、離職を告げたらあっさり逃げられた。
何も考えたくない。カフェで甘いモノを食べながらゆったりと癒されたい。
…………
何も考えず近所の行きつけのカフェに来た。
カウンターでブラックコーヒーとシナモンケーキを買って、窓際のスクエアテーブルに落ち着き放心。
「…………」
30歳になってから、地元の母が頻繁に電話してくる。
さっさと仕事を辞めて結婚しろと。
男に選ばれるような女になれと。
仕事辞めたよ。そしたら男に逃げられたよ。
結局、仕事にも、男にも。
「選ばれないから……」
なんとなくつぶやいたら、正面に人の気配。
「アナタ、【喪女】ですね」
「はい?」
全身の血液が沸騰するような激情を感じた。
●オマケ解説●
テルコさんは優秀な努力家。実力で国立大学の特待生を勝ち取るぐらいに。
しかも【女性枠】じゃなくてガチで。
仕事においても器用さと多才ぶりを発揮。教わったいろんな知識や技術を駆使して数多の問題を解決。頼られる存在となり社内の考課では上位をキープ。総合職の同期入社の中では出世頭として有名に。
そして、女性ながらも30代前半にして年収は600万円に到達した。
これが【職場の闇】の完成である。
共働きが推奨されるこの時代。稼ぐ女はモテそうなものだが、専業主婦を敬遠する癖に自分より稼ぐ女は敬遠するのが男の身勝手。
高すぎる収入は家族を養う気概があるマトモな男を遠ざける。代わりにどうしようもない男ばかりを引き寄せる。
がんばれテルコさん。
崖っぷちなのは年齢だけじゃないんだ。
ひどい。ひどい。