40歳の派遣社員の高木
高木は40歳の派遣社員だ。工場での仕事には慣れており、バーコード端末の製造ラインではパソコンの扱いに詳しいと頼りにされていた。誰かがパソコン操作に手間取ると、高木が呼ばれることが多かった。「こうやるんだよ」と教えるたび、感謝されるのが少し誇らしかった。派遣社員という立場上、大きな裁量はないが、「頼られる存在」でいることで、自分の居場所を感じられていた。
しかし、その状況はインターン生の平末がやって来てから一変した。
平末は大学4年生で、システム開発を担当している。プログラミングもでき、パソコン操作に関しては自分よりも遥かに詳しい。最初のうちは「インターン生なんだから現場のことは分からないだろう」と思っていた。だが、彼はすぐに仕事に馴染み、的確なアドバイスをしながら、工場のシステム改善に取り組んでいった。
ある日、高木は休憩室へ向かう途中で、ふと目に入った光景に足を止めた。
沙耶が平末に相談している。
以前なら、こういうときは高木が呼ばれていたはずだ。しかし、今は平末が隣に座り、穏やかにアドバイスをしている。軽やかにキーボードを打つたびに、沙耶の表情がぱっと明るくなり、「ありがとうございます!」と笑顔でお礼を言っている。
その笑顔を見て、高木の胸の奥に、チクリとした感情が生まれた。
(なんで平末なんだよ……)
それだけではない。最近は他の同僚たちも、パソコンのことで困ると高木ではなく平末を頼るようになっていた。まるで、自分の役目を奪われたような気がしてならなかった。
(俺のほうが長くここにいるのに。今までずっと教えてきたのに……)
平末はまだ大学生で、工場に来て間もないインターン生だ。それなのに、周囲から自然に受け入れられ、楽しそうに会話をしている。自分ももっと打ち解けたいと思っているのに、年齢のせいか、派遣社員という立場のせいか、それともただ話し方が下手なだけなのか。どれも正解のような気がして、余計に気が重くなる。
(俺だって、もっと普通に話せたら……)
高木は何とも言えない気持ちのまま、その場を離れた。嫉妬なんてみっともないと思いつつ、胸の奥に残ったモヤモヤが簡単には消えそうになかった。