派遣社員の休日の過ごし方
休みの日、高木はショッピングモールのフードコートへ足を運んだ。目的は、手元にあったラーメンの割引券。
(200円引きで食えて、しかもライス無料。しかもお替り自由! 最高じゃねぇか)
金のない派遣社員にとって、こういう店はありがたい。高木は迷わずカウンターでラーメンを注文し、ライスももらった。
まずはラーメンをずるずるとすする。スープは濃いめの醤油味で、なかなか悪くない。麺を食べ終えたら、残ったスープにライスを投入する。レンゲでかき混ぜ、一気に口へ運ぶ。これがまた美味い。無料ライスをお替りし、もう一杯。さらにもう一杯。結局、ライスを3杯も平らげてしまった。
(ふぅ……。食った食った)
満足感に浸りながら席を立ち、フードコートを後にする。満腹になった腹をさすりながら、モールのレストラン街を歩いた。
高級な店ばかりが軒を連ねている。ステーキ、てんぷら、寿司……。どれも自分には縁がない。なのに、どの店にも行列ができている。
(よくこんな高い店に並ぶ気になるよな……。金持ちは違うぜ)
そんなことを考えながら歩いていたとき、ふと目の端に見覚えのある顔が映った。
平末と沙耶だ。
二人はパスタ店の行列に並んでいた。それだけなら偶然の出会いで済んだかもしれない。だが、高木の視線は、二人がしっかりと手を繋いでいるところで止まった。
一瞬、思考が止まる。
(あ……?)
目を疑った。しかし、間違いない。沙耶は平末の腕に軽く寄り添いながら、楽しそうに笑っている。平末もまんざらではなさそうな顔をしている。
高木の胸の奥から、ズンと重い何かが湧き上がってきた。
(あいつ……。沙耶と付き合ってんのかよ……)
心のどこかで予感はしていた。沙耶は平末を頼りにしていたし、平末もまるでヒーローみたいに振る舞っていた。だが、それが現実となって目の前に現れると、どうしようもなく悔しさがこみ上げてくる。
(こっちは200円引きのラーメンでライス3杯食ってんのに、あいつらはパスタの店でデートかよ……)
あまりにも違いすぎる。
高木は二人に気づかれないように、さっと身を潜めた。視線を落とし、足早に通り過ぎる。
(なんだよ……。なんだよこれ……)
心の中で繰り返し呟きながら、出口へ向かって歩く。その足取りは妙に重かった。