婚期を逃した派遣社員の美樹
美樹は38歳の派遣社員だ。仕事には慣れ、職場でも信頼されているが、心の奥では焦りを感じていた。気づけば周りの友人たちは次々と結婚し、家庭を築いている。今までに8人の男と付き合ってきたが結婚には至らず、時間だけが過ぎていった。
(次の恋愛は、最後にしなきゃ……)
そんな思いが強くなるほど、相手選びには慎重になる。だが、工場の製造ラインには目を引くような男性はいなかった。既婚者か、独身の男性はどこか冴えないか、年下すぎるか。どちらにせよ、恋愛対象にはならなかった。
そんなとき、美樹の前に現れたのが平末だった。
最初に見たとき、思わず目をひかれた。若々しく爽やかな雰囲気を持ち、穏やかな笑顔が魅力的だった。現場の作業員に対しても気さくに接し、パソコンの操作やシステムについて的確にアドバイスをしている。その姿は、自分よりもずっと大人びて見えた。
(こんな子がインターンに来るなんて……)
美樹の胸が、久しぶりにときめいた。
だが、すぐに現実が頭をよぎる。
(相手は大学生……。年齢差がありすぎる……)
平末は22歳、自分とは16歳も離れている。彼の未来には、まだたくさんの選択肢がある。そんな若い男が、自分のようなアラフォーの女性を結婚相手に選ぶことなんてあり得るのだろうか?
(無理に決まってる……。でも……)
恋愛に慎重になりすぎて、結局何も始まらずに終わる。それだけは嫌だった。
(だったら、年齢なんて気にせず、まずはアプローチしてみてもいいんじゃない?)
美樹はそう決意した。
翌日、休憩室でコーヒーを飲んでいた平末に、彼女はさりげなく声をかけた。
「ねえ、平末くんって、休日は何してるの?」
平末は少し驚いたようだったが、「最近はプログラミングの勉強とか、映画を観ることが多いですね」と笑った。
(映画か……。共通の話題を作れそうね)
美樹は微笑みながら、「私も映画好きなの。おすすめとかある?」と会話を広げてみた。
平末は嬉しそうに何本かの映画タイトルを挙げた。美樹は「じゃあ、今度その映画について語り合いましょう」と軽く誘いを入れた。
年齢の差を考えれば、結婚相手としては厳しいかもしれない。それでも、ただ見ているだけで終わるのは嫌だった。どう転ぶかは分からない。後悔だけはしたくない。
(まずは距離を縮めることから……)
そう思いながら、美樹は平末との会話を楽しんでいた。