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喪之十二 願望喪女は出会いを求める

高天たかま先輩。ちょっとコレ奥の席で隠し持っててください」

「一升瓶? 高木さん。また持ち込んだの?」


 誕生日を明日に控えた日の夜。前職の後輩に欠員補充の名目で誘われた合コンにて、持ち込み酒類の隠蔽を任された私は、


 高天たかまテルコ 31歳 願望喪女デザイア・ヴァージン


 飲み屋への酒の持ち込みはNGだけど、酒好きな高木さんは常習犯。

 まぁ、今日も大人しく加担しておこう。


 今回の私の目的は【身近な出会いから親睦を深める】だ。


 人数は4対4で女は私が最年長。男は20代2人、30代2人といったところか。ターゲットは最年長ぽいイケメンかな。

 

 そんなことを考えていたら、スマホにジョン=スミスからのメールが着信。

 開いてみると、ニュースサイトの記事が貼り付けてあった。


【[緊急速報] ワシントンD.C.にて爆弾テロ発生】


 なんのこっちゃ。

 いや、大事件ではあるけど。


「先輩。はじめますよー」


 まぁいいや。後で聞いてみよう。

 今は【身近な出会いから親睦を深める】に集中だ。


…………


 乾杯の合図から合コンはスタート。それぞれの自己紹介から始まったが、最年長イケメンの自己紹介が濃すぎて皆でそれを聞く流れに。


原口はらぐちさん、ガンから生還したんですか?」

「えぇ。悪性リンパ腫というやつなんですがね。3年程闘病しましたが、昨年完治しまして」


 まだ若いのに、ガンとかなるんだ。


「治療って、手術ですかぁ?」

「摘出手術の後に抗がん剤治療ですね。全身痛くて、苦しくて、頭髪も全部抜けて……。まぁ大変でしたよ」


 よく知らないけど、抗がん剤って副作用スゴイって聞くなぁ。


「治って退院した後、最初に何したんですかぁ?」

「丁度去年の今頃かな。厳しい食事制限も解除されたので、カフェにケーキ食べに行ったんですよ」


 ガン治療って、食事制限もあるんだ。怖いなぁ。


「そこで、ひどいことを言われましてねぇ……」


 原口はらぐちさんがちらりと私を見る。

 その目元と口元から、1年前の記憶が蘇る。


「あーっ! あの時の【ハ●男】!」


 会場の空気が凍った。

 

 私に視線が集まる。

 高木さんが意味深な表情で私を見ている。


 まさか、これは【断罪】の仕込みか!


 1年前、ジョン=スミスに失礼かまされた勢いで、カフェで【●ゲ】と呼んでしまったあの男。あれは、抗がん剤治療の副作用で●ゲていたのか。


 闘病生活から生還した男を、公衆の面前で罵倒していたのか私は。

 悔恨の念が沸き上がり、涙が溢れそうになる。


 やっぱり、私みたいな【喪女もじょ】は出会いの場に相応しくないんだ。


「……もう二度と合コンに呼ばないでね」


 悲しいけど、ここには居られない……。


「喪魔法奥義! 【喪女涙噴推機関ヴァージン・クライ・スラスター】!」


 ドカーン


 私は、溢れ出す涙の力で秋の夜空に飛び出した。

●オマケ解説●

 【喪女もじょ】も【ハ●】も失礼な言葉に変わりはないけど、【喪女もじょ】が自業自得なのに対して【●ゲ】は不可抗力。失礼の次元が違います。

 律儀なテルコさんは自分の犯した過ちを悔いて、空に飛び出してしまいました。


 幹事の態度から察するに、ある種の仕込みだったかもしれない。

 でも、【断罪】なんて誰も言ってないよ。


 むしろそこから【身近な出会いから親睦を深める】じゃないかなぁ。

 せめて空に逃げる前に一言謝ろうよ。


 【喪女もじょ】というのは、本当に、自業自得なんですねぇ。


 ひどい。ひどい。

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