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派遣社員の扱いは軽い

 勤務が終わり、高木はスマホに届いたメールを思い出した。

『配布物があるので仕事の後に駐輪場の前に集まってください』

 送信者は派遣会社の管理担当者、恵里香だった。


 仕方なく駐輪場へ向かうと、すでに20人ほどの派遣社員が集まっていた。しかし、肝心の恵里香の姿がない。


「なんだよ、まだ来てねぇのか?」


「メールで呼び出しておいて遅刻かよ」


 ざわつく派遣社員たち。仕事終わりで疲れているのに、ただ立って待たされるのは正直、腹立たしい。しばらくすると、誰かがスマホを見ながら「渋滞で遅れてるって」と言った。


「はぁ? だったら早めに連絡よこせよ」


「こんなに待たせるなら、もう帰るわ」


 不満を募らせた数人が「やってらんねぇ」と言いながら帰ってしまった。


 高木も苛立ちを感じていた。待ち続けること30分以上。やっとのことで恵里香が姿を現した。小走りで駆け寄る彼女は、申し訳なさそうな顔をしていたが、それでも待たされた側の怒りがすぐに収まるわけではない。


「すみません、遅くなりました……。渋滞がひどくて……」


 そう言いながら配布物を取り出し、順番に渡し始める。だが、高木は受け取るとき、思わず強い口調になってしまった。


「こっちは仕事終わりで疲れてるんです。30分も立ちっぱなしで待たされる身にもなってください。夕方は渋滞するの当たり前なんだから余裕をもって出てくださいよ。それに、もう少し早めに連絡するくらいできたんじゃないの?」


 周りの派遣社員たちも「ほんとそれ」「もう少し考えてほしいよな」と口々に言い出す。


 恵里香は困ったように「本当にすみません……。今後は気をつけます」と頭を下げたが、高木の苛立ちは完全には消えなかった。


(こういうとき、派遣社員って軽く扱われるんだよな……)


そんなことを考えながら、配布物を手にし、高木は無言で駐輪場を後にした。



 高木はアパートまでの帰り道を歩いていた。勤務後の疲れた体に、さっきの出来事がじわじわと重くのしかかる。待たされたイライラはまだ完全には消えていない。それでも、時おり吹く風が少しだけ気分を落ち着かせてくれる気がした。


 信号待ちの横断歩道で立ち止まったとき、ふと目の前の車列に目を向けた。そこに見覚えのある軽自動車があった。恵里香の車だった。


 なんとなく車内を見ると、助手席に見慣れた顔があった。


 平末だった。


 リラックスした様子で、助手席のシートに体を預けている。何か話しているのか、笑顔で口を動かしているのが見えた。恵里香もハンドルを握ったまま、楽しそうに相槌を打っている。


 平末のインターン先を紹介したのは、高木と同じ派遣会社だった。つまり、恵里香が平末の担当もしているのだろう。だからこうして社員寮まで送っていくのかもしれない。


(どうせなら、俺も送ってくれよ……。同じ方向じゃないか……)


 心の中でぼやいてみても、もちろんそんなことは叶わない。平末は大学生で、これからの未来が開けている。一方の自分は、派遣社員としてただ働き続けるだけの日々。扱いの差なんて、言われなくても分かっていた。


(結局、そういうことなんだよな……)


 信号が青に変わり、高木は黙って歩き出した。軽自動車のエンジン音が遠ざかっていくのを聞きながら、胸の奥にまた一つ、もやもやとした塊が残るのを感じていた。

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