新入社員の沙耶
沙耶はこの春、高校を卒業して電子機器工場に入社した。今は研修期間で、バーコード端末の製造ラインに配属されている。慣れない作業に戸惑いながらも、少しずつ仕事を覚えていく毎日だ。
研修の一環として、作業内容や学んだことを日報にまとめる必要がある。しかし、パソコンの操作が苦手な沙耶は、文字の入力や表の作成に時間がかかり、いつも最後まで残ってしまう。ある日、特に難しいデータ入力があり、どうすればいいか分からず困っていた。
そのとき、工場のシステム開発チームのインターンとして現場を訪れていた平末が、偶然その様子を目にした。
「大丈夫? 何か手伝おうか?」と声をかけられ、沙耶は少し戸惑いながらも「すみません、これがうまくできなくて……」とパソコンの画面を指さした。
平末は沙耶の隣に座り、優しく説明してくれた。
「この表は、ここのセルをコピーして貼り付ければいいよ」
「ショートカットキーを使うと早いんだ」
彼の指先が軽やかにキーボードを打ち、沙耶が苦戦していた作業を数秒で終わらせてしまう。その手際の良さと、分かりやすい教え方に思わず見とれてしまった。
「すごい……」とつぶやくと、平末は少し照れくさそうに笑った。
「最初は誰でも時間がかかるよ。でも、慣れたら大丈夫だから」
その笑顔に、沙耶の胸がふわりと温かくなる。こんなに優しくて頼りになる人がいるなんて……。気づけば、平末のことをもっと知りたいと思っていた。
それから沙耶は、パソコン作業がうまくいかないとき、つい平末の姿を探してしまうようになった。平末が現場にいると、それだけで心強く感じる。また教えてもらえる機会があればいいな。そう願いながら、沙耶は少しずつ、仕事にも自信を持てるようになっていった。