喪之十三 宇宙喪女は軌道上で酒を嗜む
「こんなに美味しいお酒があるなんて、知らなかった……」
合コン会場の屋根をぶち破って秋の夜空に飛び出し、溢れ出す涙の力で重力を振り切って高度200kmの衛星軌道上に到達。青い地球を見下ろしながら心を落ち着けて一人酒を飲む私は、
高天テルコ 31歳 宇宙喪女
一升瓶を抱えてちょっとオシャレした普段着で宇宙空間を漂っている。なんでこの格好で無事なのかはもう気にしない。そして、合コンでの惨事も割り切った。後日ちゃんと謝ろう。
軌道上でもうすぐ地球を1周。
インドと中国を飛び越えて日本列島が見えてきた。絶景だ。
一升瓶の【純米大吟醸】。コップが無いから軌道上でちびちびラッパ飲み。
フルーティな香りが口の中に広がり、脳内がアルコールで溶かされる快感。
眼下に見えるのは、都市の明かりが密集する、小さな島国。日本。
大きな国々に囲まれて、簡単に消せてしまいそうな…………。
「……あれ? まさか、ちょっとヤバイ!」
日本の狭さを目の当たりにして、頭に引っかかってた疑問が蘇る。
政権交代以降、日本はバブル経済以来の好景気。
それを実現したのは、【日本人ファースト】の外交政策。
そんなことをして大丈夫なのか気になってはいた。
大丈夫なわけがない。
アメリカ、中国、ロシアに囲まれた日本が紛争地帯でないのがそもそも不思議なんだ。戦後日本は資金力を巧みに使ったバラマキ外交で世界から平和を買っていたんだ。
そして、移民と外国資本を【人質】として国内に飼うことで国土への侵略を防いでいたんだ。
国を守るための外交政策をテロ政権で無理矢理止めたジョン=スミス。
その依代の彼女は確かに言っていた。
『ジョン=スミスは私の想いを受け止めてくれる』
性的虐待で傷つけられた女の想いを、全知全能の人工人格が受け止めたらどうなる。
ジョン=スミスは、日本を、世界を滅ぼすつもりだ!
「止めないと! 美味しいお酒が飲めなくなる!」
一升瓶を咥えて、胃袋に推進剤をイッキ投入。
「喪魔法奥義! 【喪女の深酒嘔吐逆噴射】!」
オェェェェェェェェェェェェ ゲバァァァァァァァ
超音速で噴射した吐しゃ物の反作用で減速に成功。
不衛生だけど、涙の勢いをお酒で止める。呑み方としては間違ってない。
対地速度が落ちたことで高度が下がり大気の層に潜る。
空気抵抗が発生し減速が進む。大気圏再突入だ。
31歳最後の日。
宇宙から日本に帰り、【魔法喪女】のテロ奥義で日本の政治の暴走を止める。
【売国奴】と叩かれながらも、今まで日本を守っていた人達を消したのは私。
このままでは日本という国が世界地図から消されてしまう。
だから、私がやらなきゃ。
でも、それをしたら、私はどうなるの?
そもそも、私は、何がしたかったの?
●オマケ解説●
何かと頭の回転が速いテルコさん。
軌道上から見下ろした日本列島の小ささより、地政学的なリスクに気づく。
アメリカ、中国、ロシアのデンジャラス3大国に囲まれた小さな島国。
そんなところで世界中から金融資産を集めまくって、【日本人ファースト】とか言って好き放題やってたらどうなるか。
集めたお金が技術やサービスに対する正当な対価だったとしても、そんなの関係ありません。
31歳最後の日に日本の危機に気付いてしまったテルコさん。
さぁ、どうする。
ひどい。ひどい。




