喪之十一 家庭喪女は門出を見送る
「ハンカチとティッシュ持った? あとパスポート。知らない人について行っちゃダメよ。困ったときには大使館に行くのよ」
「大丈夫ですよ。じゃ、行きます」
北米旅行に行くという同居人のジョン=スミスを母親のように見送る私は、
高天テルコ 31歳 家庭喪女
八つ当たりでうっかり押し倒してしまって、ジョン=スミスの身体が女性であることを知ったのが1カ月前。
本名は教えてくれなかったけど、彼女は施設育ちの16歳だとか。
短時間だけどHMDナシで喋れるようになったことで【パスポート】の取得に成功したと。それで、一度行きたいと夢見ていた海外旅行に旅立った。
【喪女】なのに娘の門出を見送る気分で送り出してしまった。
「若い娘一人で海外旅行とか。……心配だわ」
見送って一人部屋に残ると、途端に寂しくなる。
「寂しいけど、1週間の我慢だ」
カレンダーを見て、思い出したくないことに気付いてしまった。
「ジョン=スミスが帰ってくる頃には、私は32歳かぁ……」
崖っぷち31歳。
離職して男に逃げられてテロリズムに加担して、散々な目にも遭ったけど、フリーランスの仕事で顔見知りは増えたし。何より、ジョン=スミスに会えたのは悪くなかったな。
「それでも男に縁が無かったのは、まぁ【喪女】らしくて、いいか」
『モテないと嘆いて【喪女】とか自虐する前に、身近な出会いから交流を深める努力が必要だろうとツッコミたい』
「身近な出会いが皆無だから【喪女】なんだよ! って何? 誰?」
何処からともなく脳裏に響いた男の声。
反射的に反論してしまったけど、部屋には私以外誰も居ない。
【魔法喪女】として散々超常現象起こしてきたから、今更異世界からのツッコミが聞こえても不条理を感じたりしないけど、ツッコミの内容が心に刺さりすぎる。
トゥルルルルルル トゥルルルルルル
心に刺さったツッコミに軽く悶えていたら、スマホに着信。
前職の後輩からだ。何だろう。
ピッ
「ハイ、高天テルコです」
『お久しぶりです先輩。高木です。突然ですが、合コンに参加してもらえませんか? 明後日なんですけど、欠員出ちゃって……』
普段の私なら速攻断る。
だけど今は、さっきの異世界からのツッコミが刺さっているので……。
「……参加させていただきます」
『ありがとうございます! 助かります!』
高木さんは確か27歳。多分私がメンバー最年長。
【身近な出会いから交流を深める】
私もチャレンジしてみるか。【喪女】からの【門出】。
●オマケ解説●
脳裏に響いたツッコミの発信源は一体何処だ。
出会う手段に恵まれているこの時代、出会いが無いなんてのは言い訳です。自分を客観視する頭と、相手を思いやる心さえあれば【喪男】【喪女】になったりしないんですよ。
崖っぷち31歳は、誕生日を目前に崖から落ちるのか、はたまた空へと舞い上がるのか。
合コンへのチャレンジの行方は如何に。
そして、ジョン=スミスの挨拶。
『行ってきます』ではなく、『行きます』だった。
その真意は?
ひどい。ひどい。




