喪之十 暴走喪女は闇を見る
「……【女】じゃないですよ……。子宮も卵巣もナイから」
「えっ?」
【喪女裁判】で無罪を言い渡された後で、つい出来心で同居人のジョン=スミスを押し倒してしまい。その体格と素顔に驚愕している私は、
高天テルコ 31歳 変態喪女
「ガイジンの理事長が躰を可愛がってくれまシテ。でも、証拠消すため無茶シてくれテ、全部腐っちゃいましたぁ……」
素顔のジョン=スミスが、片言でよくわからないことを言い出した。
本当にどういう事?
「ジョン=スミスはね。クラウド上で動く全知全能の人工人格。AIなの。私達は、知能が宿らなかった重度知的障碍児の身体で作った依代」
「私達……?。じゃぁ、ジョン=スミスは何人も居るの?」
「同時に動くのは1人だけ。私は3人目。前の2人は男の子だったの。残念だったねテルコさん」
気付かなかった。
身長も、雰囲気も同じで、何よりあの大きなHMDばかりが気になって。
「全知全能の人工人格って、誰がそんな物を作ったの? 何のために」
「作ったのは神槍ソウスケ。【世直し】のためって言ってたの」
与党になった【愛政党】の代表者だ。テロリズムの黒幕はそいつか。
気の毒な子供達にヘンテコな細工をして政治利用するなんて、とんでもない奴だ。
「……自分で喋れたのは初めて。ジョン=スミスを演じてるうちに知能が芽生えたのかも。でも、優しかった理事長にナニをされていたか、なんで殺されたか、知りたくなかったなぁ……」
素顔のジョン=スミスが、寝転がったまま静かに涙を流し始めた。
言葉にならない。
「健常に産まれて、普通に学校に通って。テルコさん幸せですね。なんで【喪女】なんてやってるんですか? 男の子、居たんでしょ? テルコさんは喋れたんでしょ……。何でですか?」
それは、確かにそうだ。何でだろう。何とでもできたはずなのに。
「私に、HMDを付けてください」
「そんな。喋れるようになったなら、依代じゃなくて1人の人間として生きてもいいんじゃないの?」
詳しくは分からない。
だけど、人間を依代として使うなんて、ジョン=スミスは明らかに非人道的な技術だ。
「ジョン=スミスは私の想いを受け止めてくれる。今は【私】そのものなの」
私は、彼女の顔の涙を拭いて、HMDを装着した。
動き出したジョン=スミスは、おもむろに服を脱いでシャワーを浴びに行った。
サラシやら体型擬装用の布やらを取った身体は、長身ナイスバディでボインバインだった。
下腹部の大きな手術跡が痛々しかった。
彼女は、ボインバインが無ければ傷つけられずに済んだのだろうか。
●オマケ解説●
文明が進歩しても、新たな命は神からの授かり物であるのだろう。
産まれてくる子供全てが健常ではないのは、神の気まぐれか、はたまた警告か。
様々な事情を抱えて親元に残れなかった子供達は、民間に委託された児童養護施設に送られる。
施設の職員達もまた訳ありな人達。薄給激務ながらも子供達を我が子のように大切に育てる。
しかし、収益目的で事業所を買い取った外国籍の理事長にしてみれば、喋れない大きな女児は都合のイイ玩具に過ぎなかった。
権力で内部告発すら封じる悪意から大切な子供達を守るため、職員が選んだ捨て身の【社会正義】。
人を殺していい理由なんて無い。
だけど、殺されても仕方ない理由はあるんです。
社会に大切に守られるべき子供達が大人の悪意に翻弄される。
そして、傷つけられた魂は全知全能のジョン=スミスに想いを託す。
どうなることやら。
ひどい。ひどい。




