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喪之九 詐称喪女は訴えられる

高天たかまテルコさん。裁判の時間ですよ」

「えっ? 私、いつ提訴されたの?」


 朝食準備中に玄関のチャイムが鳴ったからドアを開けたら、般若の面を装着した巫女服姿の女3人に押し入られて、3方向から竹刀を突きつけられている私は、


 高天たかまテルコ 31歳 被告喪女オフェンダー・ヴァージン


 怪しさ満点の3人にリビングで囲まれつつも、訴えられる心当たりはあるのでちょっと冷静な私。

 ジョン=スミスから頼まれた仕事とはいえ、テロ行為への加担でヤバイ事をした自覚はあるのだ。


「ちなみに、どんな罪状でしょうか」


「男と同棲しながら【喪女もじょ】を名乗った罪!」

 「【喪女もじょ】の定義を揺るがす重罪!」

  「貴女に【喪女もじょ】を名乗る資格は無い!」


 なんじゃそりゃぁぁぁというツッコミは一旦飲み込もう。私は31歳の大人だ。


「えーと、それの法的根拠は? あと、貴女あなた達は一体何なんでしょうか。」


「これは【喪女裁判もじょさいばん】。法的根拠は不要!」

 「私達はM(模範)M(喪女)M(マ行の姉妹)。【喪女もじょ】の定義の守護神!」

  「マ行じゃないのが1人いるけどね」


 法的根拠が無いんだったらそれ裁判って言わないよ。

 同じ背丈、同じ声で【豊乳ほうにゅう】ボインバインな若い娘3人。

 姉妹らしいが意味が分からない。


 ガチャ


「テルコさん。何の騒ぎですか……ってあれ?」


 部屋からジョン=スミスが出てきた。

 般若巫女3人が注目する。


「無罪!」

 「取り下げ!」

  「釈放!」


 どうやら許されたようだけど、私の裁判はどのプロセスだったのか分からない。


「【喪女もじょ】を名乗ることを許しましょう」

 「貴女あなたこそ【喪女もじょ】と呼ばれるにふさわしい」

  「完璧な【喪女もじょ】です。より精進してください」


「えーっと、そりゃどうも……」


 竹刀装備の般若巫女達はすごすごと帰っていった。


 あんまりな状況から解放されて冷静になると、やりきれない思いが溢れてくる。

 【喪女もじょ】の詐称って、テロ行為より重罪なのか?


 ボインバイン共に【喪女もじょ】認定受けた不条理。


「私の方がよっぽど(モブヅラ)(モブキャラ)(喪女)じゃい」


 私だって、あのボインバインがあれば。ボインバインさえあれば。

 あんまりな扱いに、なぜか男の硬い胸板に顔をうずめたいという欲望が沸き上がる。


「ジョン=スミス! 何も言わずにハグさせて!」

「テルコさん! ちょっと待って!」


 ジョン=スミスは逃げようとしたけど、逃がさん!


「喪魔法奥義! 【喪女の八つ当たりヴァージン・ヤンデレックディザスター】」


 ドカーン


 謎の奥義でジョン=スミスをベッドに吹っ飛ばし、横たわった細身で長身のボディに飛び込んで捕獲。


 バィィィーン


 抱き着いた胸板に違和感のある感触を感じて飛びのく。


 ベッドに横たわったジョン=スミスの顔からHMDヘッドマウントディスプレイが外れており、初めて見る素顔が虚ろな目線で私を見ていた。


 そして、その顔つきは、美女だ。


「ジョン=スミス……。アンタ、女だったの?」 

●オマケ解説●

 ボインバインの無い貧乳モブだから【喪女もじょ】になったというのはとんでもない勘違いです。


 男は勝手な生き物。スポーツカーで一度遊んでみたいと思うけど、実際買うのはコンパクトカーかミニバン。

 女の扱いもそれに近くて、ボインバイン美人と一度遊んでみたいと思うけど、嫁にするなら何かとコスパ高くて盗られる心配のない【モブ女】。


 モブ顔がモブと呼ばれるぐらいにモブとして市中に溢れているのは、歴代のモブ女達が遊び遊ばれな美人共を蹴落として【嫁】の座を勝ち取り子孫繁栄を成し遂げてきた証なのだ。


 モテ要素と言えるモブ属性を持ちながらも【喪女もじょ】になってしまったなら、それは明らかな自業自得の自己責任。


 【妻】になれる素質を活かせずに人生を無駄にしたならもはや罪。

 それこそ【喪女裁判もじょさいばん】に値します。


 ひどい。ひどい。

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