表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

工場は死角が多い

 昼休みが終わるまで、まだ5分ほど時間があったが、高木は少し早めに部材倉庫へ向かった。午後からの作業に備えておこうという気持ちもあったが、それ以上に、食堂で無駄に時間を潰すのが嫌だった。


 倉庫の中は静かで、ひんやりとした空気が漂っていた。高木は適当なパレットに腰を下ろし、チャイムが鳴るのを待った。


 すると、不意に音がした。


 棚の向こうにある空調機械室の扉が開く音だった。


(誰かいるのか……?)


 あそこは空調設備が置かれた狭い空間で、普段、人が入ることはほとんどない。たまに置き場に困った不用品を仮置きするときぐらいだ。昼休みに入る理由はないはずだ。


 高木は反射的に気配を殺し、棚の陰からそっと様子を窺った。


 出てきたのは、平末と美樹だった。


(は……?)


 思わず息を呑んだ。


 二人は何気ない顔で周囲を確認しながら扉を閉めた。やましいことはない、と言わんばかりの態度。しかし、高木の目の前で起こった出来事が、その「何気なさ」を裏切った。


 平末が軽く美樹を抱き寄せた。


 美樹も、それを受け入れるように身を寄せた。


 一瞬のことだったが、はっきりとハグを交わしていた。


(マジかよ……)


 高木は咄嗟に身を伏せ、パレットの上に寝そべった。心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。


(あいつ、沙耶と付き合ってるんじゃなかったのか?)


 ただの同僚同士で、わざわざ人目につかない空調機械室に二人で入るだろうか? しかも、あの親しげな雰囲気……。


(ふざけんなよ……)


 胸の奥がざわざわと波立つ。怒りなのか、嫉妬なのか、あるいは別の感情なのか、自分でもよく分からなかった。ただ、もやもやとした塊が腹の中で膨らんでいくのを感じた。


 やがて、平末と美樹はそのまま別々の方向へ歩いていった。高木はそっと頭を上げ、二人の背中を見送った。


(なんなんだよ、あいつ……)


 静かな倉庫の中に、高木のやるせない気持ちだけが取り残されていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ